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残飯
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皆木冬馬は大人しかった。車に乗せられ初瀬の家に着くまで、無駄口を叩くことも暴れることもなく、言われるがままに行動していた。初瀬を見る目は相変わらず生意気ではあったが、これは単に目つきが悪いだけなのかもしれないと初瀬はマンションの鍵を開けながら思った。
「送迎ご苦労。あとは俺がやる」
「はい!お疲れ様です!おい、皆木。初瀬の兄貴に迷惑かけたらタダじゃおかねえからな」
皆木を玄関先まで連行した組員は強く凄んでから去って行った。組員からしたらいきなり若頭の家に住み込みの子分が増えることになってしまったのだから、面白くないのだろう。
一方、凄まれた皆木は表情を大して変えずに「へーい」と小さく答えて、初瀬を見上げた。
「おにーさん、すげえマンション住んでんね。タワマンじゃん。金持ち~」
「敬語使え。おにーさんじゃなくて初瀬だ。飼い主の名前くらい覚えろ」
皆木の背中を蹴って部屋の中に入れて、鍵を閉める。適当に着せられたスウェットはサイズがあっておらずダボダボで、皆木が靴を脱ぐために少し屈んだだけで襟ぐりから痩せた腹まで見えた。
リビングに入ると、初瀬の後ろをついてきた皆木は「すげえ広い」と呟いて室内を見渡した。その様子は職場の先輩の家にお邪魔した後輩のようだった。組長に売りを仕掛けて組員にボコられた挙句、ヤクザにも人の心がないと評される若頭の元に押し付けられた未成年とは思えない。
「皆木。組長命令だから仕方なくお前を飼うが、俺の言うことを聞けなきゃ殺す。これは脅しじゃない」
「殺されんのはイヤなんで、言うこと聞きますよ。あ、ヤクザのマナーとかはわかんねえけど」
皆木は全然平気という顔をしていて、何の意思も感じない。目つきは悪いし礼儀はなってないが反抗的なわけでもない。ヤクザに連行されて勝手に飼うだの殺すだの言われて怒りも恐怖も感じないなんてことがあるのか。ただのガキかと思ったが図太くて厄介なやつかもしれないと、初瀬は疲れた頭で皆木をどう扱うか思考を巡らせた。
(今日中に殺っちまう可能性もある。初日じゃ流石に面目が立たねえが……。いや、そんなことより面倒なのは死体の片付けか)
どこで殺せば掃除が楽か、という殺す前提の計画を考えていると、リビングを見渡していた皆木は暇になったのか爪を噛み始めた。無意識にやっている仕草に、家が貧乏だった小学校の同級生がちらつく。
「それやめろ。見てて不快だ」
「え?あ、爪か。さーせん、これクセで。客にも評判悪いんだけどついやっちゃって……あ、それ食ってもいいっすか」
爪を噛むのをやめた皆木は、話しかけられたついでにか、テーブルの上に置いたままになっていたカップ麺の容器を指差した。初瀬が深夜に食って片付けを怠っていたものだ。
「食い終わったゴミだ。食うとこなんてねえよ」
「でも汁残ってるでしょ?それでいいから食いたい」
残飯とも言い難い冷めきった残り汁を、皆木は本当に飲みたそうにしている。生ゴミを欲しがるくらいで同情するほど初瀬は優しくないが、仮にも住み込みの子分なのだから余りにもみすぼらしくされていては面子に関わる。
初瀬はカップ麺の汁をシンクに捨てて──背後から「は、捨てんの?!」という声がしたが無視した──棚に備蓄してあるカロリーメイトとゼリーを掴むと皆木に投げ渡した。
「食え。食い終わったら風呂入ってこい」
「え、コレ新品じゃん。食っていいの。あ、いや、いいんすか」
「食えって言ってんだからいいに決まってんだろ。早く食って風呂行け」
心底嬉しそうにカロリーメイトの箱を開ける皆木を横目に、初瀬はタバコを咥えた。皆木は痩身なのと喋り方のバカっぽさのせいでガキに見えるが、背はある程度ある。殺さずに済むなら子分として役に立つよう鍛えてやらないとか、と少しばかり人間らしいことを考えて煙を吐いた。
「送迎ご苦労。あとは俺がやる」
「はい!お疲れ様です!おい、皆木。初瀬の兄貴に迷惑かけたらタダじゃおかねえからな」
皆木を玄関先まで連行した組員は強く凄んでから去って行った。組員からしたらいきなり若頭の家に住み込みの子分が増えることになってしまったのだから、面白くないのだろう。
一方、凄まれた皆木は表情を大して変えずに「へーい」と小さく答えて、初瀬を見上げた。
「おにーさん、すげえマンション住んでんね。タワマンじゃん。金持ち~」
「敬語使え。おにーさんじゃなくて初瀬だ。飼い主の名前くらい覚えろ」
皆木の背中を蹴って部屋の中に入れて、鍵を閉める。適当に着せられたスウェットはサイズがあっておらずダボダボで、皆木が靴を脱ぐために少し屈んだだけで襟ぐりから痩せた腹まで見えた。
リビングに入ると、初瀬の後ろをついてきた皆木は「すげえ広い」と呟いて室内を見渡した。その様子は職場の先輩の家にお邪魔した後輩のようだった。組長に売りを仕掛けて組員にボコられた挙句、ヤクザにも人の心がないと評される若頭の元に押し付けられた未成年とは思えない。
「皆木。組長命令だから仕方なくお前を飼うが、俺の言うことを聞けなきゃ殺す。これは脅しじゃない」
「殺されんのはイヤなんで、言うこと聞きますよ。あ、ヤクザのマナーとかはわかんねえけど」
皆木は全然平気という顔をしていて、何の意思も感じない。目つきは悪いし礼儀はなってないが反抗的なわけでもない。ヤクザに連行されて勝手に飼うだの殺すだの言われて怒りも恐怖も感じないなんてことがあるのか。ただのガキかと思ったが図太くて厄介なやつかもしれないと、初瀬は疲れた頭で皆木をどう扱うか思考を巡らせた。
(今日中に殺っちまう可能性もある。初日じゃ流石に面目が立たねえが……。いや、そんなことより面倒なのは死体の片付けか)
どこで殺せば掃除が楽か、という殺す前提の計画を考えていると、リビングを見渡していた皆木は暇になったのか爪を噛み始めた。無意識にやっている仕草に、家が貧乏だった小学校の同級生がちらつく。
「それやめろ。見てて不快だ」
「え?あ、爪か。さーせん、これクセで。客にも評判悪いんだけどついやっちゃって……あ、それ食ってもいいっすか」
爪を噛むのをやめた皆木は、話しかけられたついでにか、テーブルの上に置いたままになっていたカップ麺の容器を指差した。初瀬が深夜に食って片付けを怠っていたものだ。
「食い終わったゴミだ。食うとこなんてねえよ」
「でも汁残ってるでしょ?それでいいから食いたい」
残飯とも言い難い冷めきった残り汁を、皆木は本当に飲みたそうにしている。生ゴミを欲しがるくらいで同情するほど初瀬は優しくないが、仮にも住み込みの子分なのだから余りにもみすぼらしくされていては面子に関わる。
初瀬はカップ麺の汁をシンクに捨てて──背後から「は、捨てんの?!」という声がしたが無視した──棚に備蓄してあるカロリーメイトとゼリーを掴むと皆木に投げ渡した。
「食え。食い終わったら風呂入ってこい」
「え、コレ新品じゃん。食っていいの。あ、いや、いいんすか」
「食えって言ってんだからいいに決まってんだろ。早く食って風呂行け」
心底嬉しそうにカロリーメイトの箱を開ける皆木を横目に、初瀬はタバコを咥えた。皆木は痩身なのと喋り方のバカっぽさのせいでガキに見えるが、背はある程度ある。殺さずに済むなら子分として役に立つよう鍛えてやらないとか、と少しばかり人間らしいことを考えて煙を吐いた。
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