インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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 掃除機をかけただけでなぜかテーブルの上の本とコップを床に落とした皆木は、初瀬に鉄拳を加えられながら割れたコップの処理をし、今度は朝食作りに挑戦していた。初瀬は朝食をまともに取るタイプではないので何も食べなくともいいのだが、冷蔵庫に残っている賞味期限が二日切れた卵を使ってしまいたかった。

「ハセさん、すげえ~。料理できるんすね。モテそう~」
「卵割っただけだろ。自分でやってみろ」
「え、オレ割ったことないッス。絶対失敗するよ、大丈夫?怒んない?」

 また怒られるんだろうと及び腰の皆木に残りの卵2個を任せて、初瀬はコンロの火でタバコをつけた。換気扇の方に煙を吐き出して壁にもたれかかる。誰かと料理をするなんて何年振りかわからず、抱くべき感情もわからなかった。

(とりあえず食料調達しておかねえと。……あと広辞苑か)

 この状況について考え始めると変な気分になりそうだったので、事務的な要件についてだけ考えることにして舎弟に連絡をする。日用品などの買い出しは基本的に舎弟の役割だ。皆木が使い物になるならいずれ皆木の仕事になるだろうが、まだそんな日が来るとは思えない。

「全然割れねーんだけど。ねえハセさん」

 早々に音を上げた皆木が割れない卵を見せつけて助けを求めてくる。すぐグチャグチャにすると思ったが、初瀬に殴られるのが嫌なのか日和が見えた。まぁ確かに生卵でキッチンをグチャグチャにしたら殴ろうとは思っていたので、皆木も皆木なりに怒られポイントを学習し始めているらしい。

「力弱すぎんだよ。ビビんな。こうだ、こう」

 口で言っても伝わらないだろうと、初瀬は咥えタバコのまま皆木の後ろに立つと、卵を持った手を自分の手で包んだ。そのまま調理台に当ててヒビを入れる。

「今の力加減だ。で、ヒビのとこに指入れて割る。両手使えよ」

 ついでだと思い、皆木の背後に立ったまま卵を割る様を確認する。失敗せずに割れたのを見て「ほらできただろ。次は1人でやってみろ」と離れると、皆木はゆっくり初瀬を振り返ってきた。

「……ハセさん、えっちすね」
「あ?何がだよ」
「いや今の。いつもこんな感じで女落としてんでしょ」
「女連れ込んで料理なんてしねえよ。そもそも卵割れないやつなんてお前が初めてだ」
「ええ?オレこのあと抱かれる?」
「今のどこにその流れを感じた?」

 これ以上皆木と喋っていると頭痛がしそうで、初瀬は「黙って卵割れ。そのあと箸で混ぜて、フライパンに油しいて焼け。焦がすなよ」と指示を並べてキッチンから離れた。
 タバコをテーブルの灰皿に押し付けて椅子に座ろうとした時、チャイムが鳴った。初瀬のマンションはもちろんオートロックのため、通常建物のエントランスで第一段階のインターホンが鳴らされるはずだが、今の呼び出し音は部屋のチャイムが鳴らされた音だった。
 初瀬はため息を吐いて座りかけたばかりの椅子から腰を上げる。

「あ、オレ出た方がいいすか」
「いやいい。誰だかはわかってる」

 フライパンに卵を流し込んだ皆木を遮って、初瀬は自ら玄関に向かった。一応ドアスコープで訪問者を確認し、想像通りの男が立っていたので二重の鍵とドアガードを外す。
 扉を開けた初瀬を、薄ら笑いの金髪男が出迎えた。

「おはよう、初瀬くん。朝からごめんね~」
「……いえ。おはようございます。会沢あいざわさん」
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