インテリヤクザは子守りができない

タタミ

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当たり前

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 『なんで大学なんて行ったんだ』という問いは、極道に堕ちてから幾度となく聞かれたことだった。ヤクザになった理由はほとんど聞かれない。ヤクザとその周囲を漂う底辺にとって、ヤクザになることは珍しくないからだ。それよりもずっと、大学に行ったことの方が珍妙な行動として扱われてきた。

「……それが当たり前だったから」

 毎回適当にはぐらかして終わらせる質問に、初瀬はなぜか初めて本音を口にしていた。皆木の空気感がそうさせたのかもしれない。

「ええ!?すげえ、貴族じゃん」
「俺の周りはみんな大学行ってたんだよ」

 本当に当たり前だった。父親も母親も姉も親戚も全員当たり前に大卒だった。クラスメイトに大学進学を選ばない者などいなかった。だから自分も大学に行った。親が医者だったから医学部を選び、遺伝と環境と運が良かったので合格した。
 思えばヤクザになるまで、自分の意思などなかったのかもしれない。自分で考えずとも他人が羨む人生が用意されていた。

(皆木とは正反対だったな)

 過去が脳裏に侵略してきて頭を振った。思い出したくないことを頭から消すため、皆木の顔を見て気をそらす。自分が両親の愛情と完璧な衣食住を得ていた年齢で、母親に捨てられて子どもを食い物にする気色の悪い大人に性を売っていた皆木に、抱きたくなかった同情が芽を出そうとしていた。

「親と仲良かった?」
「……別に。普通だよ」
「じゃあ仲いいじゃん。フツーなんて仲良くなきゃ言えないっすよ。オレは母親と仲良いも悪いもわかんないし。でもさ、大学行ったハセさんがヤクザになっちゃって親悲しみませんでした?あ、こんなこと言ったら失礼か。待って、謝るから怒んないで」
「無駄口叩いてないでさっさと食え。終わったら使ったもん洗えよ」

 やっと今までのようにはぐらかして、初瀬は残りの卵をかき込みながら会話を終わらせる。皆木に感情を動かされないように、食べ終わってすぐに立ち上がった。






 朝食が済んで皆木が洗い物を終える頃、組員から食材と広辞苑が届けられた。中をパラパラとめくって少し読んでから、食材を騒がしいテンションで冷蔵庫にしまう皆木を呼びつけようとすると、皆木の方から初瀬の元にやってきた。

「ハセさん。『りもん』って食いものですか?」
「りもん?なんだそれ」
「アイザワさんがくれたやつ。冷蔵庫しまった方がいいんかなって」

 皆木は『博多通りもん』の箱を掲げている。パッケージに書かれた平仮名の部分だけ読んでいるらしい。初瀬は嫌な予感がして開いていた広辞苑を閉じると、箱を取って漢字の部分を指差した。

「ここ。なんて書いてあるか読んでみろ」
「え、え~?わかんないです。漢字はキツイなぁ。あ、でもこれはタか?タタ、りもん?」

 皆木は『多』をカタカナの『タ』がふたつ並んでいると思っている。初瀬は広辞苑をテーブルに置いた。漢字がこれほど読めないなら辞書など引けない。皆木は初瀬の想像よりずっと手前にいる。
 首をひねる皆木を見て、初瀬の中から怒るとか呆れるとか馬鹿にするとかいう気持ちはどこかに行ってしまって、広辞苑の代わりにいらない裏紙とペンを皆木に渡していた。

「お前、自分の名前は書けんの」
「それくらいできますよ。バカにしちゃって」
「平仮名じゃなくて漢字で」
「……カンジで?」
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