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お勉強
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皆木は『何を言ってんだ』という顔で初瀬を見上げてペンを持ったまま動かない。初瀬は無駄に待つことはせずペンを取り上げて、紙に『皆木冬馬』と書いた。
「お前の名前は漢字でこう書くだろ」
「すご、なんで書けるんですか。大学行ったから?」
皆木の反応をスルーして、舎弟に小学生用の教材とノート、シャープペンと消しゴムを買っておくようにメッセージを送る。そろそろ買い物の内容を不審がられてもおかしくないが、初瀬は気軽に話しかけられる兄貴ではないので変な噂をされて終わるだろう。
「とにかく自分の名前くらい漢字で書けるようになれ。仮にも俺の子分なんだ。字もまともに読めない、書けないじゃ話にならねえ」
「ええ~マジすか……?まさかヤクザの子分になってベンキョーすることになるなんて……」
露骨にイヤそうな顔をするバカの肩を殴り「午後はシマの見回りに行く。それまで紙に名前練習しとけ」と命じると、皆木は渋々ペンを持った。
「頭いてえ……」
皆木は初瀬の運転する車の助手席で、頭を抱えていた。膝の上には初瀬の舎弟が買ってきた漢字ドリルと計算ドリル、そして学習帳が乗っている。見回りの道中、車内でドリルをやり始め、2、3年生用あたりまでは「こんなのヨユーですよ。今日でベンキョーなんて終わりにしてやります」と息巻いていたが、4年生になった途端黙り、現在帰宅する車内ではずっと頭を抱えている。
「漢字はとにかく紙に書いて覚えるしかない。『皆』の上の部分がずっと間違ってる。計算はそこ、何で割ればいいのか考えろ。2年生の応用だろ」
「そんなチラ見でズバズバ言わないでくださいよ~難しいんだって~」
信号待ちでアドバイスをする初瀬に皆木は涙目を見せてくる。泣いても勉強は免除にならないので初瀬は無視をして、マンションへアクセルを踏んだ。
駐車場につき部屋までエレベーターで上がる最中も皆木はずっと鼻に皺を作ってドリルを見ていた。諦めて投げ出すと思っていたが、意外と負けん気はあるようだ。
「ハセさん。ちょっといいすか。いちおう、聞くだけ聞きたいんですけど」
部屋に着いたらちょうど夕飯時だったので飯を作れ──とはいえ買ってある総菜を温めるくらいだが──と皆木に言うと、計算ドリルを睨んでいた皆木がそう言った。
「ほんと、万が一にもありえたら悪いから聞くんですけど」
「なんだよ。早く言え」
歯切れの悪い様子を見て、簡単な計算で躓いて質問をしたいけど恥ずかしいとか思っているのかなどと考えながら、初瀬は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲んだ。ちょっとは優しく教えてやってもいいと顔を向けると皆木は神妙な顔をしていた。
「今からトイレでシコるんですけど見ます?」
「ぐっ──ゲホ!!いきなり何聞いてんだ、テメエ……!見るわけねえだろ!」
意味不明な問いかけに初瀬はむせながらペットボトルを投げた。生意気な反射神経でそれを避けた皆木は、降参の意で頭を手で覆う。
「ちょ、怒んないで!ハセさんは見ないかなと思ったけど!でも今までみんな見たがってたから!」
「お前の言う『みんな』と俺を一緒にするんじゃねえ!つーかどういうタイミングで抜きたくなってんだよ、まず飯作れ!」
「あ、ハセさんは寝る前派?もし寝る前に抜くならオレ手伝うんで呼んで──イタ!ほんとに痛い!ちがう、これはセーセッタイってわけじゃなく──」
「もういい、抜くなら今やってこい!5分で終わらせろ!」
何やら言い続ける皆木を蹴って廊下へ追い出す。ドアを思い切り閉めれば、防音性能の高い部屋は静寂に包まれた。
「……なんなんだ、本当に」
自慰を見せるってなんだ。皆木の様を見てどうしろというんだ。と、初瀬は想像しかける自分に気づいてこめかみを押さえた。投げたペットボトルを拾って、水を飲み干す。
「……飯ができるまで寝よう」
皆木の行動にいちいち驚いていては身が持たない。何も考えないようにして、初瀬は自室へ入って行った。
「お前の名前は漢字でこう書くだろ」
「すご、なんで書けるんですか。大学行ったから?」
皆木の反応をスルーして、舎弟に小学生用の教材とノート、シャープペンと消しゴムを買っておくようにメッセージを送る。そろそろ買い物の内容を不審がられてもおかしくないが、初瀬は気軽に話しかけられる兄貴ではないので変な噂をされて終わるだろう。
「とにかく自分の名前くらい漢字で書けるようになれ。仮にも俺の子分なんだ。字もまともに読めない、書けないじゃ話にならねえ」
「ええ~マジすか……?まさかヤクザの子分になってベンキョーすることになるなんて……」
露骨にイヤそうな顔をするバカの肩を殴り「午後はシマの見回りに行く。それまで紙に名前練習しとけ」と命じると、皆木は渋々ペンを持った。
「頭いてえ……」
皆木は初瀬の運転する車の助手席で、頭を抱えていた。膝の上には初瀬の舎弟が買ってきた漢字ドリルと計算ドリル、そして学習帳が乗っている。見回りの道中、車内でドリルをやり始め、2、3年生用あたりまでは「こんなのヨユーですよ。今日でベンキョーなんて終わりにしてやります」と息巻いていたが、4年生になった途端黙り、現在帰宅する車内ではずっと頭を抱えている。
「漢字はとにかく紙に書いて覚えるしかない。『皆』の上の部分がずっと間違ってる。計算はそこ、何で割ればいいのか考えろ。2年生の応用だろ」
「そんなチラ見でズバズバ言わないでくださいよ~難しいんだって~」
信号待ちでアドバイスをする初瀬に皆木は涙目を見せてくる。泣いても勉強は免除にならないので初瀬は無視をして、マンションへアクセルを踏んだ。
駐車場につき部屋までエレベーターで上がる最中も皆木はずっと鼻に皺を作ってドリルを見ていた。諦めて投げ出すと思っていたが、意外と負けん気はあるようだ。
「ハセさん。ちょっといいすか。いちおう、聞くだけ聞きたいんですけど」
部屋に着いたらちょうど夕飯時だったので飯を作れ──とはいえ買ってある総菜を温めるくらいだが──と皆木に言うと、計算ドリルを睨んでいた皆木がそう言った。
「ほんと、万が一にもありえたら悪いから聞くんですけど」
「なんだよ。早く言え」
歯切れの悪い様子を見て、簡単な計算で躓いて質問をしたいけど恥ずかしいとか思っているのかなどと考えながら、初瀬は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲んだ。ちょっとは優しく教えてやってもいいと顔を向けると皆木は神妙な顔をしていた。
「今からトイレでシコるんですけど見ます?」
「ぐっ──ゲホ!!いきなり何聞いてんだ、テメエ……!見るわけねえだろ!」
意味不明な問いかけに初瀬はむせながらペットボトルを投げた。生意気な反射神経でそれを避けた皆木は、降参の意で頭を手で覆う。
「ちょ、怒んないで!ハセさんは見ないかなと思ったけど!でも今までみんな見たがってたから!」
「お前の言う『みんな』と俺を一緒にするんじゃねえ!つーかどういうタイミングで抜きたくなってんだよ、まず飯作れ!」
「あ、ハセさんは寝る前派?もし寝る前に抜くならオレ手伝うんで呼んで──イタ!ほんとに痛い!ちがう、これはセーセッタイってわけじゃなく──」
「もういい、抜くなら今やってこい!5分で終わらせろ!」
何やら言い続ける皆木を蹴って廊下へ追い出す。ドアを思い切り閉めれば、防音性能の高い部屋は静寂に包まれた。
「……なんなんだ、本当に」
自慰を見せるってなんだ。皆木の様を見てどうしろというんだ。と、初瀬は想像しかける自分に気づいてこめかみを押さえた。投げたペットボトルを拾って、水を飲み干す。
「……飯ができるまで寝よう」
皆木の行動にいちいち驚いていては身が持たない。何も考えないようにして、初瀬は自室へ入って行った。
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