インテリヤクザは子守りができない

タタミ

文字の大きさ
14 / 51

ごほうび

しおりを挟む
 兼城に褒められたと思ったのか、皆木はニコニコと頷いている。初瀬はどう反応してもネタにされそうなので無表情を貫いた。

「とりあえず負担じゃないならそれでいい。ガクの仕事に響くならやめさせようと思っただけだ。これからも死なせねえように面倒見てやれよ。皆木はガクにちゃんと感謝しろ」
「はい。ハセさん、これからもよろしくお願いします」

 ニコニコのまま皆木は初瀬に頭を下げ、兼城は満足そうに腕を組んでいる。なんだかもう皆木の世話を一生断れない雰囲気が出ていて、初瀬は誰に向けてでもなく浅く頷くだけ頷いた。

「じゃ、もう帰っていい。あ、そうだ。ヨシトが寄越した土産が余ってるから持っていけ」

 兼城の言葉で組員が箱を持ってくる。予想通り『博多通りもん』の大箱だった。土産を無駄に買う会沢を注意してくれよと思いながら、初瀬は箱を皆木に受け取らせた。






「ハセさん。食ってもいいですか、これ」
「商品名読めたらな」

 初瀬は組事務所を後にして、皆木がドアを開けた車の運転席に乗り込んだ。皆木はドアを閉めると走って助手席に乗ってくる。以前と比べれば、こういうところはヤクザの上下関係に馴染んできていた。

「ハカタトオリモン!これはもう読めますよ、教わったし」
「家に残ってるのも全部食っていいぞ」

 皆木はやったーと意気揚々と箱を開け、半月型の甘菓子を食べ始める。

「え、うまっ。ハセさんこれめっちゃうまいっすよ。食べないんすか」
「俺は甘いもん好きじゃねえ」

 舎弟や子分が初瀬の目の前で何かを食べ始めるなんてことは今までなかったが、初瀬は皆木にやめさせようとは思わなかった。兼城に相性がいいなどと言われたことが否定もできない状態で、皆木はバカだし育ちが悪すぎて常識が狂っているし疲れることも多々あるが、なぜか初瀬は皆木を憎めなかった。

「あ、そうだ。オレ、名前ばっちり書けるようになったんですよ!見て見て」

 エンジンをかけて車を出そうとした時、通りもんをもう1個食べようとしていた皆木が初瀬に学習帳を渡してきた。たまに助言をしたくらいでどの程度できるようになったのかは見ていなかった初瀬は、言われた通りに受け取ったノートを開く。
 大してできるようにはなってないだろうと勘繰りながら中を見ると、びっしりと『皆木冬馬』と書き込まれていた。もう間違うことなくしっかり書けている。何度も繰り返し書いた跡があり、かなりの努力が見えた。

「……すごいな」
「え、今ほめました?オレのこと!」
「ああ、想像以上だ。頑張ってるな」
「うわ、どうしよ、嬉しい。もっとほめてくれていいんすよ、ハセさん」

 頬を高揚させて撫でられたい犬のように身を寄せてくる皆木を好きなようにさせたまま、初瀬はノートをめくっていく。字は汚いが読める漢字が名前以外にも練習され、諦めたのかと思っていた算数の計算式でも多くのページが埋まっており、答え合わせまで行われている。何日経っても名前すら書けなかったらどうするかと考えていた初瀬は内心安心していた。

(……安心?俺が安心してどうする)

 自分の反応に若干違和感を感じながら皆木にノートを返す。

「景気づけになんか美味いもんでも食うか。これからもサボんなよ」
「ごほうびっすか!?よっしゃー!」

 無邪気に両手を上げて喜んだ皆木は、なぜかぴたりと動きを止めゆっくり手を下ろした。そして探るように初瀬の顔を見てくる。

「……うまいもんもいいんすけど、実は1個ハセさんにお願いしたいことあって……」

 何かねだる気かと初瀬は片眉を上げた。まぁちょっとしたものなら買ってやってもいいと思って見返すと、皆木は背筋を伸ばしてバックミラーで前髪を整えてから再び初瀬を見た。

「キスしたいです」
「……は?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

強面若頭は、懐っこいナースの献身に抗えない ―極道、はじめての恋を処方される―

たら昆布
BL
ウブで堅物な極道若頭×明るいわんこ系看護師

アンダーグラウンド

おもち
BL
本命には弱い関西のヤクザと、東京から転校したが高校に馴染めていない高校生の甘酸っぱい恋のお話です。 好きだからこそ手が出せない攻めが、唯一の心の拠り所の受け。二人がのんびりイチャイチャ生活しています。

交わることのない二人

透明
BL
憧れの大阪の大学に通うため、東京から単身やって来た白井菖蒲は、推している芸人が下積み時代によく訪れていた喫茶・トミーで働く事に。 念願だったトミーで働け、とても充実感で満たされていた。働き始めてから三日目までは。 朝の10時、振り子時計と共に、革靴を鳴らし店内に入って来たのはガタイの良く、真っ黒な髪を真ん中でかき上げ、目つきが悪い黒いスーツに身を包んだヤクザだった。 普通の大学生と、ヤクザのお客さん。決して交わるはずの無い二人。 な筈なのだが何故か、二人の仲はスイーツを通して深まっていくのだった。 ※一応BLですが、ブロマンス寄りです ※カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しております。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!

タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。 姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。 しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──? 全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!

龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜

中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」 大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。 しかも、現役大学生である。 「え、あの子で大丈夫なんか……?」 幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。 ――誰もが気づかないうちに。 専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。 「命に代えても、お守りします」 そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。 そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める―― 「僕、舐められるの得意やねん」 敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。 その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。 それは忠誠か、それとも―― そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。 「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」 最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。 極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。 これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。

処理中です...