【完結】花が結んだあやかしとの縁

mazecco

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アチラ側の来客

48話 賑やかな日常

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薄雪のお話が終わったあと、私たちは布団へ潜り込んだ。薄雪はいつも通り隣の布団で横になる。私はしばらく綾目を抱いて目を瞑っていたけど、胸のあたりがヒュンヒュンして眠れない。

「…~~…」

私はゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちなく体を起こし、薄雪が横になっている布団へ潜り込んだ。薄雪の背中にしがみつく私に、薄雪が戸惑った声をあげる。

「…花雫?」

「……」

「どうしたのですか?」

薄雪と離れたくない。

「しかし…」

離れたくないの。

「…分かりました。では蕣の姿に…」

そのままでいい。

「私の姿のままでいいのですか?」

うん

「分かりました」

綾目もこっちに呼んでくれる?

「かまいませんよ。綾目。綾目」

「ん…?」

「こちらへおいでなさい」

「あれ、花雫。そっちにいるの…?」

「ええ。今日はこちらの布団がいいそうですよ。なので綾目もこちらへ」

「分かりました」

綾目がもぞもぞと私のうしろに潜り込んでくる。やっぱり三人で寝るのが一番落ち着く。へへ。薄雪から花の匂いがする。これ、桜の匂いなのかな。いい匂い。

「…突然私に甘えてくるようになってしまった。どうしてだろう」

「薄雪さま。ヒトは失いかけてやっと大切なモノに気付くのです」

「そうか。だったら喜代春に感謝しないとね」

ふたりのあやかしとぴったりくっついて眠った私に、またいつもの夢が訪れた。桜の木の下に腰かける少女の隣には、同じ髪色をした少年もいた。彼らを囲んで薄雪や喜代春、蓮華や蕣、綾目も座っている。みんな楽しそうに笑ってる。

夢の中の薄雪と綾目と目が合った。彼らは私を手招きして、その輪の中に入れてくれた。それは今まで見た夢の中で、そしてこれから見る夢も含めて、一番しあわせを感じた夢だった。

◇◇◇

それからの私は薄雪にべったりくっついて離れなくなった。まるで小鳥と親鳥ですね、と薄雪が言っていた。
恋とか愛とかそんなのじゃなくて、どちらかというと薄雪の母性に似た包容力にズブズブに依存してしまったような感じだった。

朝起きたら薄雪が隣にいることを確認して安心して、仕事から帰ったら薄雪がまだコチラ側にいることを確認してホっとする。めんどくさいなあと自分でも思う。でも薄雪はいやな顔ひとつせず、不安がっている私をなだめてくれた。

「こんばんは」

「げぇ」

あの日から一週間後の金曜日。晩食をしていると喜代春たちがうちに来た。連れて帰られるんじゃないかと警戒した私は、薄雪の腕にしがみついて喜代春を睨みつける。喜代春はクスクス笑い、薄雪の隣に腰かけた。

「そんな警戒しなくてもいいよ。もう薄雪を無理矢理連れて帰る気はないからね」

「本当ですかあ…?」

「ああ。君が薄雪の生きる意味になるのなら、君が生きている間はコチラ側でいたらいいと、そういう約束をしたからね。君も聞いていただろう」

「そうだけどぉ…」

「そら。少し薄雪から離れてくれないかな。清めるから」

喜代春がシッシと手を払い私を薄雪から離れさせた。喜代春は薄雪と朝霧に風を与える。清められているときの薄雪は苦しそうだったけど、しばらくしたら深い息をついて笑みを浮かべる。

「ありがとう喜代春。楽になりました」

「かまわない。花も連れてきたよ。蓮華」

「はい」

蓮華がトコトコと薄雪のところへ来て胸に手を当てた。胸からたくさんの野花が溢れ出て、薄雪のまわりに散らせる。その時の薄雪はとても嬉しそうだった。

「おお。なんと美しい」

「森に咲いていた花だよ。どこかに飾っておくといい」

「はい」

喜代春と蓮華、蕣は、喜んでいる薄雪を見て目じりを下げていた。特に喜代春が薄雪に向ける目は、ヨソ者の私が見ても胸が締め付けられるほど愛情に満ちていた。こんなに好きなのに、自分から離れ離れになるんだもん。意味が分かんない。

薄雪と喜代春は、アチラ側では会うことができない。でも、コチラ側の私の部屋なら会えるようだ。だったらせめて、薄雪がここにいる間は仲良くしてほしいなあ。

というわけで、私はあやかしたちを食事に誘った。

「喜代春、蓮華、蕣。なにか食べますか?」

「コチラ側の酒はおいしいですよ、喜代春」

「では、いただこうかな」

「蓮華と蕣は?」

「この子たちには何か甘いものを与えてください」

「じゃあ飴玉でも」

「飴」

「すき」

「よかった。じゃあ持ってくるね」

私はキッチンへ行き食料を漁った。飴玉でしょ、日本酒でしょ、あとは…食べるものが…ない。

「うわー…どうしよう」

「なければ酒だけでかまいませんよ。ねえ喜代春」

「ああ。酒だけで構わないよ」

「いや!白米とパスタソースがある!!ご馳走が作れます!!」

「おお、御馳走」

「ちょっと待っててくださいね!」

これも私の得意料理。タッパーに白米を敷き詰めて、醤油とバターをかける。その上にパスタソース(この日はカルボナーラ)をぶっかけて、チーズを乗せてレンジでチン!

「はい!特製ズボラドリアの完成です!!」

「わあああ!!」

「おお」

「……」

「……」

「……」

歓声をあげたのは薄雪と綾目だけで、その他のあやかしはジトっとした目を私に向けていた。えっ!?なんですか!?

「…まさか薄雪にずっとこのようなモノを食べさせていたのかい、花雫…」

喜代春の低い声に震えながら、私はか細い声で「はい…」と答えた。え…あやかしにとってはご馳走でしょ、これぇ…。

「言っておくが、私はヒトとして生活しているものでね。普段から料理人がこしらえた食事を摂っているんだよ」

「げえええっ!!!」

「米と小麦粉と牛乳…。栄養が…偏りすぎているよ」

「栄養!!!」

だめだ!!喜代春こいつだめだ!!私の料理を見せてはいけないあやかしだ!!栄養のこと言い出すなんてめちゃくちゃめんどくさいやつだこれ!!!ばかやろぉ!!出てけ―――!!

「…なぜそこまで罵倒されなければならない…」

「今のは喜代春が悪いね」

「はい、喜代春が悪いです」

「喜代春悪い子」

「ワガママ」

「なぜだ…」

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