65 / 718
魔女編:カミーユたちとの特訓
【84話】最終日
しおりを挟む
ちらちらと雪が降る中、アーサーとモニカが剣と杖を構える。向かいに立っているジル、カトリナは少し寂しそうな顔をしていた。
「ああ、二人とこうやって戦えるのもこれで最後か」
「この1か月間、本当に楽しかったわァ」
「おいお前ら感傷に浸ってないでさっさと武器を構えろ!!」
リアーナに叱られ、二人は慌てて武器を構える。ジル、カトリナから笑みが消え、静かな闘気を漂わせた。
(カミーユ組は燃えるような闘気。カトリナ組は冷たい闘気。ノリで戦ってくれるカミーユたちと違って、カトリナたちはいつだって冷静沈着だ。なかなか打ち崩せないんだよね…)
(ひぃぃん。カトリナ達の闘気に毎回鳥肌が立っちゃう…。だって怖いんだもん…。でも、今日こそ一撃食らわせちゃうんだから!)
「いくぞお前ら!…よーい、スタート!」
リアーナの声と共に、アーサーがカトリナの背後を取る。カトリナはアーサーに構わずモニカに向かって5本同時に矢を射た後、はらりと身をかわして剣を避けた。アーサーの目の前にジルの槍が現れる。アーサーはジルの肩を蹴り後ろへ飛んだ。
モニカは飛んできた矢を風魔法ではじき返す。その矢はジルの盾によって落とされた。カトリナの絶え間ない矢のせいで自分の打ちたい魔法が出せない。モニカは「んもぉ!!」と苛立った声をあげている。
「アーサー!カトリナなんとかしてぇ!!」
「善処します!!」
アーサーが何度もカトリナを狙って剣を振るうが、ことごとくジルに邪魔されてしまう。「モニカがはじき返す矢にも意識がいっているはずなのに!頭の後ろにも目がついてるみたい!!もうう!」とアーサーももどかしげだ。
カミーユとリアーナはビールを飲みながら観戦している。
「あいつら、イライラしてんなあ。冷静さをかいたら負けだぞ」
「気持ちはわかるぜ。自分が出したい攻撃を思うように出せないんだからな」
防戦一方のモニカと、ジルを打ち崩せないアーサー。このままではいつもと同じく一太刀もくらわせられずに試合が終わってしまう。
(カトリナの手を止めさせたらモニカが攻撃できる。でもカトリナを攻撃しようとしてもジルが邪魔してくる。…まずはジルだ。ジルをなんとかしないと。こうなったら、イチかバチかだ)
アーサーはジルに飛び掛かった。ジルの体に向かって剣を振る。ジルは槍で剣を軽々と防いでいる。徐々にアーサーがジルと距離を詰めた。
「ちょ、ちょっとアーサー近すぎない?」
「ふんっ!!」
「ええ!?」
アーサーが槍ごとジルに抱きついた。槍がジルの不本意にアーサーの体に刺さってしまう。ジルは真っ青になった。
「ぎゃあああアーサー!!」
「隙あり!!」
ジルに抱きつきながら、アーサーは盾を力いっぱい蹴った。動揺をおさえられないジルの手から簡単に盾が離れる。ジルの手が届かないところまでさらに蹴り飛ばした。その間にもモニカがはじき返した矢が飛んでくる。カトリナはモニカへの攻撃をやめ、こちらに飛んでくる矢を防ぐため弓をひいた。
「ちょっとジル落ち着きなさァい!」
「モニカ!!今だ!!」
「うん!!」
攻撃の手が緩んだ隙にモニカがカトリナに毒魔法を放つ。それに気付いたジルは、抱きついているアーサーを引きはがし、カトリナを抱きかかえ彼女の代わりに毒をくらった。ジルは平然な顔をしているが、口と鼻から血が流れている。毒が効いている証拠だ。
「ジル!」
「大丈夫。ごめんね気を乱してしまった」
「全くよォ。…モニカ、お返しよ」
カトリナが力いっぱい弓を引く。キリキリと軋んだ後、今までの数倍速い速度で矢が飛んできた。
「くっ!」
風魔法が間に合わず、カトリナの射た矢4本全てがモニカの腕と太ももにに刺さる。しかしモニカは攻撃の手を緩めず杖を振り続けた。狙うはカトリナの弓。それを破壊したらカトリナに攻撃の術はない。だが攻撃魔法はことごとく盾に防がれた。
再び盾を手に持ったジルの気を逸らすために、アーサーがジルに剣を振りかぶる。毒で弱っているジルを守るため、カトリナがアーサーに蹴りを食らわせて吹き飛ばした。アーサーは素早く態勢を立て直しカトリナ目掛けて矢を射る。カトリナはアーサーが射た矢に、自分の矢を当てて地面に落とした。
「なんて精度だ!」
しかしカトリナが矢を射た瞬間隙ができた。ジルもモニカの魔法を防ぐことに意識がいっている。かなり毒が回っているのか余裕がない。アーサーはカトリナの胸元に飛び込み剣を振り上げた。
「っ」
咄嗟に避けたものの、カトリナの頬から薄く血が流れる。
「やった…ぶぁっ!」
今度はカトリナの蹴りとジルの拳を同時にくらった。ボキボキと骨が数本折れた音が体内に鳴り響く。再び吹き飛ばされ地面に打ち付けられたアーサーの口からぼたぼたと血が垂れた。失血と先ほど折れた骨の痛みでうまく力が入らない。
「カハっ」
ドスドスドス。うずくまっているアーサーの服をカトリナの矢が射た。
「アーサーはリタイヤねェ。残るはモニカ」
「カトリナすまない…顔に傷を…」
「大丈夫よォ。それよりもあなたは大丈夫?」
「あと数分は大丈夫。すぐケリをつけるよ」
ジルはそう言うと盾を地面に置いて立ちあがった。モニカはジルの行動が理解できず固まった。
「?」
「油断しちゃだめだよモニカ」
「!」
背後からジルの声が聞こえ鳥肌が立った。
「さっきまであっちにいたのになんで後ろにいるのぉ!!」
「なんでって…走ってこっちまで来たから」
「走るって速さじゃないじゃない!!もお!」
風魔法で爆風を吹かせるが、抱きかかえられモニカまで吹き飛んだ。
「わあああ!」
「自分の魔法に吹き飛ばされる気分はどう?」
「ジル、私とぴったりくっついてたら魔法かけられ放題よ!」
モニカがジルに魔法をかけようとしたら、「それはごめんだ」と空中で手を離された。モニカは真っ青になり真っ逆さまに地面に落ちる。
「きゃああああああ!」
空から降ってきたモニカをカトリナがひょいと受け止めた。怖かったのか涙を流してゼェゼェと息を荒げている。カトリナはモニカにエリクサーを飲ませながら、手足に刺さっている矢を引き抜いた。ジルは軽やかに着地してモニカに駆け寄った。
「モニカ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない!!あんなところで手を離さないでよジル!」
「ごめんね。君の毒魔法が怖すぎて思わず手を離してしまった」
「モニカ!大丈夫ぅ?!」
地面に深く刺さった矢を引き抜いてアーサーが駆け寄る。だが明らかにアーサーの方が重傷だ。ジルは慌ててアーサーにエリクサーと増血薬を飲ませた。その後、全員がモニカに回復魔法をかけてもらいアーサー以外の傷は完治した。
「なんだかあばら折られることに慣れちゃった」
「ごめんねェそんなことに慣らさせてしまって…。あなたたちが強くなりすぎて手を抜く余裕がなくなっちゃってきたわァ」
申し訳なさそうにカトリナがアーサーを撫でた。
「今日はカトリナに血を流させたねアーサー。上出来だ」
「やっとだよぉ…」
「長かった…」
「アーサー、モニカ!お疲れ!結構よかったんじゃないか!?」
「なかなか良い動きだったな。だがアーサー、敵相手に自滅覚悟の攻撃はできるだけするんじゃねーぞ」
「はぁい…」
見学していたカミーユとリアーナは双子に労いの拍手を送った。
今日は特訓最終日。午前にカミーユ組、午後からカトリナ組と二対二をした。
カミーユ組とは(カミーユたちはもちろんかなり手を抜いていたが)かなり良い戦いができた。カミーユは今回も毒魔法をくらい、弱っている隙にアーサーの一太刀を食らった。リアーナはアーサーの聖水をかけた武器、さらにモニカの聖魔法で苦しめられた。
カトリナ組との特訓も終わり、アーサー達は帰り支度をした。彼らを遠くから眺めていた魔女が、心なしかしょんぼりした顔をしている。
「もう帰っちまうのかい…寂しいねえ」
「おばあちゃああん!!」
「また会いに来るよお」
この2か月ですっかり魔女とも打ち解けた双子は、魔女に抱きついて別れを惜しんだ。魔女は愛しそうに二人の背中をさすり、優しい笑みを浮かべた。
「この2か月、よく頑張ったねえ。初めて会った時と比べ物にならないくらい良い顔になったよぉ」
「ありがとうおばあちゃん!」
「ねえ、また遊びに来てもいい?」
「いつでもおいでぇ。また会えるの楽しみにしてるよ」
「さ、お前ら行くぞ。最後の特訓だ」
「え…?まだあるの…?」
カミーユの言葉に、魔女との別れを惜しんでいた双子の表情がひくついた。リアーナはニヤリと笑い、今からくだる山を指さした。
「道中には、何がいたっけ?」
「も、もしかして…」
「ええ。あなたたちには、この山に棲む上級魔物を一掃してもらうわァ」
「一匹残らず、ね」
「ヒェッ」
「まあこの2か月でだいぶ数が減ったがな。まだ…そうだな、2000体はいるんじゃねえか?」
「にせっ…」
「頑張ってね二人とも。僕たちは麓で待ってるから。死にそうになったら伝書インコを飛ばして」
「じゃ、行くか」
「ちょっ…」
引き留めようとする双子の言葉に耳を貸さず、カミーユたちは馬へ飛び乗り山を駆け下りた。なるほどこの意図があったから僕たちの馬を麓で乗り捨てさせたのか、とアーサーが察する。
「早くお行きなさいな」
魔女が二人の尻を蹴って小屋から追い出した。そして無慈悲にドアをぴしゃりと閉じる。
「えええ?!」
その後、アーサーとモニカは飛び掛かってくる上級魔物の死体を次々と積み上げた。カミーユたちとの特訓の成果か、さくさくと倒すことができた。山の魔物を一掃するのに丸3日かかったが、モニカの魔力も枯渇せず、アーサーも体力切れを起こすことはなかった。
だが当然疲労は蓄積される。山の麓へ到着して、待っているカミーユたちの顔を見た途端、双子は地面に倒れこんだ。
「おー、三日で降りて来たか。やるなあ」
「おつかれさん!!」
「エリクサーとエーテル飲んで」
「アーサー、モニカ、立てるゥ?」
「ううう…このまま眠りたいよォ」
「ああ。ここで一泊してから帰ろう。よく頑張ったな」
カミーユは双子の背中を思いっきり叩いた。
「俺たち四人の訓練によく耐えた。ポントワーブに帰ったら、お前らの好きなもんたらふく食わせてやる!!」
「ほんと!?やったぁー!」
寝転がりながら、アーサーとモニカは腕を上げて喜んだ。
リアーナが焚火を用意して、ほかほかと暖かい火の元で双子はぐっすりと眠った。
「ああ、二人とこうやって戦えるのもこれで最後か」
「この1か月間、本当に楽しかったわァ」
「おいお前ら感傷に浸ってないでさっさと武器を構えろ!!」
リアーナに叱られ、二人は慌てて武器を構える。ジル、カトリナから笑みが消え、静かな闘気を漂わせた。
(カミーユ組は燃えるような闘気。カトリナ組は冷たい闘気。ノリで戦ってくれるカミーユたちと違って、カトリナたちはいつだって冷静沈着だ。なかなか打ち崩せないんだよね…)
(ひぃぃん。カトリナ達の闘気に毎回鳥肌が立っちゃう…。だって怖いんだもん…。でも、今日こそ一撃食らわせちゃうんだから!)
「いくぞお前ら!…よーい、スタート!」
リアーナの声と共に、アーサーがカトリナの背後を取る。カトリナはアーサーに構わずモニカに向かって5本同時に矢を射た後、はらりと身をかわして剣を避けた。アーサーの目の前にジルの槍が現れる。アーサーはジルの肩を蹴り後ろへ飛んだ。
モニカは飛んできた矢を風魔法ではじき返す。その矢はジルの盾によって落とされた。カトリナの絶え間ない矢のせいで自分の打ちたい魔法が出せない。モニカは「んもぉ!!」と苛立った声をあげている。
「アーサー!カトリナなんとかしてぇ!!」
「善処します!!」
アーサーが何度もカトリナを狙って剣を振るうが、ことごとくジルに邪魔されてしまう。「モニカがはじき返す矢にも意識がいっているはずなのに!頭の後ろにも目がついてるみたい!!もうう!」とアーサーももどかしげだ。
カミーユとリアーナはビールを飲みながら観戦している。
「あいつら、イライラしてんなあ。冷静さをかいたら負けだぞ」
「気持ちはわかるぜ。自分が出したい攻撃を思うように出せないんだからな」
防戦一方のモニカと、ジルを打ち崩せないアーサー。このままではいつもと同じく一太刀もくらわせられずに試合が終わってしまう。
(カトリナの手を止めさせたらモニカが攻撃できる。でもカトリナを攻撃しようとしてもジルが邪魔してくる。…まずはジルだ。ジルをなんとかしないと。こうなったら、イチかバチかだ)
アーサーはジルに飛び掛かった。ジルの体に向かって剣を振る。ジルは槍で剣を軽々と防いでいる。徐々にアーサーがジルと距離を詰めた。
「ちょ、ちょっとアーサー近すぎない?」
「ふんっ!!」
「ええ!?」
アーサーが槍ごとジルに抱きついた。槍がジルの不本意にアーサーの体に刺さってしまう。ジルは真っ青になった。
「ぎゃあああアーサー!!」
「隙あり!!」
ジルに抱きつきながら、アーサーは盾を力いっぱい蹴った。動揺をおさえられないジルの手から簡単に盾が離れる。ジルの手が届かないところまでさらに蹴り飛ばした。その間にもモニカがはじき返した矢が飛んでくる。カトリナはモニカへの攻撃をやめ、こちらに飛んでくる矢を防ぐため弓をひいた。
「ちょっとジル落ち着きなさァい!」
「モニカ!!今だ!!」
「うん!!」
攻撃の手が緩んだ隙にモニカがカトリナに毒魔法を放つ。それに気付いたジルは、抱きついているアーサーを引きはがし、カトリナを抱きかかえ彼女の代わりに毒をくらった。ジルは平然な顔をしているが、口と鼻から血が流れている。毒が効いている証拠だ。
「ジル!」
「大丈夫。ごめんね気を乱してしまった」
「全くよォ。…モニカ、お返しよ」
カトリナが力いっぱい弓を引く。キリキリと軋んだ後、今までの数倍速い速度で矢が飛んできた。
「くっ!」
風魔法が間に合わず、カトリナの射た矢4本全てがモニカの腕と太ももにに刺さる。しかしモニカは攻撃の手を緩めず杖を振り続けた。狙うはカトリナの弓。それを破壊したらカトリナに攻撃の術はない。だが攻撃魔法はことごとく盾に防がれた。
再び盾を手に持ったジルの気を逸らすために、アーサーがジルに剣を振りかぶる。毒で弱っているジルを守るため、カトリナがアーサーに蹴りを食らわせて吹き飛ばした。アーサーは素早く態勢を立て直しカトリナ目掛けて矢を射る。カトリナはアーサーが射た矢に、自分の矢を当てて地面に落とした。
「なんて精度だ!」
しかしカトリナが矢を射た瞬間隙ができた。ジルもモニカの魔法を防ぐことに意識がいっている。かなり毒が回っているのか余裕がない。アーサーはカトリナの胸元に飛び込み剣を振り上げた。
「っ」
咄嗟に避けたものの、カトリナの頬から薄く血が流れる。
「やった…ぶぁっ!」
今度はカトリナの蹴りとジルの拳を同時にくらった。ボキボキと骨が数本折れた音が体内に鳴り響く。再び吹き飛ばされ地面に打ち付けられたアーサーの口からぼたぼたと血が垂れた。失血と先ほど折れた骨の痛みでうまく力が入らない。
「カハっ」
ドスドスドス。うずくまっているアーサーの服をカトリナの矢が射た。
「アーサーはリタイヤねェ。残るはモニカ」
「カトリナすまない…顔に傷を…」
「大丈夫よォ。それよりもあなたは大丈夫?」
「あと数分は大丈夫。すぐケリをつけるよ」
ジルはそう言うと盾を地面に置いて立ちあがった。モニカはジルの行動が理解できず固まった。
「?」
「油断しちゃだめだよモニカ」
「!」
背後からジルの声が聞こえ鳥肌が立った。
「さっきまであっちにいたのになんで後ろにいるのぉ!!」
「なんでって…走ってこっちまで来たから」
「走るって速さじゃないじゃない!!もお!」
風魔法で爆風を吹かせるが、抱きかかえられモニカまで吹き飛んだ。
「わあああ!」
「自分の魔法に吹き飛ばされる気分はどう?」
「ジル、私とぴったりくっついてたら魔法かけられ放題よ!」
モニカがジルに魔法をかけようとしたら、「それはごめんだ」と空中で手を離された。モニカは真っ青になり真っ逆さまに地面に落ちる。
「きゃああああああ!」
空から降ってきたモニカをカトリナがひょいと受け止めた。怖かったのか涙を流してゼェゼェと息を荒げている。カトリナはモニカにエリクサーを飲ませながら、手足に刺さっている矢を引き抜いた。ジルは軽やかに着地してモニカに駆け寄った。
「モニカ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない!!あんなところで手を離さないでよジル!」
「ごめんね。君の毒魔法が怖すぎて思わず手を離してしまった」
「モニカ!大丈夫ぅ?!」
地面に深く刺さった矢を引き抜いてアーサーが駆け寄る。だが明らかにアーサーの方が重傷だ。ジルは慌ててアーサーにエリクサーと増血薬を飲ませた。その後、全員がモニカに回復魔法をかけてもらいアーサー以外の傷は完治した。
「なんだかあばら折られることに慣れちゃった」
「ごめんねェそんなことに慣らさせてしまって…。あなたたちが強くなりすぎて手を抜く余裕がなくなっちゃってきたわァ」
申し訳なさそうにカトリナがアーサーを撫でた。
「今日はカトリナに血を流させたねアーサー。上出来だ」
「やっとだよぉ…」
「長かった…」
「アーサー、モニカ!お疲れ!結構よかったんじゃないか!?」
「なかなか良い動きだったな。だがアーサー、敵相手に自滅覚悟の攻撃はできるだけするんじゃねーぞ」
「はぁい…」
見学していたカミーユとリアーナは双子に労いの拍手を送った。
今日は特訓最終日。午前にカミーユ組、午後からカトリナ組と二対二をした。
カミーユ組とは(カミーユたちはもちろんかなり手を抜いていたが)かなり良い戦いができた。カミーユは今回も毒魔法をくらい、弱っている隙にアーサーの一太刀を食らった。リアーナはアーサーの聖水をかけた武器、さらにモニカの聖魔法で苦しめられた。
カトリナ組との特訓も終わり、アーサー達は帰り支度をした。彼らを遠くから眺めていた魔女が、心なしかしょんぼりした顔をしている。
「もう帰っちまうのかい…寂しいねえ」
「おばあちゃああん!!」
「また会いに来るよお」
この2か月ですっかり魔女とも打ち解けた双子は、魔女に抱きついて別れを惜しんだ。魔女は愛しそうに二人の背中をさすり、優しい笑みを浮かべた。
「この2か月、よく頑張ったねえ。初めて会った時と比べ物にならないくらい良い顔になったよぉ」
「ありがとうおばあちゃん!」
「ねえ、また遊びに来てもいい?」
「いつでもおいでぇ。また会えるの楽しみにしてるよ」
「さ、お前ら行くぞ。最後の特訓だ」
「え…?まだあるの…?」
カミーユの言葉に、魔女との別れを惜しんでいた双子の表情がひくついた。リアーナはニヤリと笑い、今からくだる山を指さした。
「道中には、何がいたっけ?」
「も、もしかして…」
「ええ。あなたたちには、この山に棲む上級魔物を一掃してもらうわァ」
「一匹残らず、ね」
「ヒェッ」
「まあこの2か月でだいぶ数が減ったがな。まだ…そうだな、2000体はいるんじゃねえか?」
「にせっ…」
「頑張ってね二人とも。僕たちは麓で待ってるから。死にそうになったら伝書インコを飛ばして」
「じゃ、行くか」
「ちょっ…」
引き留めようとする双子の言葉に耳を貸さず、カミーユたちは馬へ飛び乗り山を駆け下りた。なるほどこの意図があったから僕たちの馬を麓で乗り捨てさせたのか、とアーサーが察する。
「早くお行きなさいな」
魔女が二人の尻を蹴って小屋から追い出した。そして無慈悲にドアをぴしゃりと閉じる。
「えええ?!」
その後、アーサーとモニカは飛び掛かってくる上級魔物の死体を次々と積み上げた。カミーユたちとの特訓の成果か、さくさくと倒すことができた。山の魔物を一掃するのに丸3日かかったが、モニカの魔力も枯渇せず、アーサーも体力切れを起こすことはなかった。
だが当然疲労は蓄積される。山の麓へ到着して、待っているカミーユたちの顔を見た途端、双子は地面に倒れこんだ。
「おー、三日で降りて来たか。やるなあ」
「おつかれさん!!」
「エリクサーとエーテル飲んで」
「アーサー、モニカ、立てるゥ?」
「ううう…このまま眠りたいよォ」
「ああ。ここで一泊してから帰ろう。よく頑張ったな」
カミーユは双子の背中を思いっきり叩いた。
「俺たち四人の訓練によく耐えた。ポントワーブに帰ったら、お前らの好きなもんたらふく食わせてやる!!」
「ほんと!?やったぁー!」
寝転がりながら、アーサーとモニカは腕を上げて喜んだ。
リアーナが焚火を用意して、ほかほかと暖かい火の元で双子はぐっすりと眠った。
42
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。