【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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学院編:オヴェルニー学院

【121話】誘拐

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コンコン、と寝室のドアをノックする音が聞こえた。モニカとライラはびくりとしてドアに目を向けた。ゆっくりと扉が開く。

「…ロイ?」

「ジュリア王女、モニカさん、…ライラ。男子寝室で体調の悪い人が出て…。女子の寝室でもそういった人が出ているかもしれないと思って見に来ました」

ロイはドアから顔を覗かせながら心配そうにそう言った。モニカはホッとしてジュリア王女の体調が悪いことを伝えた。

「ジュリア王女の体調がよくないの」

「そうですか…。モニカさん、君は大丈夫?」

「ええ、私は大丈夫」

「なるほど」

ロイはしばらく考え込んだあとジュリア王女を背負った。

「モニカさん、ジュリア王女を医務室へ連れていきたいんだ。手伝ってくれるかい?」

「もちろんよ。手伝うわ」

「ろ、ロイ。私も手伝うわ」

「ううん。モニカだけで大丈夫だよ。ありがとうライラ」

「そう…」

「ライラ、あとは任せて。もう眠って」

「うん…」

モニカはライラに手を振ったあと、王女を背負い歩くロイの後ろをついていった。しばらく廊下を歩いた後、壁に触れて隠し扉を開ける。

「…ロイ、どこへ行くの?」

「ここ、医務室への近道なんだ」

「そ、そう…」

3人は階段を下りていく。異様に長い階段に違和感を覚えたモニカは立ち止まってロイの服を引っ張った。

「ロイ、やっぱりおかしいわ。医務室は1階降りたところにあるだけよ。ここの階段は…長すぎる」

「ふふ。アーサーといい君といい、思い通りにならない子たちで困ってしまうよ」

「え…?」

ロイはモニカのみぞおちに拳をのめりこませた。モニカの口から血が飛び散る。そして気を失った。

「…ロイ、何をしているの?!」

「おや…王女、どうしてそんなに意識がしっかりしているんですか?」

「モニカに血を飲ませてもらったの。吸血欲の禁断症状が出ているからの言って」

「そんなことにまで気付いてたんですか彼女は。まったく」

「わ、わたしを離しなさい!!」

「もう少しお待ちくださいね」

ロイは王女とモニカを抱えて階段を降りた。アーサーたちが入れられている牢屋ではなく、別の部屋へ入り二人を下ろした。口笛を吹くと、一匹のチムシーがロイの指に止まる。キーンとする音を発した後それを飛ばした。扉の鍵をかけようとしたその時、彼の顔のそばを矢がかすめた。その矢は壁に勢いよく刺さる。

「…はあ。どうしてついてきたんだい、ライラ」

「あ、あなたの様子がおかしかったから…。顔つきも声色も、いつもと違うわ。…だから二人が心配で、こ、こっそりあとをつけたの。ど、どうしてモニカに攻撃したの?ど、どうしてこんなところに二人を連れてきたの?」

キリキリと弓を引きながらライラはロイを問い詰める。ロイはそれに答えず、一瞬にしてライラの目の前まで移動して彼女の頭を掴んだ。ロイの細腕からは想像もできないほどの力でライラを部屋の奥まで投げ飛ばす。ライラは壁に勢いよくぶつかり、痛みに耐えられずうずくまった。

「あ…ぐ…」

「ライラ」

「ひっ」

ライラの髪を引っ掴み、ロイは顔を覗き込んだ。彼の不気味な微笑みに震えあがる。

「正直君にはあまり興味がないんだよね。餌にするかおもちゃにするか…それとも殺すか。お父さまに相談しないといけないんだ。だからそれまで静かにしててくれる?」

ロイは彼女の胸に手を当てた。パンッと音がした瞬間、ライラは口から大量の血が噴き出し意識を失った。そこからゆっくりと立ち上がり、ジュリア王女にゆっくりと近づいた。

「さて。お待たせしました、姫」

「あ…あなた、一体どういうつもりかしら?こんなことをしてただで済むとお思い?」

王女が震えながらそう言うのを聞いてロイは笑い声をあげた。

「ご心配なく。あなたや貴族の少女が姿を消したとしても、僕が疑われることはありませんので。なぜならあなたたちはこれから一生この地下で僕のおもちゃとなるんですから。そして僕は今まで通り地味な生徒を演じます。誰が疑うものでしょうか」

「っ…」

「ご安心ください。一週間経てば自我も失います」

「だ…だれか…」

じりじりと近寄ってくるロイから離れるために王女は後ずさる。ロイは自分の腕を短剣で傷をつけ、血を滴らせた。ジュリア王女の目は無意識にその血を見てしまう。口内に唾液が溜まるのを感じた。

「ほら、飲みたいでしょう?あなたが一週間おいしそうに飲んでいた飲み物がここにある。好きなだけお飲みなさい」

「あ…あ…」

「あはは!この国の王女ともあろう方が僕の血を見て涎をたらしているじゃないか!なんてはしたないんだろう」

「うっ…」

腹部の痛みと共にモニカの目が覚めた時、ジュリア王女がまさにロイの血を飲もうとしているところだった。

「ジュリア!だめ!!」

咄嗟にモニカはジュリア王女を押し倒し覆いかぶさった。その時ライラが血を流して倒れているのが目に入った。ロイは苛立ちのこもった目でモニカを睨む。

「ちっ、もう目が覚めたんですか」

「ライラ…ライラ!どうしてライラがここに?!ライラ!目を覚まして!!どうしたの?!」

「ライラは目覚めませんよ。ギリギリ死なない程度に内臓を潰しましたから」

「なんてことを…。ロイ、あなた一体…」

青ざめているモニカを見て、ロイはクスクスと笑った。彼は分厚い眼鏡を外し、長い前髪をかきあげる。今まではっきりと見たことがなかったロイの目は、黄色い瞳をしていて瞳孔が猫のように長細かった。モニカに見せるようにニィと笑う。唇の奥に鋭く尖った歯が覗いている。ロイはモニカの耳元で囁いた。

「僕は吸血鬼。チムシーに寄生され続けた人間のなれ果てさ」
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