【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco

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合宿編:二週目・基礎特訓

【406話】ゲッソリした生徒と大喜びの先生

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カミーユに剣術を教わっているときのダフとシリルはこれ以上ないほど生き生きしていた。庭には元気で喝の入った返事が響き渡り、時に楽し気な笑い声が聞こえる。剣が大好きな二人は厳しい練習にもついてきたので、カミーユも満足げに微笑んでいた。

だが、午後のカミーユは雰囲気ががらりと変わる。弓術の特訓を終えたアーサーが来ただけで、カミーユの闘志が沸き立ち少し意地悪になった。ダフとシリルのことはよく褒めるのに、アーサーのことはなかなか褒めない。それはカミーユがアーサーに特に期待をしているからだと、傍で見ていたシリルには分かっていた。シリルはアーサーの優秀さを知っているので当然のことだと思っていたが、同時に少し悔しく、さみしかった。

「カミーユさん!!」

「お?」

ある午前の授業、シリルは意を決してカミーユに声をかけた。

「なんだシリル。朝から元気じゃねーか」

「あの!僕にももっと厳しくしてくれませんか?!」

「ん?」

「カミーユさん、午前は和気あいあいとして楽し気な雰囲気で特訓してくださっていますが、午後はアーサーにとっても厳しいですよね!」

「おぉ?!そうだったのか?!」

午後の授業を受けていないダフは、その事実を知って頬を膨らませた。

「ちょっと思ってたんですよ!1週目より優しいなーって!!くっそー!アーサーは2週目もビシバシ鍛えられてたのかー!!」

「あー…。いや、お前らの楽し気な笑顔を崩したくなくてだな(心折りたくねえし)(ていうかこいつらの特訓もそこまで易しくしてねーよ)…」

「カミーユさん!俺アーサーにこれ以上離されたくないです!!」

「僕も!もっと厳しくしてほしいです!」

「お…おぉ…」

生徒の方から"もっと厳しくしろ"とお願いされるとは思っておらず、カミーユは若干引き気味の声を漏らした。彼らにしていた特訓も決して易しくはない。彼らのモチベーションが落ちない範囲で、一般的にはハードな特訓をしていたつもりだった(実際学院の授業より何倍も厳しかった)。カミーユは品定めするような目でシリルとダフを見た。

(闘気もやる気も文句なし。仕方ねえな…)

「お前らから言ったんだからな。元に戻せって泣きついても戻さねえぞ?」

「「はい!!!」」

「心折れんなよ?」

「「はい!!!」」

「ふっ。分かった」

軽くため息をつき、カミーユがニィっと怖い笑みを浮かべた。突然溢れかえった闘気に二人は思わず剣を握る。

「今日からおまえらもアーサーと同じレベルで特訓する。言っとくがあいつはセンス抜群の体力オバケ。将来俺より強くなる予定のやつだ。あいつは10歳の頃から冒険者として魔物と戦ってきた。さらに14歳のころから俺の血反吐吐くような特訓を受けている。つまりいろいろ慣れてるんだよ。お前らとアーサーじゃ実力も経験もなにもかも違いすぎるから手加減してやってたんだが…。後悔すんなよ?」

結論からいうと、のちにシリルとダフはものすごく後悔をした。その日から庭から笑い声は聞こえなくなり、代わりに生徒二人の叫び声とうめき声が響き渡ることになる。

◇◇◇

この一週間で、生徒全員が自分たちの課題を見つけ取り組んだ。基礎練習は地味で苦しい。大きな怪我は負わないものの、みなの手はズル剥けになり、魔力が枯渇した。

2週目最終日ではほとんど全員の体力が底をつき(アーサーだけはまだまだ元気だった)、ヘロヘロの状態で各々鬼の特訓に励む。ダフでさえ、愛用している大剣を握ることすらままならなかった。そんな彼らを見てS級冒険者は水を得た魚のように大喜びする。

「おー!いい感じにへばってんなぁ!!」

「プルプル震えてる手足。目の下にクマ。げっそりとこけた頬。ふふ」

「いいね。君たち全員かなり体力があったからここまで来るのに一苦労したよ」

「アーサーだけは、元気だがなあ…」

疲れ果てて脳が正常に働かない生徒たちは、ぼーっとした目で彼らを見る。みなが「こいつら何言ってんだ…?」とぼんやり思っていた。カミーユは生徒たちの前をゆっくり歩きながら話した。

「冒険者、騎士…。戦うやつらは、いつでも万全の状態で戦えるわけじゃねえ。巨大ダンジョンの最奥なんてミイラみたいになったやつらがうようよいる。体力が尽き、戦意を失い戻れねえんだ。お前らの今の状態はそれに近い」

「ここからが本番だおまえらぁ!頭も体も力もからっぽのおまえらが、どこまであたしらに食らいつけるか!!ここでおまえらが優秀かどうかが決まる!!」

「こだわりやプライドなんてかなぐりすてなさい?そうしないと生きられない」

「今日一日を耐えられたら3週目の特訓を受けられる。耐えられなかったら今日で君たちの合宿はおしまい。帰ってもらうよ」

「そういうこった。特訓中に意識を失えば失格。技を出せなくなったら失格。立ち止まれば失格。手を抜けば失格だ。じゃ、はじめるぞ」

"帰ってもらう""失格"の言葉に、さきほどまで虚ろな目をしていた生徒たちに緊張が走った。

(失格…!うそうそ!カミーユパーティーに教えていただける日なんてもう二度とない!失格なんてしたら余計!!こんなまたとない機会を自らの手で潰すなんてありえないわ!)

(なるほどこういう意図があって体力や魔力をゴリゴリ削るような基礎練習ばかりさせてたのか。2週目はいわばふるい。そこから考えて3週目からはワンランク上の特訓に入るんだね)

(やっ…やだ!せっかく魔法を使うことが楽しくなってきたのに…!カトリナさんにだって教わりたいこといっぱいある…!帰りたくない!)

(…まずいな。カミーユさんのきつい特訓で体力が残っていない。俺の大剣、持つのでやっとだ。だが、ここで帰るわけにはいかない!!)

(魔力はまだまだ大丈夫だけど…体力がきついわね。気力でがんばるしかないわ!)

(明日からなんの特訓なんだろー。たのしみー!!)
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