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──妹にかけられた眠りの魔法から目覚めると、街中が大騒ぎになっていました。
「おい、遂に王子の婚約相手が決まったらしいぞ!」
「何っ、本当か!?」
「しかもお相手はあの聖女様ということだ!」
「何とめでたい日だ! ようし、商売なんかしていられない! 今日はもう店を閉めて呑もう!!」
……なんて、雑貨屋のおじさんがお客さんと一緒にはしゃいでいます。酷い頭痛に、私は頭を抱えてしまいます。
悪い予感ほどよく当たるものですが、あの愚妹、本当にやらかしてくれたようです。
昔っから、私や他の人のモノを欲しがる子でした。本当に可愛い子だったので。家族も周りも彼女を慈しみ、多くを与えてしまったのです。
欲しがれば、貰える。
それが分かった彼女は、どんどん増長していきました。私は、そんな彼女を正そうと私なりに努力をしてきましたが、私の小言など彼女にとってただの耳うるさいものに過ぎなかったのでしょう。
そうやって、私達姉妹の溝もどんどん深くなっていき、私もいつしか妹の事は諦めていました。
間違いだったのかもしれません。
どんな事をしてでも、矯正するべきだった。まさかこんな、我が儘とか欲しがりで済ませれない事をしでかしてしまうだなんて──。
「……ミーシャ」
私は彼女の名を呟き、駆け出しました。
私達双子には特別な力があります。街の何処に居たって、互いに互いの居る場所がなんとなく分かるのです。
逃げられるかもしれない。そう思っていました。しかし妹の気配は動きません。
彼女は、街の茶屋で独り優雅に紅茶を飲んでいました。
「……随分早いお目覚めでしたのね」
「貴女の未熟な魔法ではとても、熟睡なんて出来ません」
「そう。でも、残念でしたわねお姉さま。もう手遅れよ」
私の皮肉も、彼女は余裕たっぷりに聞き流しています。そうしてわざとらしく、左手の薬指を見せつけてきました。
「綺麗でしょう? 婚約指輪よ。使いの方も話が早くてね。明日から、お城でお世話になることになりましたの。今日でもうお別れです。まぁ寂しがらないでください。たまには顔を出しますから」
「……ミーシャ」
「それはもう貴女の名前なのですよ、お姉さま。これからはご自身の事をお間違えないようにね」
「今までも度々、貴女が私を名乗り、イタズラしてきた事は知っています。けれど私に成り代わり、王子様と婚約する……そんなこと本当に成立すると思っているのですか?」
「成立します。お姉さまさえ納得して頂ければ」
妹の自信は揺るぎません。私は彼女の逆の手──聖女の証たる指輪に視線をやりました。
「だって私達、双子ですもの。生まれも育ちも、姿形も、声だって同じ。まあ多少、私の方が出るところは出ていますけれど」
「これから先ずっと、私を語り生きていくというのですか? 私を欺き、周囲を欺き、自分さえ欺いても?」
「……うるさい、うるさいわっ! お姉さまの小言なんてもうたくさんよ!」
妹は癇癪を起こし、テーブルを叩きました。周りの視線などお構いなしに、髪を振り乱し、今にも私に食いつかんばかりに聖女の指輪を見せつけてきます。
「真の聖女の証──これが私の手にある限り、私の方が力は上なのよ! それはお姉さまが一番分かっているでしょう!? 貴女はただ口を塞いで、私の言うとおりにしていればいいの! そう、これから先ずっと、ずっと!」
……もう私の声は、彼女には届かないのでしょう。
妹は本気です。
本気で私を永遠に黙らせる事もしかねない。
きっと妹はこれから先も、貪欲に、欲しいものはどんな手段を使ってでも手に入れていくのでしょう。他人に何と言われようと、どう見られようとも。
私にはもう、どうする事も出来ないのかもしれません。
「おい聞いたかよ。あの王子に遂に婚約者が出来たらしいぞ!」
「聞いた聞いた。今日決まったらしいな!」
その時でした。二人の若者が、例の噂話をしながら茶屋に入ってきたのです。
「しっかしあの聖女様がねえ、よりにもよって第二王子と婚約するなんて。まさしく美女と野獣だよなぁ」
それまで鬼のような形相をしていた妹の目が、点になります。
「……第二……王子?」
「おい、遂に王子の婚約相手が決まったらしいぞ!」
「何っ、本当か!?」
「しかもお相手はあの聖女様ということだ!」
「何とめでたい日だ! ようし、商売なんかしていられない! 今日はもう店を閉めて呑もう!!」
……なんて、雑貨屋のおじさんがお客さんと一緒にはしゃいでいます。酷い頭痛に、私は頭を抱えてしまいます。
悪い予感ほどよく当たるものですが、あの愚妹、本当にやらかしてくれたようです。
昔っから、私や他の人のモノを欲しがる子でした。本当に可愛い子だったので。家族も周りも彼女を慈しみ、多くを与えてしまったのです。
欲しがれば、貰える。
それが分かった彼女は、どんどん増長していきました。私は、そんな彼女を正そうと私なりに努力をしてきましたが、私の小言など彼女にとってただの耳うるさいものに過ぎなかったのでしょう。
そうやって、私達姉妹の溝もどんどん深くなっていき、私もいつしか妹の事は諦めていました。
間違いだったのかもしれません。
どんな事をしてでも、矯正するべきだった。まさかこんな、我が儘とか欲しがりで済ませれない事をしでかしてしまうだなんて──。
「……ミーシャ」
私は彼女の名を呟き、駆け出しました。
私達双子には特別な力があります。街の何処に居たって、互いに互いの居る場所がなんとなく分かるのです。
逃げられるかもしれない。そう思っていました。しかし妹の気配は動きません。
彼女は、街の茶屋で独り優雅に紅茶を飲んでいました。
「……随分早いお目覚めでしたのね」
「貴女の未熟な魔法ではとても、熟睡なんて出来ません」
「そう。でも、残念でしたわねお姉さま。もう手遅れよ」
私の皮肉も、彼女は余裕たっぷりに聞き流しています。そうしてわざとらしく、左手の薬指を見せつけてきました。
「綺麗でしょう? 婚約指輪よ。使いの方も話が早くてね。明日から、お城でお世話になることになりましたの。今日でもうお別れです。まぁ寂しがらないでください。たまには顔を出しますから」
「……ミーシャ」
「それはもう貴女の名前なのですよ、お姉さま。これからはご自身の事をお間違えないようにね」
「今までも度々、貴女が私を名乗り、イタズラしてきた事は知っています。けれど私に成り代わり、王子様と婚約する……そんなこと本当に成立すると思っているのですか?」
「成立します。お姉さまさえ納得して頂ければ」
妹の自信は揺るぎません。私は彼女の逆の手──聖女の証たる指輪に視線をやりました。
「だって私達、双子ですもの。生まれも育ちも、姿形も、声だって同じ。まあ多少、私の方が出るところは出ていますけれど」
「これから先ずっと、私を語り生きていくというのですか? 私を欺き、周囲を欺き、自分さえ欺いても?」
「……うるさい、うるさいわっ! お姉さまの小言なんてもうたくさんよ!」
妹は癇癪を起こし、テーブルを叩きました。周りの視線などお構いなしに、髪を振り乱し、今にも私に食いつかんばかりに聖女の指輪を見せつけてきます。
「真の聖女の証──これが私の手にある限り、私の方が力は上なのよ! それはお姉さまが一番分かっているでしょう!? 貴女はただ口を塞いで、私の言うとおりにしていればいいの! そう、これから先ずっと、ずっと!」
……もう私の声は、彼女には届かないのでしょう。
妹は本気です。
本気で私を永遠に黙らせる事もしかねない。
きっと妹はこれから先も、貪欲に、欲しいものはどんな手段を使ってでも手に入れていくのでしょう。他人に何と言われようと、どう見られようとも。
私にはもう、どうする事も出来ないのかもしれません。
「おい聞いたかよ。あの王子に遂に婚約者が出来たらしいぞ!」
「聞いた聞いた。今日決まったらしいな!」
その時でした。二人の若者が、例の噂話をしながら茶屋に入ってきたのです。
「しっかしあの聖女様がねえ、よりにもよって第二王子と婚約するなんて。まさしく美女と野獣だよなぁ」
それまで鬼のような形相をしていた妹の目が、点になります。
「……第二……王子?」
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