双子の妹が私になりすまし、王子と結ばれようとしています

しきど

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その少し後

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 戦争が終われば聖女の役割だって終わり。そう考えていた時期が私にもありました。

 「ミーシャ様、アーバント公爵が会食の日程についてご相談をされたいとかで」

 「予定はグライノスに伝えてあります。開いている日であれば、私はいつでも構いません」

 「ミーシャ様、明日の講義について、資料をお目通し頂きたいのですが」

 「有り難うメイ。すぐに確認しておきます」

 勝利を手に入れたところで、戦争の疲弊はすぐには癒えません。そうしてそういった皺寄せというのは、すべからず民草に降り注ぐのです。貧しさに喘ぐ民草は拠り所を──すなわち心の支えを求めます。

 神の声を聞いた聖女である私にもまだ役割が残っていました。教会のお手伝いをし、人々と言葉を交わす。それが私に新しく与えられた仕事です。

 求められるのは有難い事でありますし、人の心を救う仕事にはやりがいこそあれ、なんの不服もありません。

 ただ現実に、休む暇すらない程に忙しいというのは、多少気が滅入ります。

 「ミーシャ様……変わられましたね」

 本日の仕事を一通り終えたあと、シスター・サンタナが私に紅茶とお菓子を差し入れてくれたので、有り難く頂戴致しました。

 「そうでしょうか」

 「ええ、最近のミーシャ様はご立派です。まるでかつてのお姉さまのようで」

 実際、まるごと変わっております。

 「人は変わりますよ」

 私はイタズラっぽく笑ってみせました。

 「お姉さまが皇室に入られたのですから、聖女の役割は私が務め上げなければなりません。それくらい、私にだって分かっています」

 「ああ……ミーシャ様っ……!」

 シスターは急にうるうるして、私の手を掴んできました。

 「お許し下さい、私は貴女様を誤解しておりました……! 正直お姉さまの後を継がれるといった時には、不安しかなかったのですが……今の貴女様は、正真正銘の聖女です!」

 今更ながら、どれだけ元妹に対する周囲の評価はどれだけ低かったのだろうと、頭を抱えてしまいます。

 私は──半分本当ですが──具合悪そうにかぶりをふってみせました。

 「……少し、外の風に当たってきたいわ」

 「ええ、かしこまりましたミーシャ様。後片付けは私にお任せ下さい」

 「ありがとう、サンタナ」

 ──夕暮れの街はまだ忙しそうに蠢いています。

 「ママー! エショデが食べたい!」

 見ると、若い夫婦と幼い子供が露店の前にいました。

 エショデとは、小麦粉、卵と油分、イーストをくわえた生地にこねたものです。塩味が利いていてお酒にもよく合います。安価で子供にも人気があり、この街でもかなりポピュラーな部類お菓子です。

 「もう、お夕食前でしょ!?」

 「いいじゃないか? 買っておいてあとで食べれば」

 優しそうな旦那様が、妻にそう言います。

 「でも……」

 「買うよ、君も好物だったろう」

 「……なんで覚えてるのよ」

 言われた妻が気恥ずかしそうに目を伏せます。そんな彼女をからかうように、旦那はニコニコとその頭を軽く撫でながら、露店の主人に話かけ、そのまま立ち去っていきました。

 私は思うところあり、散々迷ったあとで主人に話しかけました。

 「あの……」

 「おう、なんだい!?」

 「私にも……一つ下さい」

 エショデをもくもく食べながら、私は街を歩きました。

 ──私が、護った街。

 そう言うのはあまりにおこがましい。

 まだ国の傷は癒えません。それでも先程の家族のような、細やかな日常を取り戻した人々を見ているとこちらも幸せな気分になれます。

 ──私自身には、遠い世界の話だとしても。

 「わっ!」

 「きゃっ!?」

 食べ歩きなどして、ぼーっと考えごとなどしていたから、直感力が低下していたのかもしれません。

 ふと横路から不意に出てきた青年に、私はぶつかってしまいその場に尻餅をつきました。

 「す、すみません──! 大丈夫ですか!?」

 「いえ、こちらこそ──」

 青年はオタオタしながらも、咄嗟に私に手を差し伸べてきました。

 華奢な見た目のわりに、随分とごつごつした手でした。よく見ればその手のひらには多くの傷と剣ダコがあります。

 「エショデですか?」

 ぶつかった拍子に地面に落ちてしまったそれを眺め、街の若者らしい身なりの青年はにこりと、まるで少年のように笑いました。

 「僕も好物なんです」

 「……あの」

 「なんです?」

 言いかけて、私は口をつぐみました。

 何処かでお会いした事が?

 直感でそう思えましたが、殿方相手にいきなりそんな事を言うのは、流石に気持ち悪すぎたでしょう。

 「弁償させて下さい。何処で購入されたのですか?」

 何もないです。あるわけない。

 私は内心自分に笑ってしまいながら、青年の差し出した手を握り返しました。
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