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Mitsurinにて購入した商品の手配やそれらの扱い方についての指導などをしている内に、あっという間に時間は過ぎ去り、状況は新たな局面を迎えていた。
神聖教国ステラシオンの現在の状況は、王都エストレヤから帝国まで続く北側の地域を、ルーシェリア帝国を後ろ盾とした神聖教国ステラルーシェが占領している。まあ、実質ルーシェリア帝国の占領下にあると考えていい。
それに対し、アルストロメリアの街では、その領主であるアルストロメリア侯爵を後ろ盾として、神聖教国ステラシオンの第2皇子トラバントが旧国王派の貴族達を纏めて蜂起した。
彼らは現在、王都エストレヤの奪還を目指して、軍を動かしている真っ最中だ。
偵察で得られた情報では、単純な戦力比では負けているようだが、そこは俺が提供した商品の力がひっくり返してくれるのを期待しよう。
それに今の俺には、そちらの状況を気にしている余裕は無かった。
なぜなら、ある意味でもっと重要な任務を遂行している真っ最中だったからだ。
「コ、コウヤっ! か、風が強くて寒いんだけどっ! どうにかならない!?」
「我慢してくれ! もうすぐ着く!」
現在の俺はエイミーを背中に乗せて、飛行の魔法を使って、王都エストレヤへと向かっている最中だ。
かなり速度を出しているせいか、背中のエイミーが震えているのが分かるが、魔力制御が不安定な俺としては、迂闊に速度を緩めることもままならない。
それで何故俺達は王都へと向かっているのかというと、その理由は単純で、帝国の勇者3人が現在そこにいるとの情報があったからだ。
とりあえず彼らと一度接触してどんな人物なのかを観察してから、説得するなり殺すなり判断しようと考えた訳だ。
本当は俺一人で行くつもりだったのだが、エイミーがどうしても着いて来たいというので、こうして2人で空の旅を楽しむ事になったのだった。
そして王都近くまでやって来た俺達だったが、流石に空から急襲という訳にもいかないので、直前で降りて歩いて向かうことにする。
王都内への侵入手段は、エイミーの魔法を使うことになった。
俺の手札にも侵入手段はいくつかありはしたのだが、こういった事に慣れているらしいエイミーに任せた方が無難だと判断し、そう決めたのだ。
「隠形隠蔽」
エイミーがそう呟いた瞬間、2人の姿が宙に溶けるように消えて行った。
どうやら風と光・、2属性の複合魔法らしく、扱える者はほとんどいないらしい。
理屈としては、風の力で音を消して、光の力で視界を歪めるらしいのだが、話に聞くだけでも制御が複雑すぎて、今の俺にはとてもじゃないが扱えそうもない。
事実、この魔法の効果によって、王都の厳重な警備はあっさりと潜り抜けられた。
「この魔法があれば、わざわざアルストロメリアまで逃げなくても良かったんじゃないか?」
「追手を撒くのに大分魔力を結構使ってたし、かなり疲労も溜ってたから制御しきる自信が無かったのよ……」
まあ、相当に大変そうだもんな、この魔法。そう言われれば確かに納得である。
「で、王都に上手く入れたのはいいけど、勇者の居場所は分かってるのか?」
教国最大の都市だけあって、その敷地面積はかなりの広さである。
闇雲に探してちゃ正直骨が折れそうだ。
「ええ。居場所の候補は大体絞れているわ」
枢機卿派――今は、帝国派というべきか――は、勇者3人の存在を隠してはおらず、むしろ旗頭として全面に押し出しているようだ。
なので、彼らの滞在する場所は必然的に限られてくるそうだ。
「まずは王城へと向かうわよ!」
エイミーの言葉通り、人混みに紛れながらも俺達は都市の北側に位置する王城へと向かった。
そして近くにある茂みへと2人揃って潜り込んだ。
「コウヤ、あなたの魔力分けて貰うわね。魔力吸引」
エイミーが俺の肩に手を置きながら、そう呟く。
隠形隠蔽の魔法で、魔力をかなり使ったらしく、それを補充する為だ。
次の瞬間、俺の全身から魔力が抜けていくのを感じた。
その感覚は決して不快なモノではなく、むしろ肩こりが解消されたかのような、淡い快感すらあった。
「うっ、ちょっと! あなたどれだけ魔力あるのよ! 吸いすぎちゃったじゃない!」
そんな俺の様子に反して、魔力を吸い取った側のエイミーが逆に苦しい表情をしている。
「いや、そんなこと言われてもな……」
流石にその文句は理不尽ではなかろうか?
ともかく、俺から吸収する事で魔力を回復させたエイミーが、今度は王城全体に対し大掛かりな探知魔法を使用する。
俺がギフト〈千里把握〉を使用する手もあったのだが、あれを使うと頭痛がヤバいので、なるべくなら使わないに越した事は無い。
ちなみにこれは余談だが、〈ペインキラー〉のギフトを併用すればいいんじゃないかと思い以前試してみたのだが、感覚が消える副作用のせいか、モニター操作がめちゃくちゃになったので、残念ながら却下することになった。まったく便利なようでイマイチ使えないギフトだ。
「魔力探知」
エイミーの掌から光が放たれたかと思うと、それが王城全体を薄く包み込んだ。
どうも、対象範囲内の魔力を探知する魔法のようだ。
「かなり大きな魔力が3つあるわ。魔力の質的にも間違いないわ。ビンゴね。勇者達はこの王城内にいるわ」
エイミーのその言葉に俺は頷きで返す。
それから、エイミーに対し魔力吸引を使った再度の魔力供給を行った後、隠形隠蔽ステルスハイドの魔法を使用して、俺達は王城内へと向かうのだった。
神聖教国ステラシオンの現在の状況は、王都エストレヤから帝国まで続く北側の地域を、ルーシェリア帝国を後ろ盾とした神聖教国ステラルーシェが占領している。まあ、実質ルーシェリア帝国の占領下にあると考えていい。
それに対し、アルストロメリアの街では、その領主であるアルストロメリア侯爵を後ろ盾として、神聖教国ステラシオンの第2皇子トラバントが旧国王派の貴族達を纏めて蜂起した。
彼らは現在、王都エストレヤの奪還を目指して、軍を動かしている真っ最中だ。
偵察で得られた情報では、単純な戦力比では負けているようだが、そこは俺が提供した商品の力がひっくり返してくれるのを期待しよう。
それに今の俺には、そちらの状況を気にしている余裕は無かった。
なぜなら、ある意味でもっと重要な任務を遂行している真っ最中だったからだ。
「コ、コウヤっ! か、風が強くて寒いんだけどっ! どうにかならない!?」
「我慢してくれ! もうすぐ着く!」
現在の俺はエイミーを背中に乗せて、飛行の魔法を使って、王都エストレヤへと向かっている最中だ。
かなり速度を出しているせいか、背中のエイミーが震えているのが分かるが、魔力制御が不安定な俺としては、迂闊に速度を緩めることもままならない。
それで何故俺達は王都へと向かっているのかというと、その理由は単純で、帝国の勇者3人が現在そこにいるとの情報があったからだ。
とりあえず彼らと一度接触してどんな人物なのかを観察してから、説得するなり殺すなり判断しようと考えた訳だ。
本当は俺一人で行くつもりだったのだが、エイミーがどうしても着いて来たいというので、こうして2人で空の旅を楽しむ事になったのだった。
そして王都近くまでやって来た俺達だったが、流石に空から急襲という訳にもいかないので、直前で降りて歩いて向かうことにする。
王都内への侵入手段は、エイミーの魔法を使うことになった。
俺の手札にも侵入手段はいくつかありはしたのだが、こういった事に慣れているらしいエイミーに任せた方が無難だと判断し、そう決めたのだ。
「隠形隠蔽」
エイミーがそう呟いた瞬間、2人の姿が宙に溶けるように消えて行った。
どうやら風と光・、2属性の複合魔法らしく、扱える者はほとんどいないらしい。
理屈としては、風の力で音を消して、光の力で視界を歪めるらしいのだが、話に聞くだけでも制御が複雑すぎて、今の俺にはとてもじゃないが扱えそうもない。
事実、この魔法の効果によって、王都の厳重な警備はあっさりと潜り抜けられた。
「この魔法があれば、わざわざアルストロメリアまで逃げなくても良かったんじゃないか?」
「追手を撒くのに大分魔力を結構使ってたし、かなり疲労も溜ってたから制御しきる自信が無かったのよ……」
まあ、相当に大変そうだもんな、この魔法。そう言われれば確かに納得である。
「で、王都に上手く入れたのはいいけど、勇者の居場所は分かってるのか?」
教国最大の都市だけあって、その敷地面積はかなりの広さである。
闇雲に探してちゃ正直骨が折れそうだ。
「ええ。居場所の候補は大体絞れているわ」
枢機卿派――今は、帝国派というべきか――は、勇者3人の存在を隠してはおらず、むしろ旗頭として全面に押し出しているようだ。
なので、彼らの滞在する場所は必然的に限られてくるそうだ。
「まずは王城へと向かうわよ!」
エイミーの言葉通り、人混みに紛れながらも俺達は都市の北側に位置する王城へと向かった。
そして近くにある茂みへと2人揃って潜り込んだ。
「コウヤ、あなたの魔力分けて貰うわね。魔力吸引」
エイミーが俺の肩に手を置きながら、そう呟く。
隠形隠蔽の魔法で、魔力をかなり使ったらしく、それを補充する為だ。
次の瞬間、俺の全身から魔力が抜けていくのを感じた。
その感覚は決して不快なモノではなく、むしろ肩こりが解消されたかのような、淡い快感すらあった。
「うっ、ちょっと! あなたどれだけ魔力あるのよ! 吸いすぎちゃったじゃない!」
そんな俺の様子に反して、魔力を吸い取った側のエイミーが逆に苦しい表情をしている。
「いや、そんなこと言われてもな……」
流石にその文句は理不尽ではなかろうか?
ともかく、俺から吸収する事で魔力を回復させたエイミーが、今度は王城全体に対し大掛かりな探知魔法を使用する。
俺がギフト〈千里把握〉を使用する手もあったのだが、あれを使うと頭痛がヤバいので、なるべくなら使わないに越した事は無い。
ちなみにこれは余談だが、〈ペインキラー〉のギフトを併用すればいいんじゃないかと思い以前試してみたのだが、感覚が消える副作用のせいか、モニター操作がめちゃくちゃになったので、残念ながら却下することになった。まったく便利なようでイマイチ使えないギフトだ。
「魔力探知」
エイミーの掌から光が放たれたかと思うと、それが王城全体を薄く包み込んだ。
どうも、対象範囲内の魔力を探知する魔法のようだ。
「かなり大きな魔力が3つあるわ。魔力の質的にも間違いないわ。ビンゴね。勇者達はこの王城内にいるわ」
エイミーのその言葉に俺は頷きで返す。
それから、エイミーに対し魔力吸引を使った再度の魔力供給を行った後、隠形隠蔽ステルスハイドの魔法を使用して、俺達は王城内へと向かうのだった。
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