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#56
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ギフト〈転移門〉の力によって、俺達は孤児院の敷地内へと帰って来た。
「コウヤ、その傷は本当に大丈夫なの?」
エイミーが心配そうにボロボロとなった俺の右足を見ている。
「ああ。今治すよ」
馬鹿みたいに油断し、こんな傷を負ってしまった自分への戒めとして、敢えて傷をそのままにしておいたのだが、流石にこのままの姿では不味いだろう。
「〈癒しの御手〉」
仕方なしに、俺はギフトの力を発動する。
俺の手が患部へと振れた瞬間、瞬く間に傷が癒えていく。
このギフトは、魔力の消費が大きく制御に難があった為、今まで扱うのを控えていたのだが、今はあっさりと使うことが出来た。
……恐らく戦闘などで魔力を大量消費したせいで、保有魔力が一時的に減っているおかげだろう。
「凄いわね……。治癒魔法なんて、目じゃないくらいの再生力じゃない。本当に反則だわ、あなた……」
呆れた声でエイミーがそう呟く。
その姿は悲しい事に、もはや見慣れたものになりつつあった。
「魔力制御に意外と気を遣うし、言う程便利じゃないぞこれ? この間配った薬で、十分代用効くしな」
「まあそうかもしれないけど……」
納得いかなさそうな顔のエイミー。
「まあ、それよりも戻ろうぜ。俺、疲れたわ」
「ええ、そうね」
孤児院へと戻った俺は、子供たちの相手をしていたリズリアに無事帰った旨を報告した後、一旦自室へと戻ることになった。
「コウヤ、大分疲れた顔してるわよ。一度、休息を取ったら? 報告は私がしておくから」
「そうだな……。悪いが、頼んだ。勇者たちとの会話内容はこれに録音してある。……聞かせる相手には注意しろよ?」
「ええ。分かっているわ」
そう言ってボイスレコーダーをエイミーに手渡す。
その後自室に戻った俺は、ベッドへと思いっきり身を投げ出す。
久しぶりにがっつり戦闘をしたせいか、身体もなんかだるい。
別に動けない程ではないが、今ここで無理をする理由もないだろう。
なので、エイミーの言葉に甘えさせて貰う事にしたのだ。
そうしてベッドに横になっていると、襲ってきていた睡魔に抗う事なく俺は身を委ね、眠りにつくことにした。
◆
気が付けば、俺は夢の中にいた。
身動きが取れない俺の視界の中で、まだ子供だった俺が、爺と対面している。
多分これは俺の記憶の中に存在する、過去の出来事だ。
「いくぞっ! くそじじい!」
今の俺よりも大分高い声で、そう叫んでいる。
「はっはっはっ! 来い馬鹿弟子がぁ!」
道着を纏った爺が、腕組みをしたままそう返す。
60を超えている筈なのに、そうとは思えない程に若々しい立ち姿だ。
子供の俺が、魔力剣を構えて爺目掛けて突進していく。
「甘いぞ! 馬鹿弟子がぁ!」
振り下ろされた剣を爺が片手で軽く受け止め、もう片方の腕を子供の俺へと伸ばす。
「闇縄封縛!」
黒い糸が幾重にも絡まり、子供の俺は身動きを取れない状態で地面へと転がされる。
「浄化してやろう!」
それを尻目に爺がバックステップで距離を取った後、上空高くへと飛び上がる。
そして、両手の間に魔力を集中させていく。
「南宮流奥義! エレメンタルストライクぅ!」
いくつもの属性の魔力が入り混じった巨大な球体と化したそれを、倒れている子供の俺へと目掛けて蹴り飛ばす。
爺が意図したのか、幸いにもその球体は子供の俺へと直撃はしなかった。
だが、余波だけでも相当なモノだ。
「うわぁぁぁ」
身動き取れない状態で、それを一身に受けた子供の俺は、見るからにボロボロになっていた。
恐らく全身のあちこちの骨が折れている酷い有様だ。
「まだまだ修行が足りん!」
爺は子供の俺に対しそう言い放ちつつ、治癒魔法を使い傷を癒していく。
「く、くそじじい……っ」
魔法で傷が癒えても、体力まで戻る訳ではない。
息も絶え絶えになりながら、子供の俺は爺へと悪態を吐く。
「コウヤよ。お前には、まだ甘さがあるな。ワシを殺すべき敵だと認識できておらぬ。その有様では、いざという時に不覚を取るぞ」
子供の俺はそんな爺の言葉に対し、何を言っているんだと、疑問の表情を浮かべている。
だが、それを眺めていた今の俺には、その言葉が胸に突き刺さる。
「敵と一度見定めたなら、躊躇など不要。即殺の精神で行け! そのような半端な覚悟では、要らぬ隙をつくるばかりだぞ」
まったくもって、爺の言う通りだった。
ナギサがロクでもない人間だと、俺には十分分かっていた筈なのに、中途半端に痛い目を見せるなんて真似をしたから、逆に俺が痛い目を見る羽目になった。
ねじ曲がった人間の更生など、そいつの親にでも任せておけばいいのだ。俺のやるべき事じゃない。
明確な悪意を向けて来た相手は、かつての爺のように容赦なく淡々と叩き潰すべきなのだ。
ああ、くそっ。自分の馬鹿さ加減にイライラするっ!
頭を掻きむしりたい気分なのに、身動きの聞かない夢の中じゃ、それすらもままならない。
「……ヤさ…」
そうやって足掻いているいると、どこかから声が聞こえてきた。
「コウヤさまっ! どうかなされたんですか!」
目が覚めると、目の前には心配そうな表情のフィナの姿があった。
「ああ……フィナか。大丈夫だ、ちょっと昔の夢を見ていただけだよ」
「そう、ですか。……でも、本当に心配しました。なんだかとても苦しそうな表情を浮かべていましたので……」
「そうか、心配かけて澄まなかったな」
フィナを安心させるように、彼女の頭を撫でてやる。
と同時に、俺にはこの子達を守る義務があることを思い出す。
その為には、ナギサの存在はどう考えても邪魔だ。
あれを生かしておいては、今後間違いなく害がある。
次は確実に殺す。それを邪魔する奴がいれば、そいつもまとめてだ。
内心でそう決意を新たにしつつ、今はフィナの笑顔を見ながら疲れた心を癒す事にした。
「コウヤ、その傷は本当に大丈夫なの?」
エイミーが心配そうにボロボロとなった俺の右足を見ている。
「ああ。今治すよ」
馬鹿みたいに油断し、こんな傷を負ってしまった自分への戒めとして、敢えて傷をそのままにしておいたのだが、流石にこのままの姿では不味いだろう。
「〈癒しの御手〉」
仕方なしに、俺はギフトの力を発動する。
俺の手が患部へと振れた瞬間、瞬く間に傷が癒えていく。
このギフトは、魔力の消費が大きく制御に難があった為、今まで扱うのを控えていたのだが、今はあっさりと使うことが出来た。
……恐らく戦闘などで魔力を大量消費したせいで、保有魔力が一時的に減っているおかげだろう。
「凄いわね……。治癒魔法なんて、目じゃないくらいの再生力じゃない。本当に反則だわ、あなた……」
呆れた声でエイミーがそう呟く。
その姿は悲しい事に、もはや見慣れたものになりつつあった。
「魔力制御に意外と気を遣うし、言う程便利じゃないぞこれ? この間配った薬で、十分代用効くしな」
「まあそうかもしれないけど……」
納得いかなさそうな顔のエイミー。
「まあ、それよりも戻ろうぜ。俺、疲れたわ」
「ええ、そうね」
孤児院へと戻った俺は、子供たちの相手をしていたリズリアに無事帰った旨を報告した後、一旦自室へと戻ることになった。
「コウヤ、大分疲れた顔してるわよ。一度、休息を取ったら? 報告は私がしておくから」
「そうだな……。悪いが、頼んだ。勇者たちとの会話内容はこれに録音してある。……聞かせる相手には注意しろよ?」
「ええ。分かっているわ」
そう言ってボイスレコーダーをエイミーに手渡す。
その後自室に戻った俺は、ベッドへと思いっきり身を投げ出す。
久しぶりにがっつり戦闘をしたせいか、身体もなんかだるい。
別に動けない程ではないが、今ここで無理をする理由もないだろう。
なので、エイミーの言葉に甘えさせて貰う事にしたのだ。
そうしてベッドに横になっていると、襲ってきていた睡魔に抗う事なく俺は身を委ね、眠りにつくことにした。
◆
気が付けば、俺は夢の中にいた。
身動きが取れない俺の視界の中で、まだ子供だった俺が、爺と対面している。
多分これは俺の記憶の中に存在する、過去の出来事だ。
「いくぞっ! くそじじい!」
今の俺よりも大分高い声で、そう叫んでいる。
「はっはっはっ! 来い馬鹿弟子がぁ!」
道着を纏った爺が、腕組みをしたままそう返す。
60を超えている筈なのに、そうとは思えない程に若々しい立ち姿だ。
子供の俺が、魔力剣を構えて爺目掛けて突進していく。
「甘いぞ! 馬鹿弟子がぁ!」
振り下ろされた剣を爺が片手で軽く受け止め、もう片方の腕を子供の俺へと伸ばす。
「闇縄封縛!」
黒い糸が幾重にも絡まり、子供の俺は身動きを取れない状態で地面へと転がされる。
「浄化してやろう!」
それを尻目に爺がバックステップで距離を取った後、上空高くへと飛び上がる。
そして、両手の間に魔力を集中させていく。
「南宮流奥義! エレメンタルストライクぅ!」
いくつもの属性の魔力が入り混じった巨大な球体と化したそれを、倒れている子供の俺へと目掛けて蹴り飛ばす。
爺が意図したのか、幸いにもその球体は子供の俺へと直撃はしなかった。
だが、余波だけでも相当なモノだ。
「うわぁぁぁ」
身動き取れない状態で、それを一身に受けた子供の俺は、見るからにボロボロになっていた。
恐らく全身のあちこちの骨が折れている酷い有様だ。
「まだまだ修行が足りん!」
爺は子供の俺に対しそう言い放ちつつ、治癒魔法を使い傷を癒していく。
「く、くそじじい……っ」
魔法で傷が癒えても、体力まで戻る訳ではない。
息も絶え絶えになりながら、子供の俺は爺へと悪態を吐く。
「コウヤよ。お前には、まだ甘さがあるな。ワシを殺すべき敵だと認識できておらぬ。その有様では、いざという時に不覚を取るぞ」
子供の俺はそんな爺の言葉に対し、何を言っているんだと、疑問の表情を浮かべている。
だが、それを眺めていた今の俺には、その言葉が胸に突き刺さる。
「敵と一度見定めたなら、躊躇など不要。即殺の精神で行け! そのような半端な覚悟では、要らぬ隙をつくるばかりだぞ」
まったくもって、爺の言う通りだった。
ナギサがロクでもない人間だと、俺には十分分かっていた筈なのに、中途半端に痛い目を見せるなんて真似をしたから、逆に俺が痛い目を見る羽目になった。
ねじ曲がった人間の更生など、そいつの親にでも任せておけばいいのだ。俺のやるべき事じゃない。
明確な悪意を向けて来た相手は、かつての爺のように容赦なく淡々と叩き潰すべきなのだ。
ああ、くそっ。自分の馬鹿さ加減にイライラするっ!
頭を掻きむしりたい気分なのに、身動きの聞かない夢の中じゃ、それすらもままならない。
「……ヤさ…」
そうやって足掻いているいると、どこかから声が聞こえてきた。
「コウヤさまっ! どうかなされたんですか!」
目が覚めると、目の前には心配そうな表情のフィナの姿があった。
「ああ……フィナか。大丈夫だ、ちょっと昔の夢を見ていただけだよ」
「そう、ですか。……でも、本当に心配しました。なんだかとても苦しそうな表情を浮かべていましたので……」
「そうか、心配かけて澄まなかったな」
フィナを安心させるように、彼女の頭を撫でてやる。
と同時に、俺にはこの子達を守る義務があることを思い出す。
その為には、ナギサの存在はどう考えても邪魔だ。
あれを生かしておいては、今後間違いなく害がある。
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内心でそう決意を新たにしつつ、今はフィナの笑顔を見ながら疲れた心を癒す事にした。
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