インターネットで異世界無双!?

kryuaga

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#68

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「なんだこれ……」



 計5本もの細剣が、俺の腹を貫いているという異常事態が、俺の視界には広がっていた。

 その光景を見た俺は、痛みも出血も、刺された感覚さえほとんど無い事に気付く。



「くそっ」



 良く分からないが、ともかくマズイ事だけは分かる。

 俺は腹に刺さった剣へと手を伸ばし、引き抜こうとするが――



「あ、あれ……」



 身体に力が入らない。

 手は細剣へと添えられたまま、それ以上動かすことすらままならない。



「……ようやく効いたのか」



 とここで、横側から声が聞こえてくる。

 

 この声は、まさか……ありえない!



 俺はどうにか声の方へと視線を動かし、声の主の姿を確認する。



「何故生きている! サトル!」



 そこには、傷一つ無い姿のサトルが立っていた。

 

「確かに俺は一度死んだ。それは間違いない。だが、俺の持つギフト〈ダブルビーイング〉の力によって、俺という存在は2人同時に、この世界に存在している」



 どうやら俺が殺したサトルは、2人存在するうちの片割れに過ぎなかったらしい。



「俺はこの世界に来てからずっと、世界各地を巡り有用な配下となり得る魔物を探していた。そして見つけたのがこいつらだ」



 俺に刺さっていた細剣が、見る見るうちに姿を変えていく。

 それは、巨大な蜂のような姿だった。



「サイレントビーと呼ばれる魔物だ。こいつらは気配を消し音も無く敵に近づき、自らの姿を細剣へと変え敵を突き刺す。そんな奴らを俺の〈モンスターテイム〉の力で強化し、強力な麻痺毒を持たせることに成功した」



 だが、従える事が出来る魔物は、5体だったはずだ。

 ツバキのギフトで確認したから、まずそれは間違いない。



「5体という制限は、あくまで俺1人に対してだ。2人併せれば、従える事が出来る魔物の数は10体になる」



 ……要するにミスリードさせられていた訳か。

 ギフトの力に頼り過ぎるのも、考えモノだな。



「……もしかして、アルストロメリアの街をシャドウウルフに襲わせたのは、サトル様、あなたなのですか?」



 リーゼが、そう口を挟んでくる。



「ああ、そうだ。それは俺がやった事だ」



 それに対し、サトルは首肯する。

 思い返せば、確かにシャドウウルフの動きには、何者かの意思が介在しているように感じられた記憶がある。

 まさか、その犯人がサトルだったとは思いもしなかったが。



「そうですか。こちらに都合が良過ぎるとタイミングだと思っていたのですが、道理で……」



 どうやらあの襲撃は、サトルの独断による行動だったらしい。

 多分アリバイはあったのだろうが、〈ダブルビーイング〉の力があれば、そんなものに意味は無い。



「どうして、そんな真似を?」



「ただ強者を燻りだしたかっただけだ。……予想以上の大物が釣れたがな」



 多分俺の事を言っているのだろう。



「その後、貴様がミナミヤビャクヤの孫だったと知った時には、女神に感謝を覚えたものだ」



「もしかして、お前うちの爺に何か恨みでもあるのか?」



 全方位で恨みを買いまくっているあの爺の事だ。

 サトルの恨みを買っていてもおかしくは無い。



「……? いや、むしろ尊敬しているが?」



 そう思ったのだが、どうやら違うらしい。

 

 ……尊敬しているだなんて、あの爺の本性を知らないから言えるんだろうな。



 まあ、アレはある一面からだけ判断すれば、称賛の嵐を浴びても決して変では無い存在なのだ。

 例えば、地球侵攻を目論んだ異星人が放った大質量衛星の落下攻撃を防ぎ、逆襲と言わんばかりにそのまま敵母星を消し飛ばした事件など、英雄視されるに十分な逸話を山ほど持っているのだ。

 

 ……話が逸れたな。



「……言っておくが、時間を多少稼ごうが、その麻痺毒は解けない。……だが念のため、追加しておくか。やれ」



 まったく、油断も隙も無い奴だ。

 今の俺に足りていないモノを持ち合わせているその姿を、羨ましく感じてしまう。

 

 サトルの指示に従いサイレントビーが、再び細剣へと姿を変え、それらが俺の全身を一斉に貫く。

 

 やはり痛みは無い。

 それと意識していれば、刺された感覚は辛うじて掴めるが、不意打ちを受けるとそれに気付かないまま、毒を流し込まれるのだろう。先程の俺のように。



「さて、状況的に俺の勝利だと思うのだが、どうだろうか?」



 サトルが相変わらずの無表情で、そう尋ねて来る。



「おいおい。俺はまだ死んじゃいないぜ? いいからトドメを刺せよ」



 まったく、最近の俺はどうもいけない。

 油断しては痛い目に遭うばかりだ。

 ……こんな無様を晒す俺なんか、いっそ一度死んでしまえばいい。



「……そうか」



 若干、考えるような間があったが、やがて悟ったようにサトルが拳を構える。



「待ってください、サトル様! 流石に殺すのはやり過ぎです!」



「そうよ! サトル、待ちなさい!」



 リーゼやツバキが、サトルの行動を止めようとこちらへ駆け出そうとする。

 が、その前に、全身傷だらけのドラゴンが立ち塞がるのが見える。

 

 ……そういや、アイツまだ生きていたんだったな。



「グォォォン」



「くっ、どきなさい!」



 ドラゴンに行く手を阻まれ、立ち往生しているツバキたち。

 それを尻目に、サトルがこちらへと向かってくる。



「コウヤ、感謝する。これで俺は新たなステージへと昇れる」



「御託はいいからさっさとやれよ」



「ああ、さらばだ」



 そして、サトルの渾身の一撃が俺を貫き、俺は死んだ。





 ドクン。



 そして、俺は再起動する。

 完全に停止した筈の心臓が、ゆっくりと脈を打つ。



 俺の持つギフト〈不死鳥の加護〉が無事発動したようだ。

 これは、俺の肉体が死へと至った段階で、その肉体・精神を完全再生してくれるギフトだ。

 再使用には、1ヶ月程間隔を置く必要がある為、不死という訳にはいかないが、それでもかなり強力なギフトだ。



 そして、このギフトの存在が、俺を腐らせた。



 結局、何をやってもミスが許されると状況とは、人から著しく緊張感を奪うのだ。

 そして緊張感が無い状況が続けば、やがて人は堕落する。そう、今の俺のように。



 結局、俺は欲張り過ぎたのだろう。

 最初に、女神様からギフトをあれもこれもと、分捕ったのが間違いの始まりだったように思う。



 そんなものが無くとも、俺は元々魔法が扱えたし、それなり以上に戦えたのだ。

 精々〈電脳網インターネット接続〉のギフトさえあれば十分だったように思う。



 過ぎたるは猶及ばざるが如し、という言葉を体現するような有様だったのだ、俺は。



 全てを捨て去るのは今更不可能だが、せめて、この死すらも無意味にするギフトだけは、ここで無効化しよう。

 そう考えて俺は、サトルの齎す死を受け入れたのだ。



「ありがとう、サトル。俺を殺してくれて」



 御蔭で、今の俺の頭はかつてないほどにクリアだ。

 

「何が……起きた?」



 サトルが驚愕に目を剥いているが、無理もない。

 確実に殺した筈の人間が、生き返ったのだ。



 ……ついちょっと前に、同じ思いをさせられたので、図らずも意趣返しになってしまったが、まあいいだろう。



「ギフトの力だ」



 感謝を兼ねて、それだけは教えるが、これ以上俺の手札を晒すつもりは無い。

 だってもう俺は死ねないのだから。



「さてと、第2ラウンド開始といこうか。……言っておくが、今の俺はさっきまでの10倍は強いぞ。そのつもりで掛かって来い」



 こうして、俺とサトルの戦いは、新たなる局面を迎えたのだった。



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