2 / 62
2
しおりを挟む
「休暇を取っておいてよかった。でも、本当はレイーアが意識が戻った後に、もっとかわいがる予定だったんだけど……」
「休暇?」
首を傾げるレイーアに、マットが頷く。
「そうだよ。昨日、僕がレイーアを抱くと決めた時に、女官長と騎士団長には既に二人の休暇は申請しているから」
レイーアがぽかん、と口を開く。
「決めた時?」
レイーアには、マットの言っていることが、全く理解できなかった。
マットがニッコリと笑う。
「そう。あんなにふにゃふにゃしているレイーアを見たら、もう抱くしかないと思ったんだ」
「……意味が分からないんだけど?」
レイーアは瞬きを繰り返す。
「そうか。レイーアには言ったことがなかったね。レイーア、愛しているよ」
甘い視線が、レイーアに注がれる。
「いや、意味が分からないんだけど」
少なくとも、今の今まで、レイーアはマットに好かれているという自覚はなかった。
数回話したことはあったが、マットは普通に爽やかなだけで、レイーアの存在に対して何かを思っているような気はしなかった。
そして、もう一つ疑問がレイーアに沸いた。
「……には、って私以外に誰に言うの?」
もっともな疑問だった。
「マディーには言ったことは何度もあるけどね」
マディー。それは、レイーアの弟の名前だった。
「知り合いなの? どうして?」
マットが肩をすくめる。
「同じ年だから、学院で仲良くしてたんだよ。そこで、マディーからレイーアの愛らしい話をずっと聞いていたんだ。そして、王城で働くようになって、実際のレイーアを見たら……好きになるしかないだろう?」
だろう? と言われても、レイーアは頷ける気がしなかった。
「えーっと、よくわからないわ」
「わからなくても、わかってもらうように頑張るから。……本当は今日一日を掛けてわかってもらう気でいたんだけど、今日はレイーアの疑問を解決するのが先だからね」
マットにウインクをされても、レイーアの疑問は湧き出て来るばかりだ。
「いや、あの、私の同意はどこにもないんだけど?」
間違いなく、レイーアは同意した記憶はない。
「いやだな、昨日レイーアは、僕の言葉に同意したんだよ? そうでなければ、僕だってレイーアを抱いたりしない」
「えーっと、それは酔っぱらっている時のことで、無効では?」
レイーアの必死の言葉に、マットが笑う。
「知っている、レイーア。お酒は、ヒトの理性を緩ませて、本性を現すんだ。その本性で、レイーアは僕の提案に頷いたんだよ。だから、心の奥底では、僕に惹かれていたんだ」
そうなのか、とレイーアはちょっとだけ思う。4才も年下だから恋愛対象外だと思っていたが、本音ではマットを好きだったのかもしれない、とレイーアは思い出す。
だが、ハッと我に返る。
「でも、それと結婚は別物よ。惹かれているから結婚するとは決められないわ!」
レイーアの言葉に、マットが悲しそうに眉を下げる。レイーアは悪いことをした気持ちになる。だが、まだ淡い恋心を自覚しただけで、結婚することになるのは、話が飛び過ぎている。
「レイーア。僕が言ったことを覚えていないのかな?」
マットが悲しげな表情のまま、レイーアを見る。
「えーっと?」
レイーアが首を傾げる。
「我がクーン男爵家では、初めて契った相手と結婚することと、家訓で決まっているんだよ。だから、もう結婚は決まっている話だ」
レイーアは確かにその話を聞いたのを思い出した。
「いや、でも……」
でも、抵抗したい何かがレイーアにはあった。腑に落ちなかった。
「レイーア。僕がこの家訓を破ったら、どうなるのか言ってなかったね?」
マットがぎゅっとレイーアの体を抱きしめた。
「男爵家からの追放だよ。そうなったら、僕は騎士を辞めなくてはいけないんだ」
王城で働くためには、後ろ盾がいる。それは貴族であることが王城で働く条件だからだ。稀に庶民で、貴族から特別に目を掛けられて後ろ盾を貰う人間もいるが、それは本当に稀だ。
だから、もし男爵家から追放されたとしたら、確かにマットは騎士を辞めなくてはならないだろう。
「それは……」
レイーアが絶句した。
「だからレイーア。僕に、初恋の相手との結婚と、仕事を続けさせる権利をくれないかな?」
泣きそうなマットに、レイーアは頷くしかなかった。
流石にマットの人生をふいにさせることなど、レイーアには出来なかった。それほどレイーアは冷徹なわけではないし、マットに淡い恋心を持っているだろうことは間違いないからだ。
ぱぁ、とマットの顔が満面の笑みになる。
「じゃあ、この後、クーン男爵家に行って、その足でガリヴァ男爵家にも行こう。結婚誓約書は、両親にサインをお貰えばいいから」
マットの提案に、レイーアは曖昧に頷いた。あまりの展開の速さに、頭が付いて行かない。
「あ、新居は、城下町にもう用意してあるからね。レイーアも気に入ってくれると思うんだ。きちんとマディーの意見は貰っているから、安心して」
レイーアは何だか腑に落ちない気持ちで、頷いた。
「休暇?」
首を傾げるレイーアに、マットが頷く。
「そうだよ。昨日、僕がレイーアを抱くと決めた時に、女官長と騎士団長には既に二人の休暇は申請しているから」
レイーアがぽかん、と口を開く。
「決めた時?」
レイーアには、マットの言っていることが、全く理解できなかった。
マットがニッコリと笑う。
「そう。あんなにふにゃふにゃしているレイーアを見たら、もう抱くしかないと思ったんだ」
「……意味が分からないんだけど?」
レイーアは瞬きを繰り返す。
「そうか。レイーアには言ったことがなかったね。レイーア、愛しているよ」
甘い視線が、レイーアに注がれる。
「いや、意味が分からないんだけど」
少なくとも、今の今まで、レイーアはマットに好かれているという自覚はなかった。
数回話したことはあったが、マットは普通に爽やかなだけで、レイーアの存在に対して何かを思っているような気はしなかった。
そして、もう一つ疑問がレイーアに沸いた。
「……には、って私以外に誰に言うの?」
もっともな疑問だった。
「マディーには言ったことは何度もあるけどね」
マディー。それは、レイーアの弟の名前だった。
「知り合いなの? どうして?」
マットが肩をすくめる。
「同じ年だから、学院で仲良くしてたんだよ。そこで、マディーからレイーアの愛らしい話をずっと聞いていたんだ。そして、王城で働くようになって、実際のレイーアを見たら……好きになるしかないだろう?」
だろう? と言われても、レイーアは頷ける気がしなかった。
「えーっと、よくわからないわ」
「わからなくても、わかってもらうように頑張るから。……本当は今日一日を掛けてわかってもらう気でいたんだけど、今日はレイーアの疑問を解決するのが先だからね」
マットにウインクをされても、レイーアの疑問は湧き出て来るばかりだ。
「いや、あの、私の同意はどこにもないんだけど?」
間違いなく、レイーアは同意した記憶はない。
「いやだな、昨日レイーアは、僕の言葉に同意したんだよ? そうでなければ、僕だってレイーアを抱いたりしない」
「えーっと、それは酔っぱらっている時のことで、無効では?」
レイーアの必死の言葉に、マットが笑う。
「知っている、レイーア。お酒は、ヒトの理性を緩ませて、本性を現すんだ。その本性で、レイーアは僕の提案に頷いたんだよ。だから、心の奥底では、僕に惹かれていたんだ」
そうなのか、とレイーアはちょっとだけ思う。4才も年下だから恋愛対象外だと思っていたが、本音ではマットを好きだったのかもしれない、とレイーアは思い出す。
だが、ハッと我に返る。
「でも、それと結婚は別物よ。惹かれているから結婚するとは決められないわ!」
レイーアの言葉に、マットが悲しそうに眉を下げる。レイーアは悪いことをした気持ちになる。だが、まだ淡い恋心を自覚しただけで、結婚することになるのは、話が飛び過ぎている。
「レイーア。僕が言ったことを覚えていないのかな?」
マットが悲しげな表情のまま、レイーアを見る。
「えーっと?」
レイーアが首を傾げる。
「我がクーン男爵家では、初めて契った相手と結婚することと、家訓で決まっているんだよ。だから、もう結婚は決まっている話だ」
レイーアは確かにその話を聞いたのを思い出した。
「いや、でも……」
でも、抵抗したい何かがレイーアにはあった。腑に落ちなかった。
「レイーア。僕がこの家訓を破ったら、どうなるのか言ってなかったね?」
マットがぎゅっとレイーアの体を抱きしめた。
「男爵家からの追放だよ。そうなったら、僕は騎士を辞めなくてはいけないんだ」
王城で働くためには、後ろ盾がいる。それは貴族であることが王城で働く条件だからだ。稀に庶民で、貴族から特別に目を掛けられて後ろ盾を貰う人間もいるが、それは本当に稀だ。
だから、もし男爵家から追放されたとしたら、確かにマットは騎士を辞めなくてはならないだろう。
「それは……」
レイーアが絶句した。
「だからレイーア。僕に、初恋の相手との結婚と、仕事を続けさせる権利をくれないかな?」
泣きそうなマットに、レイーアは頷くしかなかった。
流石にマットの人生をふいにさせることなど、レイーアには出来なかった。それほどレイーアは冷徹なわけではないし、マットに淡い恋心を持っているだろうことは間違いないからだ。
ぱぁ、とマットの顔が満面の笑みになる。
「じゃあ、この後、クーン男爵家に行って、その足でガリヴァ男爵家にも行こう。結婚誓約書は、両親にサインをお貰えばいいから」
マットの提案に、レイーアは曖昧に頷いた。あまりの展開の速さに、頭が付いて行かない。
「あ、新居は、城下町にもう用意してあるからね。レイーアも気に入ってくれると思うんだ。きちんとマディーの意見は貰っているから、安心して」
レイーアは何だか腑に落ちない気持ちで、頷いた。
291
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる