【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

マディー・ガリヴァの憂鬱⑮

「マディー、どうしたんだ？」
　女生徒たちの完全なる誤解からなる会話を聞いてがっくりと項垂れていたマディーに、マットが声をかける。
「……聞いてみろよ」
　マディーは顎で教室をさした。

　じっと聞いていたマットが、うん、と頷くと、ドアを開けて教室に入っていった。
「あ、マット君」
　女生徒たちが気まずそうに声を潜めた。
　マディーも後ろからついていく。

「妙に噂をたてないでもらえるかな」
　きっぱりと告げるマットに、女生徒たちが気まずそうに顔を見合わせた。
「ごめんなさい。いつも仲良さそうだから、つい」
　女生徒の一人が告げた。マットが頷く。マディーはホッとした。

「確かに、マディーは大切だよ。だって……」
　みるみるうちに顔を赤くするマットに、女生徒たちがざわめく。
「とにかく、変に噂にしないでくれるかな？」
　女生徒たちはハッとして、コクコクと頷いた。
「そうね。人の恋路を噂話で面白おかしく話すなんて最低よね！」

　女生徒の一人が手をぎゅっと組んで大きく頷いた。
　他の女生徒も力強く頷いた。
「ありがとう！」
　マットが笑顔を見せた。
　だが、マディーは嫌な予感しかしなかった。

「じゃあ！」
　教室を出るマットにマディーは何とも言えない気持ちでついていく。
　教室を出る瞬間、女生徒たちが大きくうなずきあったのが見えた。
「二人の恋を応援しましょう！」
「違うから！」

　マディーが顔を教室の中に向ける。
　なのに、女生徒たちが訳知り顔で頷いた。
「わかってるわ！」
「本当に違うから！」
「大丈夫言わないから！」
　どう見ても、女生徒たちは勘違いしている。

　こいつら、やべぇ！
　マットの行動は完全に逆効果だった。そしてマディーの否定も。
　マディーはこれ以上の抵抗をする気力が出なかった。
　あきらめて教室を出た。
「良かったね、誤解がとけて」
　マットはニコニコしている。

「いや、更に誤解が進んだぞ」
　マディーはマットに告げる。
「……そうか。やっぱり、僕の本命がレイーアさんだって、ばれちゃうんだね……」
「いや違う」

「じゃあ、何が誤解されたって言うの？」
「俺とマットが恋仲だって」
「それならいいね！　マディーだったら誰かに狙われても、自分で身を守れるもんね！」
「いや、誤解されると俺が困るから！」

　マディーだって婚約者も彼女もいないのだ。変な噂が学園で広まると、今後に関わる。
「レイーアさんが困るより全然問題ないよ！」
　マディーは会話が成り立っている気が全然しなかった。