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シェリ嬢の回想16
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優雅な音楽が流れる中、一通り親交のある貴族に挨拶を終えたマディーは、窓辺に寄りかかる。
今日は、レイーアとマットが結婚したことが公になってから初めて迎えた夜会のため、マディーにも祝福の声が沢山かけられていた。
だから、シェリがマディーのところに行けたのは、大分時間が経ってからだった。
「マット君、お姉さまと結婚したんですって?」
マディーが疲れた顔を上げた。
シェリは心の中でねぎらう。本当は嫌なはずだ。自分ではない相手との結婚を祝われていることが。
「ああ。久しぶりだな、シェリ嬢」
疲れた様子だったが、マディーがふ、と笑った。シェリはドキリとする。マディーは領地に下がってしまっているため、卒業してから会うのは半年ぶりくらいだった。
半年ぶりに会ったせいか、マディーはどこか大人っぽく見えたし、精悍な顔に色気が見えて驚いた。
学院にいるときには感じなかったことだった。
「えーっと、おめでとう、と言っていいのかしら?」
とにもかくにも複雑な気分でシェリは、マディーを真っ直ぐに見る。
「ああ。盛大に祝ってくれていい」
マディーはきっぱりと告げた。どうやら、シェリの予想は当たっていたらしい。二人は関係を続けるのだ。
ツキリ、と何だか胸が痛んだような気がしたが、気のせいだと流した。
「そうですか。おめでとうございます」
シェリがニッコリと笑う。その笑顔に、マディーが目を見開いた。
シェリは自分の笑顔がなぜマディーを驚かせたのかは分からなかった。だが、はた、と気づく。きっとマディーはマットとの仲をシェリが面白おかしく見ていたんだと思っているのだろう。
本当に二人のことを応援していたんだと、シェリは言いたくなった。
「二人は、そういう形に落ち着くことにしたんですね?」
シェリの言葉に、マディーが首をかしげた。
「二人?」
聞きなおされて、シェリが頷く。
「お姉さまを隠れ蓑に、二人の関係を続けるんでしょう?」
マディーが苦い顔をする。
指摘はされたくなかったんだろう。だが、シェリだって本気で応援しているんだと分かって欲しかった。
「俺は異性にしか興味はないし、マットは姉上にしか興味はない!」
マディーが冷たく告げる。シェリは目を見開く。まさか、マットが本気で心変わりをしたとは思っていなかった。
「……本当に、マディー君、フラれてしまったんですわね!」
「だーかーらー!」
マディーが大きな声を出して、ハッとする。どうやら視線を集めてしまったらしいとシェリにも分かる。失敗した、とシェリは思った。まさかこんなところで、マディーの失恋を大っぴらにするつもりなどなかったのだ。
マディーがシェリの手を引くと、そのままバルコニーに出た。
「ごめんなさい。繊細な内容なのに、あんなところで口にしてしまって」
シェリが俯く。本当に何から何まで申し訳なかった。
「勘違いだって言ってるだろ! 俺の恋愛対象は女性なの」
「え、嘘……」
呆然とマディーをシェリは見上げた。信じられなかった。
「だって、あんなに熱々でしたのに……」
走馬灯のように、学院時代のことが思い出される。二人は、間違いなく熱々だったはずだ。
「シェリ嬢と付き合いたいと思うことはあっても、マットと付き合いたいと思うことはない!」
マディーの言葉を理解するのに、シェリは時間を要した。マディーが付き合いたいのは、シェリ? シェリが見る見るうちに真っ赤になる。
「うそ、ですわよね?」
見る見るうちに、マディーの顔が近づいてきて、唇に何かが触れた。
シェリは固まる。
「こんなこと、好きでもない奴にやりたいとは思わない」
目を見開いてマディーを見つめた。
信じられなかった。だけど、嬉しいと思う気持ちが湧いてくるのも、嘘じゃなかった。
自分では気付いてなかった……気付かないふりをしてきていたけれど、シェリはずっとマディーのことが気になって仕方なかったのかもしれなかった。
でも、顔をしかめるマディーに、本当なのかと尋ねる勇気は、シェリにはなかった。
完
今日は、レイーアとマットが結婚したことが公になってから初めて迎えた夜会のため、マディーにも祝福の声が沢山かけられていた。
だから、シェリがマディーのところに行けたのは、大分時間が経ってからだった。
「マット君、お姉さまと結婚したんですって?」
マディーが疲れた顔を上げた。
シェリは心の中でねぎらう。本当は嫌なはずだ。自分ではない相手との結婚を祝われていることが。
「ああ。久しぶりだな、シェリ嬢」
疲れた様子だったが、マディーがふ、と笑った。シェリはドキリとする。マディーは領地に下がってしまっているため、卒業してから会うのは半年ぶりくらいだった。
半年ぶりに会ったせいか、マディーはどこか大人っぽく見えたし、精悍な顔に色気が見えて驚いた。
学院にいるときには感じなかったことだった。
「えーっと、おめでとう、と言っていいのかしら?」
とにもかくにも複雑な気分でシェリは、マディーを真っ直ぐに見る。
「ああ。盛大に祝ってくれていい」
マディーはきっぱりと告げた。どうやら、シェリの予想は当たっていたらしい。二人は関係を続けるのだ。
ツキリ、と何だか胸が痛んだような気がしたが、気のせいだと流した。
「そうですか。おめでとうございます」
シェリがニッコリと笑う。その笑顔に、マディーが目を見開いた。
シェリは自分の笑顔がなぜマディーを驚かせたのかは分からなかった。だが、はた、と気づく。きっとマディーはマットとの仲をシェリが面白おかしく見ていたんだと思っているのだろう。
本当に二人のことを応援していたんだと、シェリは言いたくなった。
「二人は、そういう形に落ち着くことにしたんですね?」
シェリの言葉に、マディーが首をかしげた。
「二人?」
聞きなおされて、シェリが頷く。
「お姉さまを隠れ蓑に、二人の関係を続けるんでしょう?」
マディーが苦い顔をする。
指摘はされたくなかったんだろう。だが、シェリだって本気で応援しているんだと分かって欲しかった。
「俺は異性にしか興味はないし、マットは姉上にしか興味はない!」
マディーが冷たく告げる。シェリは目を見開く。まさか、マットが本気で心変わりをしたとは思っていなかった。
「……本当に、マディー君、フラれてしまったんですわね!」
「だーかーらー!」
マディーが大きな声を出して、ハッとする。どうやら視線を集めてしまったらしいとシェリにも分かる。失敗した、とシェリは思った。まさかこんなところで、マディーの失恋を大っぴらにするつもりなどなかったのだ。
マディーがシェリの手を引くと、そのままバルコニーに出た。
「ごめんなさい。繊細な内容なのに、あんなところで口にしてしまって」
シェリが俯く。本当に何から何まで申し訳なかった。
「勘違いだって言ってるだろ! 俺の恋愛対象は女性なの」
「え、嘘……」
呆然とマディーをシェリは見上げた。信じられなかった。
「だって、あんなに熱々でしたのに……」
走馬灯のように、学院時代のことが思い出される。二人は、間違いなく熱々だったはずだ。
「シェリ嬢と付き合いたいと思うことはあっても、マットと付き合いたいと思うことはない!」
マディーの言葉を理解するのに、シェリは時間を要した。マディーが付き合いたいのは、シェリ? シェリが見る見るうちに真っ赤になる。
「うそ、ですわよね?」
見る見るうちに、マディーの顔が近づいてきて、唇に何かが触れた。
シェリは固まる。
「こんなこと、好きでもない奴にやりたいとは思わない」
目を見開いてマディーを見つめた。
信じられなかった。だけど、嬉しいと思う気持ちが湧いてくるのも、嘘じゃなかった。
自分では気付いてなかった……気付かないふりをしてきていたけれど、シェリはずっとマディーのことが気になって仕方なかったのかもしれなかった。
でも、顔をしかめるマディーに、本当なのかと尋ねる勇気は、シェリにはなかった。
完
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