悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花

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番外編⑩

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「ファビアン」

 呼ばれた声に、意識が浮上する。だけど、ずっと靄がかかったみたいだ。

「寝ていたんですか」

 その聞きおぼえのある声の主を一瞥すると、私は体を隠すように布団の中にもぐりこんだ。

「いつまでそうしているつもりです?」

 淡々としたワルテの言葉に、私の体が震える。

「以前の威勢はどこに行ったんですか?」
「お、お前が……ノエリアを殺したんだ! 人殺し!」

 平然とノエリアを殺した人間の前で、平気でいられるものか!

「何を言っているのです? ファビアンがその綱を切ったではありませんか。喜び勇んで」

 ワルテの言葉に、カッとなる。私は布団をめくりあげると、ワルテに叫ぶ。

「それは! 知らなかったんだ! あれを切ったらどうなるかなんて、知らなかった! でも、お前は知っていたんだろう! 知っていて私にあんなことをさせるなど、正気の沙汰ではない! 人殺し! お前は王の器などない!」

 だが、ワルテは表情を崩すこともなく、首を横に振った。

「ファビアン。あの結末は、あなたが学ぶことから逃げ続けていたつけです。そして、甘い言葉に簡単に騙され国を失いそうになるなど、あなたこそ、王の器ではない」
「私は! 学ばなくとも王の器があるのだ!」

 私が叫ぶと、ワルテが大きなため息をついた。

「王の器であるかどうかを決めるのは、本人ではありません。この国に住む民だ。そこははき違えてはいけないと思いますよ? それと、無知は罪です。あなたのその罪を具現化した出来事が、ノエリア嬢の処刑です。あなたが直前に気づけば、ノエリア嬢はあなたの手で亡くなることはなかった。違いますか?」

 ワルテの言葉に、私は目を見開いた。

「わ、私があの場で、処刑が行われると気付けば、ノエリアは助かったのか!?」
「ファビアン、私は、あなたの手で亡くなることはなかった、と言っただけです。ノエリア嬢が許されることは、ありません」
「どうしてノエリアがあんな目に遭わなければならないのだ! ノエリアは……私の最愛なのだぞ!」
「……まだ頭が冷えないようですね。そうそう、この指輪」

 ワルテが柵越しに指輪を入れてくる。大きな赤い石に、私はそれが何か思いだす。

「それは、母上の形見の指輪! ノエリアが最後までつけていたんだな!」

 それは、母上の形見で、私がノエリアとの結婚を決めた時に、ノエリアにプレゼントしたものだった。
 代々の王妃が使う指輪で、母上が受け継いだ指輪だった。
 ベッドから立ち上がると、よろよろと指輪に近づく。
 だが、記憶にある指輪と違うのに気づいて、私の眉が寄る。

「これは……」
「それは、ノエリア嬢が、ルロワ城を買い取った商人に売った指輪だそうですよ。細工を変えられて売りに出される寸前に、ドゥメルグ公爵が買い取ってくれたのです。あなたの大切なものでしょう?」

 指輪を握った手が、フルフルと震える。

「この指輪を渡した時、ノエリアは一生大事にすると! 母上の形見なのだから、大事にしないといけないと言っていたんだ!」
「思い込むのは自由ですが、それが、真実です。あなたの最愛は、あなたの大切なものを守ってはくれない相手だったようですね」

 肩をすくめたワルテは、カツカツと音をさせて去っていく。

 姿の変わった指輪を、私は呆然と見つめる。
 指輪の金属に刻まれていたはずの文様は、すっかりなくなっていて、植物を模したような流れる細工がされていた。
 刻まれていたはずの文様は、我が国を示す文様だった。だから、代々、王妃が大事に使っていた。この国を王と共に守る意思を示すために。

 学ぶのは嫌いで逃げ回っていたけれど、幼いころ母上から聞いたこの話だけは忘れられなくて、ノエリアにも話したはずだったのに。

 なのに。

 赤い石が、ぽたりと濡れた。

 完
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