悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花

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ならば⑦

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 私はめそめそと泣き出した。時間稼ぎをして、いい詭弁を考えなきゃ!

「馬鹿にするのもいい加減にしないか!」

 案の定、ファビアン殿下が怒り出す。そうよ、時間稼ぎのために、無駄に怒っておいてくださいませ。
 
「馬鹿にしたつもりはありませんわ。私は、礼儀として、初めてお会いしたノエリア様にご挨拶しただけにすぎませんわ」
「初めてじゃないのに!」

 涙を浮かべ悔しそうに告げる私に、クリスティアーヌ様は首をかしげる。
 それはそうよね。だって、初めてだもの。
 
 だけど、私が口を開く前に、ファビアン殿下がまた勢いよく口を開いた。

「婚約を破棄されたくないからと、そのようにしらを切り通すなど、本当に不快だ! ノエリアをいじめて、自分の皇太子妃の座が安泰などと思っていたことも、忌々しいのに!」

 ファビアン殿下の言葉に、クリスティアーヌ様が小さく肩をすくめた。 

「お言葉ですが、ファビアン殿下。私がノエリア様にお会いしたことがないことは事実ですし、いじめたこともありませんわ。それに、婚約を破棄されたくないと願っておられるのは、国王陛下ですわ。私ではありません」

 会場がざわめく。
 ……そうなのね。国王が望む結婚……。ならば、クリスティアーヌ様が強気でいるのも納得だわ。
 でも、私が婚約者の座を奪い取らなければならないの! 
 詭弁よ、詭弁。新しい詭弁はないかしら?
 クリスティアーヌ様がファビアン殿下に微笑みかけると、ファビアン殿下は唖然としてクリスティアーヌ様を見ていた。
 私はハッと我に返って口を開いた。

「この素晴らしいファビアン殿下との婚約を望まない方なんているはずがないわ! クリスティアーヌ様は、ご自分の名誉を守るために国王陛下の名前を出しているだけよ!」

 私の言葉に、クリスティアーヌ様は首をかしげた。

「この素晴らしいファビアン殿下、と言うところを、どこがどう素晴らしいのか説明して下さる? 私には理解ができないのですけれど」

 会場が、今日一番にざわめいた。
 ……まさかの切り返しだわ!
 ……素晴らしいところ、ですって?! 

「私がファビアン殿下に愛されているからって、妬んで意地悪を言うなんてひどいわ!」

 話を逸らすしかないじゃないの!
 だって、ファビアン殿下のいいところなんて、皇太子であるって身分でしかないもの!
 あと……権力が使えるってところかしら?
 でも、そんなことファビアン殿下の前で言えるわけがないわ!

「私は、ファビアン殿下のどこが素晴らしいのか説明してほしいと言っているのです」

 ああ! クリスティアーヌ様は、どこまでも冷静なのね! 
 いけないわ。私も冷静にならなければ!

「ファ、ファビアン殿下は、何もかもが素晴らしいですわ! その素晴らしさがわからない婚約者など、婚約者の意味がありませんわ!」
「ノエリア様、どこが素晴らしいのか、具体的に教えてくださる?」
 
 クリスティアーヌ様が畳み掛けてくる。私はわっと泣き始めた。
 どこが素晴らしいのか、私だって教えてほしいくらいだわ!

「ファビアン殿下、私はこのようにクリスティアーヌ様に言われて答えられなくて、いつも惨めな気持ちになるのです」
「クリスティアーヌ嬢、ノエリアをいじめるな!」
「いじめ? 本気でわからないから、教えてほしいだけですわ」
「私のよさが理解できぬ婚約者など、婚約者ではない!」

 私もファビアン殿下の良さは理解できないけれど、婚約者にはなってみせるわ!
 でも……クリスティアーヌ様に勝てなければ、どうにもならないし……。どうしようかしら。

「ええ、わからないものですから、ノエリア様にファビアン殿下の良さをご教授いただきたくて」
「ファ、ファビアン殿下の良さを説明して、クリスティアーヌ様がファビアン殿下に益々執着されたら困りますわ!」

 私はメソメソと告げながら、我ながらいい言い訳ができたとほくそ笑む。

「説明ができない程度、と理解すればいいのかしら?」

 クリスティアーヌ様が首をかしげる。何て機転が利く方なのかしら!
 ファビアン殿下は顔を真っ赤にして私を抱き締めた。

「ノエリア、クリスティアーヌ嬢に私の良さを言うんだ!」

 ファビアン殿下に促されて、私は困る。

「ファビアン様は、頭もよくて!」

 そう、常々ご自分で言っているわ。……私は思ったことはないけれど。
 私の言葉に、ファビアン殿下が満足したように、ウンウン頷く。
 案の定、クリスティアーヌ様の表情が曇る。

「幼い頃から学んでいる語学を習得も出来ない方が、頭がいいと言えるのかしら?」

 クリスティアーヌ様の指摘に、ファビアン殿下は顔を歪める。
 でも、本当のことだと思うわ。だけど、今は真実なんて必要ないの。
 詭弁よ、詭弁。詭弁だけがこの場の正答なのよ。

「そ、それは、たまたま殿下には語学の才能がなかっただけですわ。それに、私の言っている頭のよさは、勉強などではなく、こうやって卒業パーティーをいつもと違う催しに変更するような、企画ができるような頭の良さを言っているのですわ! ファビアン殿下は、こうやって国民の意を組んだものごとを考えられる方ってことですわ!」

 私は言い終わってホッとした。
 何とか切り抜けられたかしら? 
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