悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花

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ならば⑮

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 夢、じゃなかったの?!
 目が覚めても、黴臭いままじゃない!
 ……これも、夢の中?
 それにしたって、ひどいわ!
 この冷たさは……現実なの?
 
 ……混乱してきたわ。

 私……私は、ノエリア=ガンス男爵令嬢。
 えーっと……なのにどうして市井で暮らしていたのかしら?
 あ。この可愛らしさのために、目をつけられて幼い頃屋敷から誘拐されてしまって市井にいたところを、大きくなってきてからお父様が見つけ出してくれて、救ってくれたの!
 そうよ、そうだったわ!
 だから、私はれっきとした貴族令嬢よ!

 それで……ファビアン殿下に見初められて、でも、ファビアン殿下にはクリスティアーヌ様っていう意地悪な婚約者がいたから、ファビアン殿下は婚約破棄をしようとしたのよ……。
 それで、それで……。
 婚約破棄の場に国王陛下とレナルド殿下が来て、クリスティアーヌ様の悪事が明らかになるはずだったのに……。
 なぜかクリスティアーヌ様の口車にのせられて、私が悪者にされたの!
 ファビアン殿下と私の両親まで!
 そうよ、そうだったわ!

 どうして、私がこんな黴臭い場所に置かれなければならないの?!
 ファビアン殿下もいないし、私の両親たちとも離れ離れになってしまったし。
 私、どうなってしまうのかしら?!

 それに、どうして、私が、クリスティアーヌ様に負けなきゃいけないの!?
 国王陛下もレナルド殿下も、きっと何かおかしなものを食べさせられてしまったのよ! 
 ファビアン殿下も、クリスティアーヌ様より、私の方がずっとずっと王妃に向いているって言ってたのに!
 クリスティアーヌ様は、私にとっては害にしかならないの。
 だから、色々と演出したのに! どうして、クリスティアーヌ様じゃなくて、私がこんな風に牢に入らなければならないの?!

 カツカツカツと薄暗い中に靴音が響く。
 
 ! きっと、私だけ許されたんだわ!

 私は期待を胸に牢の中で立ち上がると、格子に近寄る。あくまで、期待していない風に。だって、がっつくなんて、はしたないわ!

 ほら! やっぱりそうだわ!

 だって、牢の前に立っているのは、レナルド殿下だもの!
 きっと、あれは、レナルド殿下の一時の気の迷い。悪いのはすべてクリスティアーヌ様だって、理解されたのよ!

「君……」
「ノエリアと呼んでくださって構いませんわ。愛し合っているのだもの」

 私の声は高く跳ねる。ああ、しまったわ。つい心の声が駄々洩れになってしまったわ。
 だって、だって、噂に聞いていた、薔薇の君が、私をじっと見ているんだもの。誰だって心が躍ってしまうでしょう?

 レナルド殿下が息をのむ。
 きっと、私のすばらしさに、言葉が出なくなってしまったのね!

「レナルド殿下?」

 ここから出してくださるんでしょう?
 早く、熱いキスがしたいわ。
 ……ファビアン殿下より、レナルド殿下の方が、やっぱりいいわ! レナルド殿下の方が、何十倍、いえ、何千倍も素敵だもの!
 クリスティアーヌ様がファビアン殿下に言っていたことは本当に的を射ているわ。でも、私だって仕方がなかったのよ。選択肢がファビアン殿下しかいなかったのだもの。

「私の名を呼ばないでくれるかな。不愉快だ」

 あら。レナルド殿下、照れていらっしゃるのね。
 ふふふ。かわいらしいわ。

「あなた、と呼べばいいかしら?」

 レナルド殿下が目を見開く。
 ほら、正解だわ! レナルド殿下、案外古風なのね。

「話が通じないとは聞いていたが、ここまでとは……」

 レナルド殿下が首を横に振る。
 ふふふ。恥ずかしいのを隠しているのね。別に隠さなくともいいのに。

「あなた、それで何かしら?」

 レナルド殿下が真剣な顔で私を睨みつける。
 あ! もしかしてあのことを責められてしまうのかしら!

「申し訳ございません! あのことは、仕方がなかったのです!」

 レナルド殿下が眉を寄せる。視線が揺れている。
 そうよね。何よりも謝罪が先よね。
 でも、仕方がなかったって、きっとわかってもらえるわ。

「一応確認するが、あのこと、とは?」
「ファビアン殿下と婚約するとの話は、ファビアン殿下から脅されてしまったからなんです! 私は、昔からレナルド殿下をお慕いしておりました。でも、ファビアン殿下が無理に……」

 私は得意の嘘泣きで泣き崩れる。
 ……これで、レナルド殿下も大丈夫。

「ファビアン殿から聞いた話とは、全然違っている」

 呆れた声のレナルド殿下に、私は勝利を確信する。
 ほら、私はこれで、レナルド殿下の婚約者に決定よ!

「「そうですね」」

 重なる男女の声に私は顔を上げる。
 あら、あなたたち、誰?
 見覚えがない男女の二人組ですけれど……?
 正装を着ているってことは、あのパーティーの参加者かしら?
 ごめんなさい。その他大勢には興味はなくてよ?

「どうするかは、ゼビナ王国に任せるしかないでしょうが、非常に不快です」

 レナルド殿下、その他大勢の方がいらっしゃって、不快になっておられるのね。
 そうよね。私と二人っきりがいいわよね。

「大変申し訳ございません」

 男女二人が頭を下げる。あら、悪いことがわかっているなら、さっさと二人きりにしてくれないかしら?

「この虚言癖により、国が乱されたことは間違いがありません。極刑に処す予定です」

 見知らぬ男性がそう告げた。
 あら、誰が亡くなるのかしら? この二人? でも、他人事みたいだわ?

「二度とクリスティアーヌ嬢の前に顔を出さなければ、どうなろうと興味はありませんが」

 レナルド殿下がちらりと私に視線を向けると、また二人に視線を戻した。
 他の人がいるから、私に視線を向けさせないようにしているのね?
 でも、私のことが気になって仕方がないんだわ。
 仕方のない方。ふふ。
 早く、二人きりにさせてくれないかしら?

「クリスティアーヌ嬢が心を痛めないようにだけ、気を配ってほしい」
「「当然です」」

 レナルド殿下は、本当に心根も素晴らしい方だわ。
 私に心変わりしてしまったことを、クリスティアーヌ様が嘆き悲しむことにも気遣うなんて。

 カツカツカツ、と3つの足音が去っていく。
 あら?
 どうして、3人ともいなくなるのかしら?
 
「レ……あなた!」

「……”あなた”って、どういうことですか、レナルド殿下」
「私だって意味が分からないんだよ、ワルテ殿」
「あの女の話していることで意味が分かることがあるわけないじゃないですか」
「そうだね。マリルー」

 遠ざかる会話の意味が分からないわ。
 あ、ワルテ殿って、新しい皇太子になる予定の方?!
 しまったわ! きちんと見なかったわ。
 レナルド殿下とどっちが素敵なのかしら?!
 ……どうして、私はここから出してもらえなかったのかしら?
 あ。
 まだレナルド殿下とワルテ殿下、どちらが私を妃にするのか、決まってないからなんだわ。

 だから、私をこんなところに置いているのを二人は忘れてしまっているんだわ!
 私って、二人、いや三人もの殿方を狂わせてしまうような、稀代の存在なのね。

 あ!
 私がここにいる理由がわかったわ!
 私を他の令嬢たちからの嫉妬から守るために、わざとこんなところに置いているんだわ!

 ならば、二人の争いに決着がついて、私の婚約者が決まるまで、待っておくしかないわね。 

 完  
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