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ただし⑫
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「クリスティアーヌ様、元々、レナルド殿下の婚約者は、シャリエッタ様だったのです」
色とりどりのドレスに囲まれて、私は彼女たちの顔をしっかりと見る。
どの顔も、学院では見なかった顔だ。それに、どの顔も、まだ幼い。年下であることは間違いないだろう。
レナルド殿下の婚約者となり、バール王国に生活を移すときに、きっとこんなこともあるだろうとは思っていたけれど。
早速、レナルド殿下との婚約パーティーで、私が婚約者になったことに不満を持つ方々に囲まれてしまった。
レナルド殿下は、他国の王子たちと歓談するために、私から離れたところだった。
「うわさに聞いた通り、クリスティアーヌ様は、悪役令嬢にふさわしいんだわ」
一人の言葉に、クスクスと笑いが広がる。
どうやら、ゼビナ王国での噂を、拾ってきた人がいるらしい。
「そうですね。婚約者を奪った、と言うのであれば、私は悪役になるんでしょうね」
私が冷静に答えると、笑っていた少女たちはそれぞれの顔がムッとする。
「わかっておられるのであれば、レナルド殿下をお返しください!」
必死に私を睨みつけてくるのは、婚約者だったというシャリエッタ=ノグーン公爵令嬢だ。
確かに、公爵令嬢と言う立場であれば、レナルド殿下の婚約者候補として名前が挙がることは大いに考えられることだ。
「シャリエッタ様は、幼いころからフィンサ辺境伯令息の婚約者と聞いておりますが」
だけど、私が知っている情報では、そんな事実は存在していない。
シャリエッタ様が悔しそうに唇を噛む。
「だけど、本当は!」
「シャリエッタ様のお姉さまが、婚約者候補だった、とは聞いております」
レナルド殿下に、婚約者候補がいなかったわけではなかった。
「そ、そうよ! お姉さまが本当はレナルド殿下の妃になるハズだったのよ。でも、」
「今は、他の方と婚約しておられると聞いております」
シャリエッタ様のお姉さまは、レナルド殿下の騎士として働いている侯爵家令息と、婚約している。
婚約者候補として王城に出入りしているうちに、恋仲になったらしい。
バール王国では、ゼビナ王国に比べれば、恋愛結婚もよくある話らしい。
「だ、だから! お姉さまの代わりに私が!」
「ノグーン公爵が、それを認めるでしょうか?」
シャリエッタ様が、ぐ、と声を詰まらせる。
シャリエッタ様のお姉さまは、とても人として尊敬できる人であると、私もレナルド殿下から聞いている。
だけど、シャリエッタ様は、幼いころから自分の立場をかさに着て、目に余る行動があった。
だから、公爵はあえて、厳しい場所に輿入れを決めたのだと聞いている。
甘えが許されないように。
「お、お父様は、私には結局甘いわ。だから」
「それから、国王陛下、そして、皇太子殿下夫妻、それに、レナルド殿下も、納得されるでしょうか?」
「婚約破棄されたくせに!」
「情報が正しく伝わっていないようですね。あの婚約破棄は不当なものですし、婚約自体がなかったこととされました」
「それでも!」
私は首を横に振る。
「まだ、私を辱めたいというのであれば、国王陛下の前で訴えてはどうでしょうか。私とレナルド殿下の婚約を認めたのは、陛下ですから」
「そんなこと、できるわけないじゃない!」
「あら。どうしてでしょう? こうやって私には訴えて来るのに?」
「あなたが自ら辞退すればいいのよ!」
それまで怖気づいていた周りが、そうよ、そうよ、と同調する。
「陛下の決定を密かに覆そうとするのは、謀反と同じでは?」
私がニコリと笑えば、一瞬で静まり返る。
「そ、そんなわけないでしょう!」
慌てた様子のシャリエッタ様に、私は頷く。
「シャリエッタ様に祝福されて、私も嬉しいですわ」
「え」
シャリエッタ様が虚を衝かれた表情になる。
「あら。今、自分の発言を取り下げたのではなくて?」
「それは!」
「あら……それでは、困りましたわ。私、レナルド殿下に報告しなくてはなりません」
「な、何を……?」
「シャリエッタ様たちが、王家に不満を持っているようだと」
「そんなことありませんわ!」
シャリエッタ様の言葉に、周りも同調する。
「ふふ。この手厳しいお祝い方法は、バール王国の伝統なのかしら?」
シャリエッタ様も、他の令嬢も、私から目を逸らして、ぎこちなく頷く。
「他国から輿入れすることを不安に思っていましたの。皆さまが歓迎してくださって、本当に嬉しいですわ」
私がシャリエッタ様の手を取ると、シャリエッタ様が困ったように眉を下げた。
「ちょっと、変わったお祝いをしたかっただけですの。失礼しますわ」
手を離すと、シャリエッタ様たちが、踵を返す。
ただし。
私に喧嘩を売るってことがどういうことか、わかってやってくださいね。
これでも、悪役令嬢を演じて、一国の跡継ぎを変更させたのだけれど。
きっと、彼女たちは知らないだろうし、知ろうともしないのだろうけれど。
あのことからからすれば、これくらいのことは、何ともないですけれど。
愛するレナルド殿下の隣にいるためだから。
完
色とりどりのドレスに囲まれて、私は彼女たちの顔をしっかりと見る。
どの顔も、学院では見なかった顔だ。それに、どの顔も、まだ幼い。年下であることは間違いないだろう。
レナルド殿下の婚約者となり、バール王国に生活を移すときに、きっとこんなこともあるだろうとは思っていたけれど。
早速、レナルド殿下との婚約パーティーで、私が婚約者になったことに不満を持つ方々に囲まれてしまった。
レナルド殿下は、他国の王子たちと歓談するために、私から離れたところだった。
「うわさに聞いた通り、クリスティアーヌ様は、悪役令嬢にふさわしいんだわ」
一人の言葉に、クスクスと笑いが広がる。
どうやら、ゼビナ王国での噂を、拾ってきた人がいるらしい。
「そうですね。婚約者を奪った、と言うのであれば、私は悪役になるんでしょうね」
私が冷静に答えると、笑っていた少女たちはそれぞれの顔がムッとする。
「わかっておられるのであれば、レナルド殿下をお返しください!」
必死に私を睨みつけてくるのは、婚約者だったというシャリエッタ=ノグーン公爵令嬢だ。
確かに、公爵令嬢と言う立場であれば、レナルド殿下の婚約者候補として名前が挙がることは大いに考えられることだ。
「シャリエッタ様は、幼いころからフィンサ辺境伯令息の婚約者と聞いておりますが」
だけど、私が知っている情報では、そんな事実は存在していない。
シャリエッタ様が悔しそうに唇を噛む。
「だけど、本当は!」
「シャリエッタ様のお姉さまが、婚約者候補だった、とは聞いております」
レナルド殿下に、婚約者候補がいなかったわけではなかった。
「そ、そうよ! お姉さまが本当はレナルド殿下の妃になるハズだったのよ。でも、」
「今は、他の方と婚約しておられると聞いております」
シャリエッタ様のお姉さまは、レナルド殿下の騎士として働いている侯爵家令息と、婚約している。
婚約者候補として王城に出入りしているうちに、恋仲になったらしい。
バール王国では、ゼビナ王国に比べれば、恋愛結婚もよくある話らしい。
「だ、だから! お姉さまの代わりに私が!」
「ノグーン公爵が、それを認めるでしょうか?」
シャリエッタ様が、ぐ、と声を詰まらせる。
シャリエッタ様のお姉さまは、とても人として尊敬できる人であると、私もレナルド殿下から聞いている。
だけど、シャリエッタ様は、幼いころから自分の立場をかさに着て、目に余る行動があった。
だから、公爵はあえて、厳しい場所に輿入れを決めたのだと聞いている。
甘えが許されないように。
「お、お父様は、私には結局甘いわ。だから」
「それから、国王陛下、そして、皇太子殿下夫妻、それに、レナルド殿下も、納得されるでしょうか?」
「婚約破棄されたくせに!」
「情報が正しく伝わっていないようですね。あの婚約破棄は不当なものですし、婚約自体がなかったこととされました」
「それでも!」
私は首を横に振る。
「まだ、私を辱めたいというのであれば、国王陛下の前で訴えてはどうでしょうか。私とレナルド殿下の婚約を認めたのは、陛下ですから」
「そんなこと、できるわけないじゃない!」
「あら。どうしてでしょう? こうやって私には訴えて来るのに?」
「あなたが自ら辞退すればいいのよ!」
それまで怖気づいていた周りが、そうよ、そうよ、と同調する。
「陛下の決定を密かに覆そうとするのは、謀反と同じでは?」
私がニコリと笑えば、一瞬で静まり返る。
「そ、そんなわけないでしょう!」
慌てた様子のシャリエッタ様に、私は頷く。
「シャリエッタ様に祝福されて、私も嬉しいですわ」
「え」
シャリエッタ様が虚を衝かれた表情になる。
「あら。今、自分の発言を取り下げたのではなくて?」
「それは!」
「あら……それでは、困りましたわ。私、レナルド殿下に報告しなくてはなりません」
「な、何を……?」
「シャリエッタ様たちが、王家に不満を持っているようだと」
「そんなことありませんわ!」
シャリエッタ様の言葉に、周りも同調する。
「ふふ。この手厳しいお祝い方法は、バール王国の伝統なのかしら?」
シャリエッタ様も、他の令嬢も、私から目を逸らして、ぎこちなく頷く。
「他国から輿入れすることを不安に思っていましたの。皆さまが歓迎してくださって、本当に嬉しいですわ」
私がシャリエッタ様の手を取ると、シャリエッタ様が困ったように眉を下げた。
「ちょっと、変わったお祝いをしたかっただけですの。失礼しますわ」
手を離すと、シャリエッタ様たちが、踵を返す。
ただし。
私に喧嘩を売るってことがどういうことか、わかってやってくださいね。
これでも、悪役令嬢を演じて、一国の跡継ぎを変更させたのだけれど。
きっと、彼女たちは知らないだろうし、知ろうともしないのだろうけれど。
あのことからからすれば、これくらいのことは、何ともないですけれど。
愛するレナルド殿下の隣にいるためだから。
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