聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花

文字の大きさ
1 / 16

まさかの①

しおりを挟む
 ……私、ヒロインになれたんじゃなかったの?

 目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。
 本当なら、私が婚約者の隣に立っているはずなのに?
 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの?

 どう見ても、婚約者の視線は友好的ではないし、義理の姉の目は、私を責めている。
 そして、卒業パーティーのために着飾った学友たちの視線は、蔑むような、昔、見覚えのある視線だった。
 これからきっと、私にとって悪いことが起こるに違いない。
 だって、義理の姉が絡んでいるんだもの。

 昨日までは、私は婚約者であるコンラッド様との結婚を夢見ていたのに。
 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに。
 セリフのない役から、ヒロインに抜擢されるなんて、本当にすごいことだから。

「キャサリン = ノーフォーク公爵令嬢、君は、皇太子である私を聖女であるとだましただけでなく、国民すべてを欺いたのだな。その罪は重い。コンラッド = オールコックの名において命じる。キャサリン嬢との婚約は破棄の上、国外追放とする」

 ほら、来た!

「キャサリン、私だって、かわいい妹を告発するのは嫌だったの。だけど……このままじゃ、誰も幸せになれないと思って……。許して。だけど、嘘をつくのは、いけないことだわ」

 義理の姉であるクララが、あたかも純粋なふりをして泣いている。
 ……きっと、心の中では笑っているんだろう。

「コンラッド様! 嘘はついておりません! 私は、神託を受けた聖女です! 本当のことなのです!」

 私の叫びに、コンラッド様は大きくため息をついて首を横に振った。

「だが、聖女の神託を受けてこの1年、キャサリンは、聖女の力を見せたことはないだろう? 本物の聖女ならば、力を示すことができるはずだ」
「そ、それは……」

 コンラッド様の指摘に、私は唇をかむ。
 だって、示したくても、示せないんだもの。
 ……示しちゃいけないって、私は思っているんだけど。それに、悪用されたら困るから、口にしたくもないし……。

「キャサリン、もう、本当のことを言っていいのよ? いえ。もう、お父様たちも、真実はご存じだわ。国王陛下だって、もう知っているの。今更、嘘を言う必要なんてないの」
 
 静かに私を諭そうとしているクララに、私はギュッと手を握り締める。
 せっかく、ヒロインになれたと思ったのに。
 どうしてまた、邪魔するの!
 これじゃ、私がざまぁされているみたい。

 ……前世では、小さいころからいじめられっ子だった。ブラック企業に勤めてからも仕事という建前のいじめで仕事を増やされ、睡眠時間はゴリゴリ削られた。
 それと同時期にストーカーに悩まされるようになった。昔から、変な人に好かれやすかったけど、あのストーカーは最悪だった。
 私の精神はギリギリで、正常な判断などできなくなっていて、ブラック企業から逃げ出すことを考えられなくなっていた。そして、結局、過労死した。
 結果転生したのは、この世界だった。
 でも、この世界でも、私の役割は散々だった。

 ノーフォーク公爵家の令嬢。
 という肩書はあれど、私はノーフォーク公爵の庶子だった。母はノーフォーク家の使用人で、妊娠した結果、義母に追い出された。
 だけど、幼いころに私はノーフォーク公爵に探し出され、お金と引き換えに、母は私を引き渡した。母の行方は、もうわからない。
 私の居場所は、ノーフォーク家にはなかった。義母に虐められ、同じ年の義理の姉に虐められ、父は全く私に興味などなかった。私は、ノーフォーク公爵家の、コマの一つになるために引き取られただけだった。
 日々の生活は、粗末な食事に、粗末な物置小屋での生活。

 ただ、パーティーがあるときだけは、きっちりと飾られる生活。
 その時だけは、お姫様気分が味わえて、ちょっと嬉しかった。舞台の世界に入れたみたいな気がして。テレビでしか見たことはなかったけど、画面上でも、きらびやかな世界だった。その世界が現実になったわけだから。……壁の花だから、実際は楽しくはないんだけど。

 学院に通うために家を出られることになった時には、正直ほっとした。だけど、学院へは、義理の姉も一緒に通うのだ。
 外面のいい姉は、あっという間に取り巻きを作って、一緒になって私をいじめた。いえ。姉は何もしていないふりをして、取り巻きたちに私をいじめさせた。
 寮生活も悲惨だった。公爵家に逆らえる貴族など、ほとんどいるわけがない。
 私のいじめは黙認された。

 前世の記憶を使って、手を打たなかったのかって?
 前世の記憶が、私をいじめられても仕方がないのだと諦めさせた。皆に、そう言われ続けていたから。
 前世の両親ですら、そう言っていた。誰も、私の味方はいなかった。

 私の住む世界が異世界に変わったとしても、私が救われる道があるようには思えなかった。
 ラノベとかゲームの世界に転生するって話が前世にはあったみたいだけど、残念ながら私はそのソースを一つも知らなかったし、この世界がどう動いていくのかなんて、わかるわけもない。……舞台が唯一、私の現実逃避の場所だったから。
 それに、例えひどい扱いだとしても、雨露をしのげる屋根の下で、最低限であれ食事を与えられる生活ができていたから。
 ……生みの母との生活は、食べるものにも事欠いていたから。

 その生活が一変したのは、丁度1年前だった。
 私が、聖女の神託を受けたからだ。
 オールコック王国では、聖女は光と共に神様により力を授けられ、神様に代わり奇跡を起こす、との伝説がある。
 だから、その瞬間に、私の立場は一転した。

 父から存在を認められ、立派な部屋をあてがわれた。
 そして、ジジイ辺境伯の後妻になるしか役に立たないと言われていた私が、皇太子の婚約者に内定したのだ。
 ……私をいじめていたクララが狙っていた立場に、私がなったのだ。
 ヒロインになれたのだと、私は思った。

 だけど、どうやらこの舞台は、私をざまぁしようとしているらしい。
 私は、悪いことなど、一つもしていないのに!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

処理中です...