聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花

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まさかの③

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 痛みはなかった。
 ……きっと、あの言葉は、一瞬で何もかもなかったことにしてくれる言葉なんだろう。
 『オ リボロー』
 滅びの、言葉。
 私はそっと目を開いた。

 目の前には、何もなくなっていた。さっきまであった、重厚な扉も、石造りの壁も。
 本当に何も。城そのものがなくなっていた。
 ……自然だけはあったけど。

 私を引きずっていたはずの騎士は、どこにもいない。私を縛っていた縄も、どこかに消え去ってしまった。私の服はきちんと着てるのに。不思議。
 後ろを振り返ってみても、見えるのは、遠くの山くらいだった。
 さっきまで会場にいたはずの皆の姿はなかった。

 私を疑ったコンラッド様も、私に侮蔑の目を向けた国王様も、私を忌々しそうに見つめていた司祭様も、私を虫けらのように扱ったお父様も、私のヒロインの座を奪おうとしたクララも。
 誰も、居なくなった。

「聖女よ。我が託した言葉を使うべき時が来たのか」

 どこからともなく空から響くように聞こえてきたのは、私に神託を与えた声だった。
 私はキッと空を睨み付ける。

「何が、あの言葉を使う時が来たのか、ですって! あんな神託、受けなければ良かった!」
「どうして、そんなに怒っているのかな?」

 唐突に耳元で聞こえた声は、空から降ってきた声と同じで、私は振り向く。

「どうして怒るですって!」

 私は息をのむ。そこには、イケメンだった皇太子を凌駕するほどの美貌の主が立っていた。
 舞台の推しを見てるときみたいに、神々しさを感じるほどだった。
 ……そうか、神々しいわけだ。

「神……様?」
「ああ。神様と呼ばれるものであるらしいね」

 微笑む神様に、私はハッとなる。

「聖女になっても、私は幸せになんてなれなかった!」
「聖女になるのと、幸せになるのが同意なのかな?」

 神様に反論されて、私は唇をかんだ。
 ……私は滅びの言葉を授けられただけだ。幸せになれると約束された訳じゃない。
 神様が、クスリと笑う。
 バカにされているみたいで、私はまた神様を睨み付けた。

「ようやくいじめられる惨めな人生から抜け出して娘役のトップになれると思ったのに、どうしてざまぁされなきゃならなかったの! 神様が運命を決めているんでしょう!」

 無茶苦茶だって、自分でもわかっている。神様を責めたって意味がないって、わかっている。それでも、誰かにこの気持ちをぶつけてしまいたかった。

「私は、この時が来るのを、待っていたんだけどね」

 美しく微笑むその顔に、私はゾクリとする。……美しいはずなのに、とても嫌な感じがした。昔、前世のどこかで感じたことのある嫌な感じ。

「どういうこと?」
「私は、君と二人きりの世界に早くなってほしかったんだよ」

 心がざわりとする。
 その瞬間、この嫌な感じをどこで受けたのか思い出した。
 ……あの、最悪なストーカーと初めて話した時だ。
 この神様、ヤバい。

「……何で?」

 それでも、他に言葉が浮かばなくて、つい問いかけてしまった。
 神様が、ふふ、と声を漏らす。その声に、私の鳥肌がたつ。

「私には、君だけしか要らないからだよ」
「えーっと……神様は、この世界の神様なんでしょう? ひ、一人だけに執着するのは、どうかなって思うんだけど?」

 神様に神様のあり方を説教する日が来るとか、思わなかった……。
 神様がにっこりと笑う。

「キャサリンは、幸せになりたかったんでしょう? 私が幸せにしてあげるよ? それに他の人間はいるかな?」
「いや、いるいらないの問題ではなくて! 世界を構築するのに、他にも人間は必要なんじゃないかなって!」

 あまり刺激すると神様の機嫌を損ねて更にとんでもないことが起こりそうで、私は当たり障りがないことしか言えない。
 ……この病んでそうな神様と二人きりとか、無理。
 だけど、神様は不思議そうに首をかしげた。

「私とキャサリンの二人だけで、世界は十分だよ」

 私はぱちくりとまばたきをした。
 十分?
 ……いや、無理!
 確かに神様は超絶美形だけど、超絶美形に愛されたからって……幸せって思えそうにない! だって、腕に鳥肌たちまくりだもん!

「わ、私は普通の世界に暮らしたい! 普通の世界で幸せだって言いたい!」

 こ、これくらい言っても、大丈夫だよね?

「普通? これからは、二人きりでいることが普通になるんだよ?」

 全然通じない!

 神様が私の髪を一房手に取ると、口づけをした。
 更に総毛立つ。

 無理! 無理! 無理! 無理!
 何なの、一体!
 前世も散々だったのに、今世も、こんなオチとか!
 前世も今世も、どうして私は周りの人に振り回されてばっかりなの!
 
 もういい! 

「そんなの絶対いや! そもそも、こんな風になって、その選択肢しかありませんって言い出すの、ズルいでしょ! 神様の癖に、ズルいってないでしょ!」

 言いたいことも言えずに死ぬなんて、もういや!
 例え、この人生をこの体を失ってしまったとしても、自分が生きたいように生きれないのなら、同じだもん!
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