聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花

文字の大きさ
4 / 16

まさかの④

しおりを挟む
 私の言葉を聞いた神様は、面白い、とでも言いたげに、口許を緩めた。

「ズルい、か。だが、誰にもその未来などわからぬではないか」
「神様は私を手に入れるために神託を授けたんでしょ! 私が滅びの言葉を言ったら、それで自分の思い通りになるじゃない! それはズルいでしょ!」

 私の言葉に、神様が、ククク、と笑いだす。

「なるほど、確かに一理あるな」

 神様は笑いを納めると、私をじっと見る。
 ……これで私の未来が決まる?
 私は、こくりと唾を飲むと、口を開いた。

「やり直させてくれるなら、もしまたあの言葉を言うことになったときには、今度は神様に従うから!」

 どうせその選択肢しかないなら、せめて!

「では、もう一度チャンスを与えよう。だが、もしあの言葉を使うことがあれば、私の願いを叶えることにしよう」

 神様の言葉に、私はホッと息をつく。
 
 次の瞬間、私の意識は途絶えた。


 ◇


「これがキャサリンか」

 目を細めて私を覗き込むお父様は、明らかに、私をかわいいとは思っていない。ただただ、商品としての価値を値踏みしているようにしか見えない。

「はい。公爵様」

 弱々しく答える母の声に、私はハッとする。
 そう、母の声!

 私は母の声がした方を見つめる。
 そこには、ボロボロの服をまとった、痩せ細った母の姿があった。
 最後にお別れしたときの、母の姿だ。

 ……どうやら、私の人生は公爵家に引き取られるところからやり直しらしい。

「……みすぼらしい子供だ。まあいい。ダークブルーの公爵家の瞳は継いだようだし、ありがたがってコレを欲しがる家もあろう」

 ……コレ扱いか……。

「……娘はものではありません!」

 きっぱりとした母の声に、驚く。

「うるさい。私の娘だ。どう扱おうと、私の勝手だろう!」

 父上の言葉に、怒りが湧く。

「私の娘でもあるのです! 私の娘はものではありません!」
「ハッ。食べるものにも困る生活をしておいて、何を偉そうなことを。ほら、金を受けとるがいい!」

 吐き捨てるように言った父親が、床に金貨を叩きつける。
 だけどそれは、たったの10枚。
 ……この生活から言えば、数年は暮らせる大金ではあるのだけど。でも、公爵家の生活から言えば、よそ行きのドレスを仕立てる値段でしかない。

「拾え」

 父の冷たい言葉に、母が首を必死に振っている。

「例え生活に困っていても、娘は渡しません!」
「足りぬか。あざとい」

 ふん、と鼻をならした父上が、また金貨を胸元から出すと、無造作に床に叩きつける。

「要りません! お帰りください!」

 母が私を抱き締める。
 ……そうだ。
 前の時にも、母はこうやって4歳の小さな私を抱き締めてくれていた。

 忘れていたけど、確かにあの時、私は父親だと言う初めて見る男の人の怒鳴り声におびえた。怖かった。だけど、何も言えなかった。

 その年代の子供は、とても残酷だ。
 貧乏な暮らしをしていた私は、すでに近所の子供たちのいじめのターゲットになっていて、前世の記憶もあって、反抗するなんてことを考えたこともなかった子供だった。

 だけど、今は違う。
 ただ、おびえる小さな子供ではない。
 私は、変わると決めたんだから。
 前回と同じ人生を、絶対に歩んでなんかやらないんだから。

「いやだ! わたし、いかない!」

 私の言葉に、母が驚いたように目を見開く。
 ……私が、誰に何を言われても、ただただいじめられて泣いて帰ってくるのを知っているからだろう。
 
「なんだ! 慈悲を与えようとするこの私に反抗するのか!」

 お父様が顔を赤くして私を睨む。

「どこがじひよ! じひっていうのは、ひとにやさしくすることよ! おかねで こどもをかうなんて、さいていよ!」

 私はお父様をキッとにらんだ。
 ……前だったら、怖くて反抗などできなかっただろう。
 だけど、未来を変えないといけないから。

 お父様が目を細めた。そういえば、これは、何かを値踏みするときのお父様の癖だ。

「案外、頭は悪くないらしい。流石、私の娘だ。価値があがるな」
「かちなんて しるもんですか! わたしは、かあさまと いっしょにくらすの!」
「悪いが、子供の言うことなど、聞く義理はないのでな。行くぞ」
「やめて下さい!」

 お父様が、私の腕を乱暴につかむ。当然、母は抵抗したけれど、男性の力によれよれの母が勝てるわけもない。
 当然、幼い私が踏ん張って抵抗したところで、意味はない。
 私はあっさり、お父様に体を捕まえられる。
 私が逃げると思ったんだろうお父様は、私を抱きかかえる。

 逃げなきゃ。
 私には、それしかなかった。
 私はお父様の肌があらわになっている首筋をがぶりと噛みついた。

「何をする!」

 慌てたお父様が、咄嗟に私を突き放す。
 宙に浮いた体が、スローモーションのように床に叩きつけられる。

 ダメ、かもしれない。
 母の驚きで目を見開いた顔を見ながら、私はガン、と頭を打ち付けて、意識を手放した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

処理中です...