聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花

文字の大きさ
11 / 16

まさかの⑪

しおりを挟む
 私とメリリース様は、草原に座り込んでいた。
 風が、髪をなびかせる。

「……そう、なのね。それで、自分の人生を切り拓こうとしてるのね」

 説明を終えた私が黙り込むと、メリリース様がようやく声を出した。
 その声は、ただ感慨深そうで、その中には、戸惑いも、恐怖も見えなかった。
 
「メリリース様は、この話を、信じて下さるんですか? ……それに、聖女だって聞いて……怖く、ありませんか?」
「あら、どうして?」

 まさかそんな切り返しをされると思わなくて、戸惑う。

「だって……荒唐無稽だもの」
「ふふ。だからよ」
「だから?」

 私が眉を寄せると、メリリース様が大きく頷いた。

「私は、キャサリン様が、嘘をつく方ではないと思っているわ。そのキャサリン様が、あり得ないようなことを言い出したのだとしたら……真実だから、としか思えないわ」
「あり……がとうございます」

 胸が熱くなる。
 ここまで信じられていることがうれしくて、涙がにじむ。

「それにね。勇気を出したら、未来が変わるんだって、キャサリン様自身が証明したわけでしょう? それなら、私も頑張ってみようかな、って思えたのよ?」

 微笑むメリリース様に、私は目を見開いた。

「本当に?」

 こくり、とメリリース様が頷く。

「ええ。本当よ。このままじゃ、いけないのよ」
「……サイラス様との婚約を解消されるんですね?」
「そうね。やるわ」

 決意に満ちたメリリース様の瞳は、キラキラと輝いていて、その美貌を更に輝かせていた。ああ、こんなに間近に推しの素晴らしい笑顔が見られるなんて!

「ねえ、いいアイデアを思いついたんだけど」

 メリリース様は子供のように無邪気に笑う。メリリース様の横顔に見惚れていた私は、我に返る。

「いいアイデア、ですか?」
「そう、いいアイデア!」
「一体、どんなアイデアですか?」

 私の問いかけに口を開きかけたメリリース様が、あ、と口をつぐんで、バツが悪そうに目を伏せた。

「ごめんなさい。忘れてくれる? 他の方法を考えないと」
「えーっと、どんなアイデアだったんです? もしかしたら、そのアイデアをもとに、他の方法も考えられるかもしれないですから」

 私が首をかしげると、メリリース様は首を小さく振った。

「いいのよ。……私の力で解決するわけではないアイデアだから、ダメよ」
「……誰かの力を必要とするんですか?」
「だから、いいの。もう少し考えるわ。私の力で私の婚約を破棄できる方法を」

 きっぱりと告げるメリリース様に、私はそれ以上追及できなかった。

「ちなみに、メリリース様とサイラス様の婚約は、どうして決まったんですか? ……サイラス様は、特にメリリース様に執着しているようにも見えないですし……、メリリース様だって、婚約嫌なんですよね? やっぱり、公爵家の令嬢だから、王族の妃になるものなんですか?」

 私の疑問に、メリリース様が、ああ、と声を漏らした。

「私の話も聞いてくれるかしら?」
「もちろんです!」
「トップシークレットよ?」

 ふふ、と微笑むメリリース様だったけど、その目はひどく真剣だった。
 それに加えて”トップシークレット”の言葉に、私は戸惑う。

「トップ、シークレット?」
「ええ。私実は、男なの」

 メリリース様の告白に、私は目を見開いた。

「え? だって……胸が……」

 私の視線は、メリリース様の美しく膨らんだ胸に向かう。

「ふふふ。信じてない? 私は、間違いなく男なのよ? 胸は作りものだし……他も確認してみる?」

 他を確認? ……?!

「い、いやいやいやいや。だ、大丈夫です!」

 確認の方法を思いついて、私は焦ってお断りする。
 ふふふ、とメリリース様は楽しそうに笑っているけど……。

「えーっと……色々と思うことはあるんですけれど、ディル王国は、同性同士の結婚は認められているんですね?」

 私は首を傾げた。少なくとも、オールコック王国では、認められてはいなかったし、私が学んだディル王国の本の中にも、そんな文言は見たことがなかったけど、メリリース様とサイラス様の婚約が成立しているってことは、そういうこと、なんだよね?

「いいえ」
「え?!」

 あっさりと否定したメリリース様に、私の頭の中は混乱する。

「それなのに、どうしてメリリース様とサイラス様は婚約してるんですか!?」
「私が”愛し子”だから」

 一瞬止まったあと、私の脳がメリリース様の言葉をようやく処理した。

「ええ!?」

 私の声が、草原に響く。

「驚くのならば、説明は不要かしら? 『妖精に口づけの祝福を受けた愛し子は、国を繁栄させる』から、王家は私を王族の中に取り込みたいのよ。どうやら、王家の目に届くところで生まれた”愛し子”は、400年前の建国当時以来らしいわ」

 肩をすくめるメリリース様に、私はぎこちなく首を傾げる。

「えーっと、だからって、どうしてサイラス様と婚約を? それなら、皇太子とか、第二王子とか、いやそもそも王女って手だってありますよね?」
「今の王家に王女はいないのよ。私は男だから、子供を成すことはできない。だけど、公爵家の人間を嫁にしておいて、皇太子や騎士団を統べる第二王子が、妾にだけかまけていたとしたら、問題になるから。第三王子だったら王家の人間ってだけだし、別に妾だけにかまけても問題ないだろうって算段みたいなの」
「いやいやいや、第三王子だってダメでしょ! と言うか、”愛し子”を国のために性別偽らせるとか、意味が分かりません! この国大丈夫ですか!?」

 ディル王国、違った意味でヤバい!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

そんな世界なら滅んでしまえ

キマイラ
恋愛
魔王を倒す勇者パーティーの聖女に選ばれた私は前世の記憶を取り戻した。貞操観念の厳しいこの世界でパーティーの全員と交合せよだなんてありえないことを言われてしまったが絶対お断りである。私が役目をほうきしたくらいで滅ぶ世界なら滅んでしまえばよいのでは? そんなわけで私は魔王に庇護を求めるべく魔界へと旅立った。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした

きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。 顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。 しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

婚約破棄は了承済みですので、慰謝料だけ置いていってください

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢アナスタシア・オルステッドは、第三王子アレンの婚約者だった。 しかし、アレンは没落貴族の令嬢カリーナと密かに関係を持っていたことが発覚し、彼女を愛していると宣言。アナスタシアとの婚約破棄を告げるが── 「わかりました。でも、それには及びません。すでに婚約は破棄されております」 なんとアナスタシアは、事前に国王へ婚約破棄を申し出ており、すでに了承されていたのだ。 さらに、慰謝料もしっかりと請求済み。 「どうぞご自由に、カリーナ様とご婚約なさってください。でも、慰謝料のお支払いはお忘れなく」 驚愕するアレンを後にし、悠々と去るアナスタシア。 ところが数カ月後、生活に困窮したアレンが、再び彼女のもとへ婚約のやり直しを申し出る。 「呆れたお方ですね。そんな都合のいい話、お受けするわけがないでしょう?」 かつての婚約者の末路に興味もなく、アナスタシアは公爵家の跡取りとして堂々と日々を過ごす。 しかし、王国には彼女を取り巻く新たな陰謀の影が忍び寄っていた。 暗躍する謎の勢力、消える手紙、そして不審な襲撃──。 そんな中、王国軍の若きエリート将校ガブリエルと出会い、アナスタシアは自らの運命に立ち向かう決意を固める。 「私はもう、誰かに振り回されるつもりはありません。この王国の未来も、私自身の未来も、私の手で切り拓きます」 婚約破棄を経て、さらに強く、賢くなった公爵令嬢の痛快ざまぁストーリー! 自らの誇りを貫き、王国を揺るがす陰謀を暴く彼女の華麗なる活躍をお楽しみください。

処理中です...