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まさかの⑭
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「だ、誰か、あの者を、と、とらえよ!」
そう声を上げたのは、ディル国王だった。
流石国王、と言ったところだろうか。
「あら、これでも、とらえられるかしら?」
私は、すっと横に立ったメリル様に笑みを向ける。
「メリリース様! 危ないから、離れて!」
阿鼻叫喚の叫びが、会場を包む。
「大丈夫。私は精霊の愛し子です。精霊の加護がある限り、危害は加えられることはありません」
メリル様の言葉に、会場が静まり返った。
……事実はどうか知らないけど、これくらいのはったりは許されるだろう。
すると、床に膝をついて、メリル様に向かって祈りをささげ始める貴族がいて、それに倣うように次々と他の貴族もメリル様に向かって膝を折る。
……なんだか、あっさりメリル様が精霊の愛し子だって認められているみたいだけど……あっさり過ぎやしない? 騒ぎもしてないけど?
それとも、聖女に人質にされたメリル様の無事を祈ってるだけ?
王族たちは、青い顔をしてメリル様を見ている。
「メリリース嬢! 危ないので、こちらへ!」
サイラス様が、颯爽と現れ、メリル様に手を差し伸べる。
……こういうところは、王子然としてるわけか。
……無駄、だけど。
「サイラス様。私はもう、王家の言いなりにはなりませんわ!」
メリル様の言葉に、祈りをささげる貴族たちが顔を上げた。その目には、驚きが浮かんでいる。
「何を言っているのだ、メリリース嬢!」
ディル国王が毅然と告げる。
「私は生まれた時、精霊の口づけを受けたのです。ですが、国王様が私の存在を隠すため、男性として生まれたのに性別を偽るように命じられ、サイラス様と結婚するように強要されたのです!」
メリル様がドレスを脱ぎ捨てる。当然下には男性用の服を着こんでいたんだけど。
私が作った早着替え使用のドレスが役に立ちました! もちろん、男性用の服も作りました!
どう見ても、男性にしか見えない格好のメリル様に、何も知らないはずの会場の人たちは、驚くというよりは、困ったような顔をしていた。
……やっぱり、反応がおかしい。
「そんなことはしてない!」
ディル国王が会場に向かって叫ぶ。それに対して、会場の中の貴族は、戸惑ったように国王とメリル様に視線を送っている。
……やっぱり、メリル様が男性だってことは、公然の秘密だった?
「じゃあ、なぜ男性である私が、女性として生きてこなければならなかったのです!?」
「それは……ドライスデール公爵が言い出したことで!」
国王の反論に、私は目を細めた。メリル様は家族を盾に取られていると言っていたけど……。
「陛下! 話が違います! メリリースの立場を守るためとおっしゃったじゃありませんか! 私に責任を押し付けないでくださいませんか!」
ディル国王に反論したのは、メリル様の父親だった。……メリル様の話の通りなの?
「ドライスデール公爵も、領地が増えるのであれば構わないと言ったではないか!」
「ですが、言い出したのは陛下です!」
領地とメリル様を引き換えに、か。やっぱり公爵もグルだったのか。
メリル様は目を見開いている。……私がこの1年洗脳を解こうと矛盾を突き付けてきたけど、それでもメリル様は父親のことを信じたかったみたいだけど……。
「我々は、愛し子がかどわかされてはまずいと!」
ディル国王の声が焦っている。
「メリリース様が別の国に行ってしまっては、この国の繁栄が約束されませんからね」
私の言葉に、国王が首を激しく振る。
「そ、そういうことでは……」
「父上、その通りだと、言ってしまえばいいじゃないですか。ドライスデール公爵も、メリリース嬢のことはどうでもいいと言っていたじゃないですか……弟君がいるから、メリリース嬢は家に不要だと言っていましたよね」
「サ、サイラス! やめろ!」
それが、真実か。メリル様が青ざめている。私はメリル様の手をギュッと握った。メリル様の手は冷たかった。
「それに、いくら美貌があるとはいえ、男は男。女装したって男だってことは隠せてもいなかったんです。私だって、男と結婚するなんて、本当は御免だったんだ。女装したメリリース嬢が貴族の中で笑いものになっていると、父上だってご存じでしょう?」
自分に酔ったように話すサイラス様に、嫌悪感しかない。
「黙れサイラス! 余計なことを言うな!」
国王がサイラス様に叫ぶ。サイラス様が口をつぐんだ。
本当に、サイラス様ってダメ王子だな。
私の隣で、メリル様がギュッとこぶしを握り締めたのが分かった。
目をつぶったメリル様が、一呼吸おいて目を開いた時には、迷いは消えていた。
「よくわかりました。私の存在は、そういうもの、ということですね?」
メリル様の声が低くなる。今までのかすれた高い声ではなくて、男性の、声。それに、怒りが含まれている。
「私は、この国を去ります」
きっぱりと告げたメリル様に、私はホッとする。
会場には悲壮な空気を纏ったざわめきが広がる。
……でも、メリル様の今までの扱いを考えれば、当然の報いだ。
「だ、誰か、メリリース嬢を……」
「もし、メリリース様の自由を許さないと言うのであれば、私がこの国を滅ぼしますわ。私には神の加護がついていることをお忘れなく」
私の一言に、国王の口が閉じる。私は溜飲が下りたような気持ちで、もう一度口を開いた。
「私たちに付きまとうようなことがあれば、国がなくなると覚えておいてくださいませ。それと、オールコック王国の方々にも、同様にお伝えくださいますか?」
静まり返った会場を見て、私はメリル様に微笑みかける。
メリル様は頷くと口を開いた。
「では、失礼」
メリル様は男性としての礼をとると、私の手を取って会場を後にする。
誰も、追いかけてはこなかった。
会場になっていた王城から出ると、不思議そうに私たちを見る見張りの騎士たちがいたけれど、追いかける人がいないから、すんなりと城下町へと歩いて行けた。
「これから、私は私の人生を、歩いて行けるんだね」
メリル様がかみしめるように告げた。
その言葉が嬉しくて、私も頷く。
どうやら私は、神託で聖女になって、ざまぁする役になれたらしい。
ちなみに、どうやら神様でも世界に干渉できるのは、聖女に神託を与えるときと、私があの言葉を告げてからのみらしい。神託を受けた時に、そう神様が言っていた。
……でも、「ずっと見てたよ」って気持ち悪いから!
それと、神様からのもう一つ余計な一言。
「そのうち人間の世界が嫌になって私に会いに来たくなるよ」
絶対、神様の思う通りにはならないから!
私はメリル様の手をギュッと握りしめた。
私は私の舞台を自分で作っていくんだから!
完
そう声を上げたのは、ディル国王だった。
流石国王、と言ったところだろうか。
「あら、これでも、とらえられるかしら?」
私は、すっと横に立ったメリル様に笑みを向ける。
「メリリース様! 危ないから、離れて!」
阿鼻叫喚の叫びが、会場を包む。
「大丈夫。私は精霊の愛し子です。精霊の加護がある限り、危害は加えられることはありません」
メリル様の言葉に、会場が静まり返った。
……事実はどうか知らないけど、これくらいのはったりは許されるだろう。
すると、床に膝をついて、メリル様に向かって祈りをささげ始める貴族がいて、それに倣うように次々と他の貴族もメリル様に向かって膝を折る。
……なんだか、あっさりメリル様が精霊の愛し子だって認められているみたいだけど……あっさり過ぎやしない? 騒ぎもしてないけど?
それとも、聖女に人質にされたメリル様の無事を祈ってるだけ?
王族たちは、青い顔をしてメリル様を見ている。
「メリリース嬢! 危ないので、こちらへ!」
サイラス様が、颯爽と現れ、メリル様に手を差し伸べる。
……こういうところは、王子然としてるわけか。
……無駄、だけど。
「サイラス様。私はもう、王家の言いなりにはなりませんわ!」
メリル様の言葉に、祈りをささげる貴族たちが顔を上げた。その目には、驚きが浮かんでいる。
「何を言っているのだ、メリリース嬢!」
ディル国王が毅然と告げる。
「私は生まれた時、精霊の口づけを受けたのです。ですが、国王様が私の存在を隠すため、男性として生まれたのに性別を偽るように命じられ、サイラス様と結婚するように強要されたのです!」
メリル様がドレスを脱ぎ捨てる。当然下には男性用の服を着こんでいたんだけど。
私が作った早着替え使用のドレスが役に立ちました! もちろん、男性用の服も作りました!
どう見ても、男性にしか見えない格好のメリル様に、何も知らないはずの会場の人たちは、驚くというよりは、困ったような顔をしていた。
……やっぱり、反応がおかしい。
「そんなことはしてない!」
ディル国王が会場に向かって叫ぶ。それに対して、会場の中の貴族は、戸惑ったように国王とメリル様に視線を送っている。
……やっぱり、メリル様が男性だってことは、公然の秘密だった?
「じゃあ、なぜ男性である私が、女性として生きてこなければならなかったのです!?」
「それは……ドライスデール公爵が言い出したことで!」
国王の反論に、私は目を細めた。メリル様は家族を盾に取られていると言っていたけど……。
「陛下! 話が違います! メリリースの立場を守るためとおっしゃったじゃありませんか! 私に責任を押し付けないでくださいませんか!」
ディル国王に反論したのは、メリル様の父親だった。……メリル様の話の通りなの?
「ドライスデール公爵も、領地が増えるのであれば構わないと言ったではないか!」
「ですが、言い出したのは陛下です!」
領地とメリル様を引き換えに、か。やっぱり公爵もグルだったのか。
メリル様は目を見開いている。……私がこの1年洗脳を解こうと矛盾を突き付けてきたけど、それでもメリル様は父親のことを信じたかったみたいだけど……。
「我々は、愛し子がかどわかされてはまずいと!」
ディル国王の声が焦っている。
「メリリース様が別の国に行ってしまっては、この国の繁栄が約束されませんからね」
私の言葉に、国王が首を激しく振る。
「そ、そういうことでは……」
「父上、その通りだと、言ってしまえばいいじゃないですか。ドライスデール公爵も、メリリース嬢のことはどうでもいいと言っていたじゃないですか……弟君がいるから、メリリース嬢は家に不要だと言っていましたよね」
「サ、サイラス! やめろ!」
それが、真実か。メリル様が青ざめている。私はメリル様の手をギュッと握った。メリル様の手は冷たかった。
「それに、いくら美貌があるとはいえ、男は男。女装したって男だってことは隠せてもいなかったんです。私だって、男と結婚するなんて、本当は御免だったんだ。女装したメリリース嬢が貴族の中で笑いものになっていると、父上だってご存じでしょう?」
自分に酔ったように話すサイラス様に、嫌悪感しかない。
「黙れサイラス! 余計なことを言うな!」
国王がサイラス様に叫ぶ。サイラス様が口をつぐんだ。
本当に、サイラス様ってダメ王子だな。
私の隣で、メリル様がギュッとこぶしを握り締めたのが分かった。
目をつぶったメリル様が、一呼吸おいて目を開いた時には、迷いは消えていた。
「よくわかりました。私の存在は、そういうもの、ということですね?」
メリル様の声が低くなる。今までのかすれた高い声ではなくて、男性の、声。それに、怒りが含まれている。
「私は、この国を去ります」
きっぱりと告げたメリル様に、私はホッとする。
会場には悲壮な空気を纏ったざわめきが広がる。
……でも、メリル様の今までの扱いを考えれば、当然の報いだ。
「だ、誰か、メリリース嬢を……」
「もし、メリリース様の自由を許さないと言うのであれば、私がこの国を滅ぼしますわ。私には神の加護がついていることをお忘れなく」
私の一言に、国王の口が閉じる。私は溜飲が下りたような気持ちで、もう一度口を開いた。
「私たちに付きまとうようなことがあれば、国がなくなると覚えておいてくださいませ。それと、オールコック王国の方々にも、同様にお伝えくださいますか?」
静まり返った会場を見て、私はメリル様に微笑みかける。
メリル様は頷くと口を開いた。
「では、失礼」
メリル様は男性としての礼をとると、私の手を取って会場を後にする。
誰も、追いかけてはこなかった。
会場になっていた王城から出ると、不思議そうに私たちを見る見張りの騎士たちがいたけれど、追いかける人がいないから、すんなりと城下町へと歩いて行けた。
「これから、私は私の人生を、歩いて行けるんだね」
メリル様がかみしめるように告げた。
その言葉が嬉しくて、私も頷く。
どうやら私は、神託で聖女になって、ざまぁする役になれたらしい。
ちなみに、どうやら神様でも世界に干渉できるのは、聖女に神託を与えるときと、私があの言葉を告げてからのみらしい。神託を受けた時に、そう神様が言っていた。
……でも、「ずっと見てたよ」って気持ち悪いから!
それと、神様からのもう一つ余計な一言。
「そのうち人間の世界が嫌になって私に会いに来たくなるよ」
絶対、神様の思う通りにはならないから!
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