15 / 49
教室にて
しおりを挟む
グリーンの授業が終わり、教室はざわめいている。
アリスが次の授業の準備をしていると、ハースがグリーンのところにまた行っていた。
前回ハースはグリーンにノートを見せに行っていたが、もうノートはとらなくていいと言われたと言って戻ってきた。
嫌な予感がしてノートを見せてもらったら、グリーンの発言や挙動をいちいち書いてある観察日記が出来上がっていた。
やっぱり観察されるのは嫌なものなんだと、アリスは納得した。
そして今回は、いつもと変わらない態度でハースは授業を受けていた。ノートもとっていなかったし、わざわざグリーンと話すことがあるのか想像できなかった。
アリスはつい最近病気で休養することになった担任のザイレンのことを思い出した。
ザイレンが休養することになった一因は、ハースではないかとアリスは思っている。何しろ学院長の秘密を握り思うままに操っている人間だ。
普通の先生が、ハースの扱いに困るかもしれないのは、当然のように思えるのだ。
そして今、ハースはグリーンとコンタクトを取っている。もしかしたら、何か脅しているのかもしれないと、アリスは二人を注意深く見る。
グリーンがうろたえているように見える。
いったい何を。
そして結局呆気にとられているグリーンを残し、ハースが席に戻ってきた。
「ハース、グリーン先生と何を話していたの?」
「アリスは素晴らしい女性だってことを伝えてきたんだよ」
ハースが真顔で答える。アリスは首を横にふった。
「本当のことを言って?」
「アリスのことをこの学院の中で一番好きなのは間違いなく俺だよ」
ハースの顔は真顔だ。
「そうじゃなくて!」
「ごめん、間違ってたね。アリスのことを世界で一番好きなのは俺だってことだね」
アリスが首をふる。
「それじゃないわ!」
「アリスも俺のことを好きだってこと?」
ハースが首をかしげる。
アリスの顔がカッと染まる。
「違うわ!」
「え? 違っているの? 俺のことは嫌い?」
ハースが悲しそうに眉を寄せる。
「嫌いじゃないけど、その事じゃなくてってこと!」
「アリスのことを一番見てるのは俺だってことかな?」
「違うわ! グリーン先生と何を話していたの?」
ハアハアとアリスが息を切らす。
「ああ、そのこと……何の話をしていたか、アリスといちゃついていたら忘れてしまったよ」
フフ、とハースが笑うと、アリスの目が半目になった。
「ハースの書いた観察日記、全部処分するわ」
ハースが目を見開く。
「わかった。わかったから! ……言うよ」
ハースが観念した。アリスはホッと息をつく。
「俺はアリスのことを愛しているって言った」
アリスが首を横にふった。
「金輪際、観察日記をつけることは禁止するわ」
「アリス、本当なんだって! 本当に、俺はグリーン先生に、アリスのことを愛していると言ったんだ! グリーン先生に聞けばわかる」
アリスには必死なハースの言葉が嘘には聞こえなかった。
だが、頭がいたくて、こめかみを揉んだ。
「一体、どんな話をしてたら、そんな話になるの?」
ハースが目をそらした。
「寮の敷地への侵入も許さないわよ」
ハースが大きくため息をついた。
「あまりにグリーン先生が俺を見るから、アリスを愛しているから気持ちには応えられないって言ったんだ」
アリスは頭を抱えた。
「先生をからかうなんて!」
「だって俺のアリスとの時間を邪魔されたら困るから!」
アリスはため息をついて、首を横にふった。
「後でグリーン先生に謝りに行きましょう」
ハースがコクリとうなずいた。
「でも、俺がアリスを愛してるってことは、本当だからね?」
弱々しく告げるハースに、アリスの耳が赤くなる。
「わかってるわ」
「アリスが俺のことを好きだってことも本当だよね?」
アリスはハースを見て、ふいと顔をそらした。
その顔は真っ赤だった。
クラスメイトたちは、やれやれと心の中でため息をついた。
アリスが次の授業の準備をしていると、ハースがグリーンのところにまた行っていた。
前回ハースはグリーンにノートを見せに行っていたが、もうノートはとらなくていいと言われたと言って戻ってきた。
嫌な予感がしてノートを見せてもらったら、グリーンの発言や挙動をいちいち書いてある観察日記が出来上がっていた。
やっぱり観察されるのは嫌なものなんだと、アリスは納得した。
そして今回は、いつもと変わらない態度でハースは授業を受けていた。ノートもとっていなかったし、わざわざグリーンと話すことがあるのか想像できなかった。
アリスはつい最近病気で休養することになった担任のザイレンのことを思い出した。
ザイレンが休養することになった一因は、ハースではないかとアリスは思っている。何しろ学院長の秘密を握り思うままに操っている人間だ。
普通の先生が、ハースの扱いに困るかもしれないのは、当然のように思えるのだ。
そして今、ハースはグリーンとコンタクトを取っている。もしかしたら、何か脅しているのかもしれないと、アリスは二人を注意深く見る。
グリーンがうろたえているように見える。
いったい何を。
そして結局呆気にとられているグリーンを残し、ハースが席に戻ってきた。
「ハース、グリーン先生と何を話していたの?」
「アリスは素晴らしい女性だってことを伝えてきたんだよ」
ハースが真顔で答える。アリスは首を横にふった。
「本当のことを言って?」
「アリスのことをこの学院の中で一番好きなのは間違いなく俺だよ」
ハースの顔は真顔だ。
「そうじゃなくて!」
「ごめん、間違ってたね。アリスのことを世界で一番好きなのは俺だってことだね」
アリスが首をふる。
「それじゃないわ!」
「アリスも俺のことを好きだってこと?」
ハースが首をかしげる。
アリスの顔がカッと染まる。
「違うわ!」
「え? 違っているの? 俺のことは嫌い?」
ハースが悲しそうに眉を寄せる。
「嫌いじゃないけど、その事じゃなくてってこと!」
「アリスのことを一番見てるのは俺だってことかな?」
「違うわ! グリーン先生と何を話していたの?」
ハアハアとアリスが息を切らす。
「ああ、そのこと……何の話をしていたか、アリスといちゃついていたら忘れてしまったよ」
フフ、とハースが笑うと、アリスの目が半目になった。
「ハースの書いた観察日記、全部処分するわ」
ハースが目を見開く。
「わかった。わかったから! ……言うよ」
ハースが観念した。アリスはホッと息をつく。
「俺はアリスのことを愛しているって言った」
アリスが首を横にふった。
「金輪際、観察日記をつけることは禁止するわ」
「アリス、本当なんだって! 本当に、俺はグリーン先生に、アリスのことを愛していると言ったんだ! グリーン先生に聞けばわかる」
アリスには必死なハースの言葉が嘘には聞こえなかった。
だが、頭がいたくて、こめかみを揉んだ。
「一体、どんな話をしてたら、そんな話になるの?」
ハースが目をそらした。
「寮の敷地への侵入も許さないわよ」
ハースが大きくため息をついた。
「あまりにグリーン先生が俺を見るから、アリスを愛しているから気持ちには応えられないって言ったんだ」
アリスは頭を抱えた。
「先生をからかうなんて!」
「だって俺のアリスとの時間を邪魔されたら困るから!」
アリスはため息をついて、首を横にふった。
「後でグリーン先生に謝りに行きましょう」
ハースがコクリとうなずいた。
「でも、俺がアリスを愛してるってことは、本当だからね?」
弱々しく告げるハースに、アリスの耳が赤くなる。
「わかってるわ」
「アリスが俺のことを好きだってことも本当だよね?」
アリスはハースを見て、ふいと顔をそらした。
その顔は真っ赤だった。
クラスメイトたちは、やれやれと心の中でため息をついた。
63
あなたにおすすめの小説
10日後に婚約破棄される公爵令嬢
雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。
「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」
これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
つかぬことを伺いますが ~伯爵令嬢には当て馬されてる時間はない~
有沢楓花
恋愛
「フランシス、俺はお前との婚約を解消したい!」
魔法学院の大学・魔法医学部に通う伯爵家の令嬢フランシスは、幼馴染で侯爵家の婚約者・ヘクターの度重なるストーキング行為に悩まされていた。
「真実の愛」を実らせるためとかで、高等部時代から度々「恋のスパイス」として当て馬にされてきたのだ。
静かに学生生活を送りたいのに、待ち伏せに尾行、濡れ衣、目の前でのいちゃいちゃ。
忍耐の限界を迎えたフランシスは、ついに反撃に出る。
「本気で婚約解消してくださらないなら、次は法廷でお会いしましょう!」
そして法学部のモブ系男子・レイモンドに、つきまといの証拠を集めて婚約解消をしたいと相談したのだが。
「高貴な血筋なし、特殊設定なし、成績優秀、理想的ですね。……ということで、結婚していただけませんか?」
「……ちょっと意味が分からないんだけど」
しかし、フランシスが医学の道を選んだのは濡れ衣を晴らしたり証拠を集めるためでもあったように、法学部を選び検事を目指していたレイモンドにもまた、特殊設定でなくとも、人には言えない事情があって……。
※次作『つかぬことを伺いますが ~絵画の乙女は炎上しました~』(8/3公開予定)はミステリー+恋愛となっております。
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした
珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。
そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。
※全4話。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
ある日、悪役令嬢の私の前にヒロインが落ちてきました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【どうやら私はこの世界では悪役令嬢と呼ばれる存在だったらしい】
以前から自分を取り巻く環境に違和感を覚えていた私はどうしても馴染めることが出来ずにいた。周囲とのぎこちない生活、婚約者として紹介された相手からは逃げ回り、友達もいない学園生活を送っていた私の前に、ある日自称ヒロインを名乗る人物が上から落ちてきて、私のことを悪役令嬢呼ばわりしてきた――。
※短めで終わる予定です
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる