捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋

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第一章

ノーマ子爵家からの逃走

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 ミリアムはノーマ子爵家の連中を上手くだまくらかし続け、もうすぐ成人の16歳になる年頃となった。

 逃走資金はばっちり貯まり余裕がある。この分なら何年かは宿暮らしでもやって行けそうな程貯まっているので気持ちにも余裕があった。

 いつ動くかはタイミングだ。季節も今から春から夏に向かう頃合いで丁度よい位だと思っていた。

 ミリアムの姉は2歳年上で、婚約者は隣の領の息子だ。姉の名前はエリザベスという。

 エリザベスは彼女の母親にそっくりの赤毛で碧の瞳を持つ釣り目の大変勝気で意地悪な性格だったが、魔力はそれほど強くなく、せいぜい生活魔法を少し使える程度だった。


 兄のヘンリーは、ミリアムと同じプラチナブロンドと母親ゆずりの碧の瞳を持っていて、容姿だけならミリアムと並べると兄妹だなとわかる程度には似ていた。

 彼は今年20歳になる。婚約者はなんでもおちぶれて借金まみれの侯爵家の娘を金で買うように選んで来た。来年には結婚する予定らしい。借金肩代わりする代わりに娘を寄越せって言う奴だ。性格は腹黒だが容姿は悪くない。

 魔力はミリアム程ではないが、水魔法が使える。


 この頃急に屋敷への人の出入りが頻繁になり、知らない家紋付きの馬車の来訪が増え、気になるので聴覚を強化して、父親の執務室での話を盗み聞きしていると、ミリアムに関する事だった。


父と兄が執務室で話をしている。

 「そろそろアレにも婚約者を決めないといけないだろう。今まで社交界にも出していなかったが、成人の年になれば社交界に連れていかねばならない」

 「誰か良い相手が見つかりましたか?」

 「ああ、それが年は53歳で妻を亡くされて後妻を探されているウエルズ伯爵はどうかと思っている所だ」

 「それは良いですね、あそこはとても良い絹織物の生産地だ、アレも見た目だけであればどこに出しても遜色はないでしょう」

 などと、話しているのが聞こえた。超ムカつくんですけど、何よ人の事アレ、アレって、しかも53歳なんてさあもうテンプレ過ぎ。それって犯罪でしょ!


 そういう話が出てくるようになっては、そのうちガードが固くなり見張りが付くようになるかも知れない。
ここは、さっさと婚約者が決まる前にトンずら決めた方が良さそうだ。


 最低限の着替え(基本男装、スカートも居れておく)、髪の色が茶色のカツラ等の変装道具。
この国では男性も髪を背中まで伸ばす者が多いので男装も変装もしやすい。

 夜のうちに家を出て、身体強化して朝までに最短距離で3つ先の領地を越えていれば、まず見つかりっこない。
貴族の女の子が逃げるなら、屋敷付近に隠れるしかないと思うだろう。馬車もないのに領を越えるなどとおもいもしないと思う。それに男装するなんて思わないだろうし、髪の色が違えば探しようがない。

 貴族の名前で神殿などに行けば居場所がばれてしまうが、そういう事をしなければ良いのだ。(つまり庶民として暮らすという事)


 とりあえずは、王都を目指そう。3つ先の領地を越えるとバングル伯爵の領地で、そこは4つの領の丁度交差場所でもあるので流通の交易点になり、定期馬車も多く宿場町だ。


そこで、色々王都や近場の情報を仕入れて、今後どうしていくか考えよう。

  屋敷の皆が寝静まった頃、男装して髪もカツラをつけリュックを背負った。兄の子供の頃のお古は質が良く、納戸に靴等も綺麗にして納められていたので、その中から厚底のとても良い皮で出来た履き心地の良いブーツを頂いた。

  中々の履き心地だ。柔らかな皮はつま先を立てて折り曲げても痛くなく、靴底はスライムと魔獣の脂を加工して造られており、柔軟性と強度が有った。なめした皮にも魔獣の脂で防水加工されている。さぞかし良い値段がしただろう。贅沢な衣服や靴は大して何度も袖を通したり履かれる事もなかった様だ。

ミリアムが少々頂いても、絶対ばれないだろう。


さて、それではノーマ子爵家の皆さんさようなら、もう会う事もないと嬉しいです。


 全くなんの痕跡も残さずミリアム・ノーマ子爵令嬢は消えた。朝になり彼女が何処にも居ない事がわかり捜索が開始された。領地から他領に行き来できるルートには兵士を向かわせ出入りをチェックしたがそのような人物が通る事も無かった。

 それもそのはず、その頃にはミリアムはバングル伯爵領にある宿屋でまったりしている最中だったのだから。

 バングル伯爵領に抜けると、ミリアムは身体強化を解き、とりあえずは街の商業ギルドに行き、お勧めの宿屋を聞いたあと、道々露店で買い食いした。

 流石に交易の街だけあって、食べ物も色々ある。焼きソーセージ等は、上からぶら下げられた様々な種類や大きさのソーセージの中から食べたい物を選び、その場で焼いてもらい、齧るとパリパリの皮がはじけ、中から油がジュワリと出て、噛みしめると濃い肉の旨味と塩気がますます広がる。

「旨っ!」

「坊主、このパンに挟んで、ザワークラウト乗っけて食べてみな、美味いぞ」

ザワークラウトと言うのはキャベツの酸っぱい漬物だ。前世でも有ったよね。

  ソーセージ屋のオッチャンの言うようにパンにソーセージを挟みザワークラウトをたんもりその上に盛って口に頬張る。

  旨い!ジャキジャキと歯ごたえのある酸っぱいキャベツが効いて、ばくばく食べられる。後は、マスタードとトマトケチャップが欲しい所だが、まだ此方にはカラシを付けたり、トロミの付いたそう言うソースの文化が無いようだ。うーんおしい!前世でのホットドッグっていう奴だ。

  後は甘水屋で、甘味の強いフルーツの絞り汁と井戸水と香りづけの花の雫が入った甘水を買い、水筒に入れてもらい、それを飲みながら宿屋を探す。

  小柄な少年が一人で出稼ぎに出るのだろうと位に思われた様で、露店の店主達は皆好意的で、旅のアドバイスや注意をしてくれて、オマケをくれたりした。
他にも干菓子等を少量買って、目当ての宿屋が見つかると、中へ入って行った。



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