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第四章
名前が変わりました
しおりを挟むドアの前には護衛と思わしき人物が立っていて、黙って会釈された。
「あ、ども」
そして、ドアをノックすると、中から声が聞こえた。
「入れ」
だよね俺様当たり前、筆頭魔術師様だもの。それって国で一番力のある魔術師って事だよね。
「失礼します」
大人しく入ると、護衛の人が静かにドアを閉めてくれた。
おとといと同じで、部屋の中にはドゥーティーだけだった。
「おとといはどうも、今日はよろしくお願いします」
上司となるなら、きちんとせねばなるまい。もと日本人OLの私はそういうのはちゃんとしているつもりだ。
「うむ、考えてくれたか?」
「はい、とても良い条件を提示して頂きましたので、子連れでご厄介になろうかなと思っています」
「そうか、良かった。お前はちょっと変わっているから、返事を聞くまで心配していたのだ」
『ちょっと変わってる』には、「ん?」と思わなくはないが、彼の顔がほっとしたような表情になった。なんか、このやりとりで意外と素直な感情表現をする可愛い人だなと思った。
「では、私の治癒魔法師になるに当たって、お前には新しく名前を授ける。私の実家の遠縁の伯爵家の娘とする。丁度、お前位の年頃の娘で夫と腹の中の子供を失くし、私の実家のハッサ侯爵領の修道院に入った者が居る。その者と戸籍を入れ替える。精神を病んで、俗世には戻らぬ者ゆえ何も心配はない。名前をエミリアン・ガブリエル・ハッサと言う。夫が亡くなった時に、実家に戻りハッサ姓に戻っている。少しお前の名と似ているだろう?丁度良いと思ったのだ」
「私は良いですけど、その方のお家の人も了承されているのですか?」
「大丈夫だ、むしろ喜んでいた。息子は嫡男が一人いるが、一人娘だったのでな。もともと体が弱く社交界も出ていなかったので、ほとんど身内しか知らないのだ。田舎の伯爵家の者だが、仲良くしてやってくれ、そのうち紹介する。なので、お前は私の館でお前の息子も連れて一緒に暮らせば良い。子供の教育も相談に乗るので大丈夫だ。それと、お前の本当の実家の事と前の結婚相手の事をあとで教えておいてくれ、お前には手を出せないようにしておく」
「了解しました…あの、ありがとうございます、一生懸命しごとも頑張ります」
一番気になる子供の事までちゃんとして貰えるようなので、とりあえずこの人が差し出してくれた手を握ってみよう。そう、ミリアム改め、エミリアンは思った。
「うむ、私の事はアレンと呼べ。私はお前をミリーと呼ぶ。良いな?」
「はい、アレン様。では、今後はミリーで宜しくお願いします」
「お前の息子は、アンドレア・ヒュー・ハッサと言う名になる」
「わかりました、ありがとうございます」
※と、言う事でミリアム→エミリアン(ミリー)、ドゥーティー →アレンと表示いたします。
急に今後の人生が変わる一日だった。アンディーは護衛のシャルルが遊んでくれて大満足だったようで、帰りは馬車の中でお昼寝してしまいました。
なんだか、アレン様は何を急いでいるのか、出来るだけ早く来て欲しいようで、一週間後にはアレン様の館に行く事になった。どちらにしても、物を多く持たない主義の私はすぐに動けるのだから心配はない。
お世話になった部屋の片づけや掃除をして過ごした一週間はとても早く過ぎていった。
一週間後にまた、シャルルが馬車で迎えに来てくれた。
シャルルは私の荷物の少なさに驚いていた。
アンディーはシャルルを見ると覚えていたらしく、さっさと彼の方へ行ってしまった。
馬車の中でも彼に振り回して貰う事にご執心だったアンディーは、私の膝の上には来てくれず、ひたすらシャルルの傍でかまってもらっていた。
「エミリアン様がアレン様の所に来て下さることになりとても嬉しく思っております。今後ともよろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくね。シャルルは今から伺うアレン様のお屋敷をよく知っているの?」
「はい、もともとはアレン様付きの護衛の一人でしたので、お屋敷に住んでおります。お屋敷の方もご案内いたしますので、大丈夫ですよ」
「そ、そう、それは…心強いわ」
シャルル相手では、アンディーをもって行かれてしまう。ありがたいやら、悲しいやらだ。
ほどなく、馬車はアレンの屋敷に到着した。さすが筆頭魔術師の館、大きな屋敷だ。門をくぐり屋敷のエントランスに馬車が到着すると、執事や侍女やメイドが並び出迎えてくれた。アレンは仕事で居ない。
「お嬢様いらっしゃいませ、お待ち申し上げておりました」
あくまでも、エミリアンはドゥーティー・アレン・ハッサの遠縁の娘で大切な主人の親族の扱いになる。
家の者には、遠縁の強い治癒の魔力を持った娘が、運悪く事故で夫を亡くし、こちらで自分専属の治癒師として働く事になったというフレコミらしい。
アレンの専属の治癒師でもあるエミリアンはVIP扱いだった。
そして、これまた、アンドレアの可愛さにメロメロの執事や侍女長やそれぞれは、アンドレアに構いまくってくれるので、ママとしては寂しかった。
エミリアンの部屋とアンドレアの部屋は居間を挟んだ隣部屋で用意されていた。アンドレアの部屋は寝室以外に子供の喜びそうな様々な玩具が置かれている遊具室があり、その隣にはアンドレア用のウォークインクローゼットが用意されていた。
定番の木馬や、大きな熊のヌイグルミも完備されていて、子供用の小さな家具やベッドが置かれ、ソファーとテーブルまで子供用が用意されていた。
一方、エミリアンの部屋も寝室以外にウォークインクローゼットの部屋も用意され、ドレスや洋服に靴も用意されていた。脱帽である。
シャルルに図書室やサロンも案内してもらった。
アンドレアも一緒にサロンでお茶を用意するのでどうぞと言われ、お茶をしているとエミリアン付きの侍女とアンドレア付の侍女を紹介された。
この家で働く者は、全て魔法契約により主家の者に害をなす事はないとの事である。
エミリアンの侍女はカタニーと言う名前で、エミリアンよりもだいぶ年上だった。侍女長の娘なのだそうだ。えらくしっかりしている様子だ。髪をきっちり上げてひっつめているし、銀縁メガネ様で一瞬怖そうに見えたが、ニコリと笑うと愛嬌があった。うん、大丈夫そうです。
アンドレアの侍女はエミリアンよりも少し年上そうで、ふっくらした体型で、見るからに優しそうな侍女で、マリンと言う名前だった。
後は、執事長のファーブルと侍女長のザリにも挨拶された。
みんなとても好意的でありがたかった。
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