捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋

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第四章

戻って来た黒い鳥

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 その晩の事である。

 アンドレアがこの屋敷で一人で眠るのに慣れるまでは、エミリアンが自分の寝室のベッドの隣に子供用のベッドをもって来てもらい寝かしつけると言ったので、屋敷の者はそのように取り計らってくれた。

 アンドレアは寝てしまうと、むしろ構われるのを嫌がる性質を持っているので、エミリアンはベッドにそのまま寝かせておいて、自分はまだ眠くなかったので図書室から持って来た本を隣の自分用のリビングのソファーで読んでいた。

 その頃になってもまだアレンは帰って来ていなかった。

 そうして本を読んでいると、コツン、コツンとまた窓が鳴った。なんだかいつかの再現の様だ。


 カーテンを開けると、おもった通り、やはり、あの黒い鳥がいた。

 これは、アレンだ。

 窓の外から首を傾げて中を自分を見ている。

 なんだか笑える。


 あれ、でも、怪我していた方の羽が妙だった。

 窓を開けるとまたヨタヨタはいって来る。
 
 「アレン様、ソレ、どうされたんですか?」

 窓を閉めて、カーテンを閉める。

 アレン鳥は床の絨毯の上にトタッと降りて、エミリアンを見上げた。


 何故だかアレン鳥の昔怪我していた方の右羽がテラテラと黒く光っていたのだ、なんだろうと、絨毯に膝を突きお尻を高く上げじーっと絨毯に顔を近づけて見る。アレン鳥の方がタジタジなって目を白黒(紫だが)させている。


 「んー?うろこ?鱗なの?」

 それは、黒光りする鱗がビッシリと生えた右羽だった。
辛うじて先の方だけ羽になっている。

 「え?なんで鱗?」
 
 じーっと見ていると、アレン鳥は寄って来て、ぐいぐいその鱗の生えた羽をエミリアンの膝小僧の辺りに押し付けて来る。


 「えー?」

 もしかしてこれ病気だとか?いやいやよく分からないが…それで長い裾の広がるネグリジェを着ていたので絨毯に胡坐をかいて、アレン鳥を両掌でそっと包むようにして治癒魔法を使った。

なんだか、その鱗の生えた右羽の方は魔力を跳ね返す様な嫌な魔力の流れがあり、それをまともに流そうと血液の循環にそって、魔力を押し流すイメージで何度もそこを攻めると、ようやくまともな魔力の流れが出来た。

すると、今度は突然、黒い鱗がパラパラと絨毯に落ちて行き、その鱗はあっと言う間に砂のように崩れ、ぶすぶすと音を立てて黒い濁った力に変わり、なんとも形容し難いいやな感じの黒い力の塊になり何処かを目指して飛んで行った。

 アレン鳥は、急にピルプル震えたかと思うと、縦に黒い布がしゅるしゅると伸びたかと思ったら、今度はローブを着た人間のアレン様になった。


 「さすが、私の見込んだ治癒師、やはりお前しか治せないのだな」

 見上げる程の高身長のアレン様が現れた。なんだ鳥から人になったら裸なのかと思っていたら、服着てたよ。

 腰まである黒い絹糸の様な黒髪は美しく、顔も端正でイケボである。うーん…

 「そうだ!…アレン様さっきの鱗はなんでしょうか?」

 「…ああ、あれはお前に初めて会った時に直してもらった傷と一緒に受けた呪いだ」

 「呪い?」

 「以前、同盟国のベルダでクーデターが起きた時に、クーデターを仕掛けた者が張った結界を破ると、同時に攻撃と呪いが発動するようになっていて、それをくらってしまったのだ。呪術が強力でこのゼノディクスでは解ける者がいない。あのまま心臓に達すると黒竜になるところだった」

 「黒竜!?」

 「以前お前に治癒魔法を受けた時は、しばらく大丈夫だったのだが、あれから呪いが動きだし、困っていたのだ」

 「え、でも、今ので消えたわけじゃないですよね!」

 「そうだが、さっきの分の呪いは返された。今後はお前がいるから大丈夫だ、他の誰も消せなかったがやはり、お前の治癒魔法をかけると効くのだ」

 「だ、大丈夫だって言われても安心できません。どうしたらその呪い解けるんですか?」

 「呪いをかけた者を探し出して解かせるか、殺すかだな」

 「誰なんですかそれ?」


 「ベルダ王国の現王の腹違いの弟だ。クーデターが失敗したのを見て逃げたのだ。未だに逃げ隠れしている」

 「見つけられないんですか?それ」

 「なかなか難しいな、相手は私程ではないが魔術が使える上に呪術師でもある。だが、このまま私の呪いをお前が解き放ち、相手に返せば相手は死ぬだろう。今ももがき苦しんでいるはずだ」

 「ええっ、それって最悪じゃないですか!おもにワタシが…」

 エミリアンは吠えた。死活問題だ、そいつに今度はこっちが狙われて見ろ、いや、狙われるに決まっている。なんてこった、だから条件良かったんだな…

 ああ、やられた、どうしたもんだか…

 おもわず、頭を抱えたくなった。

 「大丈夫だ、魔力も結界を張る力も私の方が上だ。私がお前とお前の息子は護ると誓う」


 ああもう、抜き差しならなくなってしまった。腹をくくるしかなさそうだ。

 「絶対おねがいしますよ!、ちょっと騙された感とんでもなくあります!」

 ぷんすかしながら、指をつきつけて、アレンに言うと、廊下に通じるドアまで行きガチャリと開ける。

 「…という事で、おやすみなさい、私寝ますから、アレン様もおやすみ下さい。今日は色々とありがとうございました、またこれからのお話は昼間にでもお聞かせ下さい」


 「…すまないな、ではそうしよう、治癒魔法助かった。ありがとう」

 アレンは大人しく部屋から出て行った。




 翌日、侍女のカタニーが起こしに来るまで、ぐっすり眠った。アンドレアも夜目が覚める事もなかった。

 アンドレアの面倒はマリンが上手くあやしながら子供部屋に連れて行き、玩具で遊ばせながら、着替えや朝の支度を手際よく行ってくれた。

 一方、エミリアンの方も顔を洗った後、カタニーがドレスを着せ付け髪もブラッシングして巻き、両サイドを上げ髪飾りを付けてくれた。靴もドレスに合わせてある。

 ドレスと言っても夜会に出るようなドレスではなくワンピーススタイルの脱ぎ着が楽な物だ。

 「あのね、カタニー、洋服なんだけどクローゼットにはパンツスタイルもあるのかしら?」

 「ございますよ、旦那様のご指示で用意しております。そちらの方がよろしかったでしょうか?」

 「仕事に行くようになったら、パンツスタイルで行くわ。動きやすいから」
 
 「はい、男装スタイルですね、その様にいたします。それと今朝は朝食後に、サロンでは旦那様がお待ちになられています」

 「わかりました。ありがとう、可愛くしてもらって嬉しいわ」


 エミリアンはこの世界で、こんなに綺麗にしてもらった事は初めてだと思われる程、綺麗にしてもらった。髪も高価な香油を使いブラッシングしてもらい、艶が全然違う。

 ちょっとテンションアゲアゲになったのだった。アンドレアも可愛い子供服を着せられている。

 食堂では、子供用の椅子が用意されていて、マリンがアンディーにスタイを付けて、手取り足取りお世話をしてくれている。エミリアンも横に並び話しかけながら和やかに食事が出来た。


 「お嬢様、それでは坊ちゃまと遊具室で遊んでおりますので、何か御用がございましたら、他の者にお伝えください」

 「マリン、アンディーをよろしくね」

 「はい、お任せ下さい」


 サロンに行くと、今日もお手入れバッチリの美しい黒髪のアレン様が居た。
 
 この自分の事には無精そうな人がこんなに美しい髪をしているのは、周りの人の努力によるものなのだなと感心した。国の宝って奴だ。

 「おはようございますアレン様、体調はどうでしょうか?」

 「おはよう、ミリー、お前のお陰でとても今日は気分が良い」

 フッと笑顔が出て、半端ない破壊力があったが、私は負けないぞ。まあ、この国の人よりかなり黒髪に対して抵抗力があるので、そこがまず違う所だ。


 「はい、それは仕事のやりがいがあると言うものです、で、私という餌を撒いた所で、次の貴方様のご予定をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 


 



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