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第七章
露店のおじさん
しおりを挟むソベルトの街の市場にはゼノディクスとはまた趣の違った生活用品が並んでいる。
手織りの絨毯や革製品が多く、絨毯の色や柄、靴の形と言うのも違い、真鍮のような金属の製品も多くランプやドアノブ、鏡のフレーム、カトラリーだとか、ボタンやブローチと言った細工の細かい美しい雑貨が多く、見て回るだけでも楽しい。真鍮と言うと銅と亜鉛の合金だが、この辺りでは鉱山があるのだろうか。
こちらでも少年の恰好をして歩くエミリアンだった。いよいよベルダとも近く、ベルダの色々な噂も聞く。
ベルダの国境の検問は4ケ所あるが、どこも検問が厳しく出入りの証人は割符を渡されていて、それを持っていない旅人や商人はベルダの中には絶対に入れないそうだ。
ベルダの国は王弟のベレラルド公が亡くなった事で、ベルダの貴族は3年も喪に服し黒衣しか身に付けられないそうで、辛気臭くてたまらないだとか言う人達もいた。
アレン様はベルダの中の様子を鳥になって探りに行っている。ベルダは結界が不安定で、あちらこちらに穴があるようで、そういうのもアレン様には視えるのだそうだ。鳥になれば好きな場所から出入りできると言い、ベルダに出掛けて行ってしまった。いったい天は二物どころか何物彼に与えたのだろうか?
今、宿泊している宿屋はソベルトの繁華街にあり、露店も沢山道に出ている。宿屋は大通りにあり、店から出るともう露店が並んでいるので、アレン様にはその辺りでなら店を見て回るのは構わないと言われた。
髪は後ろ一つにリボンで括り、少年姿で宿屋近くの露店をまわると、真鍮のアクセサリーを扱った小さな露店が目に付いた。そこは他の店に比べても人の入りが多く、何故なのか気になり小さな店に並ぶアクセサリーを見て目を見張った。
アクセサリーと言うよりは、一言でいうと本物だった。その辺にいる昆虫が、そのまんま真鍮の細工品になったと言って良いだろう。カブトムシやクワガタ、ハエや、トンボにカタツムリ、ナナフシにカエルと、並ぶ物がどう見ても材質が真鍮だが出来は本物そっくりだ。
子供の土産にだとか、見た人が惹きつけられるような細工の細かさで、そんなに凄い工芸品なのに値段はそこそこなのだ。
売ってるおじさんは、肌も日に焼けて、頭にオレンジのスカーフを巻いて後ろに一つ長い三つ編みを垂らして、べっ甲色のごつい縁の色眼鏡をかけたとぼけた感じのおじさんだ。
その辺にいる人達にまぎれているけど、金髪だよね。貴族の血が入っている。
おもわず手に取って真鍮のカタツムリをジーっと見て見た。金属の重みと冷たさがある。でもこんな細工ができるものか、この人はなにか…こういう物を扱うのに適した魔力かギフトを持っているはずだ。
しかも、ふんわりと、このアクセサリーには優しい魔力を感じる。
一言でわかりやすく言えば、マイナスイオンが出ていると言えば良いかもしれない。
「やあ…じょうちゃんかな、いらっしゃい気に入った?」
「気に入ったとかいうランクではないです、すばらしい細工物ですね」
「そうかい?ありがとう。でも、昆虫なんかの足は気を付けないと直ぐに形がくずれてしまうからね、遠くに持って帰るのが難しくてね、梱包に気を使うんだ」
「ああ、なるぼど、そうでしょうね。カタツムリとか、細かい部分があまり出ていないのがいいかもしれませんね」
「うん、そうなんだ」
「こういうの、ペーパーウエイトにしたり、あと、昆虫なんかはブローチにしてもおしゃれですよね、目の所に宝石か魔石の屑石をはめると凄く良くなりそう」
「ああ、そうだね、そういうのいいね、私にはそういう技術がないから出来ないんだけど、専門に出来る人に頼めばいいかもしれないよね」
「?こんなに器用な物作るのに、おじさんもおかしな事を言うね、目のとこに細工するだけで出来るのに…」
そうすると、はっとしたような顔をしたおじさんは、ポリポリ頭を掻いた。
「これ、私が作ったわけじゃないからねー」
「なんだそうなんだ、てっきりおじさんが作っているのかと思ったよ」
ちょうど昼前になり、みんなお客が食べ物の露店に流れて行き人の流れが切れはじめる。
「そうだ、君に似合いそうなものがあった、ちょっと待ってて」
おじさんは店の裏に行き、手の中に何か握って来た。おじさんは、足が悪いようでかなり痛そうに引きずっていた。
「ほら、可愛いだろう?女の子ってこういうの好きだろうと思って」
それは、昆虫シリーズじゃなくて、小さなシロツメクサの花の束だった。
10本位あって、すごく可愛い。しかも、これプラチナではなかろうか?
「おじさん、これすごい可愛いけど、高いでしょ?一本でいいよ」
「いや、売り物じゃないんだ、君にあげるよ、お試し品なんだけど、店の雰囲気に合わなかったし」
そりゃあ、真鍮にプラチナじゃなんとなく、真鍮負けちゃって合わないだろう。
なんか、このおじさん浮世離れしてて、危なそう。大丈夫なんだろうか?
「…あのさ、じゃあさ、おじさん足の怪我治してあげるよ、お礼にね、ちょっとイス座ってみて」
おじさんをイスに座らせて、足の具合を見る。
長衣に隠れて見えなかったが、酷い傷跡だ、ちゃんと傷を治せなかったのかそのまま傷が固まり脚が変形してしまっている。
座っているおじさんの傷がある膝を両手で包み、ゆっくりと骨の再生とそれに付いている筋や筋肉、血管を治していく。
おじさんが息を飲んで私を見つめているのを感じた。
「うん、もう大丈夫、おじさん治ったよ」
「…あ、ああ・・」
おじさんは黙って立ち上がり、狭い店の中をゆっくりと歩く。
「…嬢ちゃん、すごいな、治してくれたのか、こんな所に治癒師様がいるとは…」
おじさんは膝を付き、私の手をとった。
「ありがとう!もう治らないものだと諦めていた。脚さえ悪くなければと何度も思った。ありがとう!」
おじさんのメガネの下から涙の筋が流れた。
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