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⑤体調不良 −発熱−
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治療院に泊まり3日目を迎えた。太陽の位置が、もうすぐ真上に差し掛かりそうな遅い時間、陽射しの眩しさで目を覚ましたロティルは、起き抜けに大きな長い溜め息を吐く。
また明け方まで眠れなかった⋯⋯!
カヤミのことで勝手にモヤモヤして
正直 落ち込んでる
昨日は 外出したから顔を合わせてないけど
カヤミの態度が変わったのを目の当たりにしてから、何となく話しかけづらくなってしまった。すれ違いざまに最低限の挨拶を交わす⋯⋯そんな程度しかできない。
ロティル自身、薬草の取引や納品等で店主や客と関わっている中で、接客中のみ身振り素振りが変わる人が割と多いのは知っている。
もしかしたら、カヤミの対応もそういった類のもので、微笑む顔や物腰の柔らかさも医者として患者と向き合ってる時だけなのかも⋯⋯そんな風に前向きに捉えようとしてはいるが、どうにも気持ちは晴れてくれない。
知り合いになったばかりの人のことを
なんで こんなに気にしてるんだ?
他人と合う合わないなんて 今までだって散々あったのに
腹が立つとか そんな感情では全然なくて
どういうわけか
あの人に本当に嫌われてたら⋯⋯
いやだな と思ってる
遅めの朝食と早めの昼食を兼ねた食事。カヤミはジゼと診察中なので、ロティルとポーラ2人で囲む食卓だった。
「ここのところ、前より起きるの遅いわね。夕飯だって おとといも昨日も抜いて。あんまり良くないわよ」
「ん⋯⋯何か調子があんまり。眠れてないし」
「悩みでも あるんじゃないの?」
「悩み? ⋯⋯いや、違うよ」
子どもを心配する親のお説教のようなポーラの話に耳を傾けつつ、パンを口にねじ込む。悩み と言われ頭に浮かぶのは⋯⋯ 淡い青い髪の
『⋯⋯⋯⋯ あとは、何か?』
頭を振って考えないように自分に言い聞かせ「違う」と口に出して否定した。食欲は相変わらず無かったが、無理矢理完食する。栄養面が云々も、つい この間その人に言われて結局、気にしているのかもしれない。
「ごちそうさま」
──あれ? 目の前が⋯⋯ 回っ て
まっすぐ 歩けない
片付けようと椅子から立ち上がったロティルを強烈な目眩が襲う。そのままバランスを崩すと、肘を床に強打して倒れてしまった。
「ねぇ ちょっと!! ロティルカレアが倒れたの!!」
慌てふためいたポーラは走り慣れない身体を揺らしながら、急いでジゼとカヤミを呼びに診察室へやってきた。
「倒れたって!? 今の すごい音はロティルカレアか! どうしたんだ一体」
「⋯⋯俺が見に行ってくる」
午前の診察は まだ終わっていないので、ジゼに任せ、カヤミが様子を確認しに行くことになった。外した金縁眼鏡を白衣の胸ポケットに入れながら足早に駆けつける。
食卓付近の床に座り込んで壁にもたれ掛かるロティルがいた。項垂れていて下がった赤い前髪で顔はよく見えない。黒い手袋をした右手で肩にそっと触れながら声を掛ける。
「どうしました?」
「⋯⋯ カヤミ⋯⋯?」
「意識はありますね。倒れた時に頭を打ったりしていないですか?」
「頭は打ってない⋯⋯ 咄嗟に肘 付いたから。なんかフラついてさ⋯⋯コレが貧血なの かな⋯⋯?」
意識はあり、呼びかけに応じる事も質問に答える事もできてはいる。ただ 声を出すのに辛そうにし、息も苦しそうな様子ではあった。
「貧血? けど顔色は悪くないし、むしろ赤いような⋯⋯ ちょっと失礼します」
カヤミは左手でロティルの額に手を添え、指先で前髪をよけながら何度か掌をあて直す。首の後ろにも手を滑り込ませ、身体の熱さを確認した。
あぁ すごく久々に話した気がする
カヤミの手 冷たくて気持ちいい⋯⋯
こんな状況下でも数日ぶりに話すことができた安堵感と喜びの感情が湧いてくる。そしてカヤミの手の心地良さに目を閉じ、はぁ⋯⋯ と息を吐く。
「⋯⋯かなり熱い⋯⋯ 恐らく発熱してるかと」
「え 熱あるの? 俺⋯⋯」
「肩を貸すので、とりあえず部屋で横になりましょう。立てますか? ゆっくりで大丈夫ですよ」
ぼんやりしながらも、発熱していると聞いて驚く余裕は まだある。背の高いロティルの身体をカヤミが側で支えながら階段を一段一段 登って行った。
肩を貸してもらうって⋯⋯こういうフラフラ状態じゃなきゃ多分 無理だな
密着度が高すぎて なんか恥ずかしい⋯⋯
「冷やす物 持ってきますね」
ロティルは自室のベッドに横にならせてもらい、カヤミは1階へと降りて行った。浅い呼吸で天井を見上げるが、視界は先程より白っぽくボヤけてきている。
熱あるって聞いちゃうと⋯⋯ちょっとキツくなってきたかも
カヤミが氷一式と、早めに診察が一区切りついたジゼを連れて戻ってきた。
「ロティルカレア、熱出たんだって? 珍しいなぁ」
「ジゼ⋯⋯ まぁ 最近、ちょっと寝不足だったし⋯⋯」
「あと気になるところは ある?」
「少し 腕の傷が痛い⋯⋯ か な」
「傷⋯⋯ あっ」
傷の話を聞いて、カヤミがハッとして声を漏らす。
「包帯、ちょっと取るよ」
包帯は一昨日カヤミが診察した際に巻いたものだった。ジゼが それを取り去ると、傷口の一部が黄色と紫に変色し、膿がベットリ付着している。その状態を見たカヤミが深刻そうに呟いた。
「化膿してる⋯⋯短期間で、この前より酷く」
「あぁ、噛まれた傷だったのか。魔獣の唾液は傷を悪化させやすいからねぇ。いつもの薬草の軟膏だけじゃ弱かったかな」
「⋯⋯ 今は、どうすれば?」
カヤミは悔やんで口唇を噛み俯いていたが、すぐに顔を上げてジゼに指示を仰ぐ。
「ん~ そうだなぁ、化膿止めと⋯⋯強めの治癒効果の薬草は⋯⋯ すぐに調合しないとな」
「俺が調合をするから教えて欲しい⋯⋯ 俺が、診た人だから」
必死な声で懇願するカヤミの肩を軽く叩くとジゼは、ふさふさのヒゲをニッとさせ笑った。
「ロティルカレアはそんなヤワじゃないから。心配し過ぎなくて大丈夫だよ。
うん、じゃあ調合やってもらおうか。傷をコレで消毒してあげたら薬草の倉庫においで」
「ん⋯⋯」
いつもと違う消毒の薬を受け取り、カヤミは立ち尽くしたままになっていた。表情は ずっと暗い。
ベッドの傍らに木の椅子を置き、洗面器に入った氷水でタオルを濡らして丁寧に絞ると、ロティルの額に乗せてやる。
「ありがと⋯⋯」
「首とか脇を冷やした方がいいんですけど。また後で、丁度良さそうなの探してきます」
「ん⋯⋯コレでも 充分⋯⋯」
ロティルは浅い呼吸をしながら感謝の言葉を述べ、口元に笑みを浮かべた。
「消毒しますね⋯⋯前回より かなり、痛いと思います」
「ぐっ⋯⋯! ホントだ、 痛 い ⋯⋯ 焼かれてるみたいだ⋯⋯」
眉間にシワを寄せ、顔を一層赤くしながら痛みに歯を食いしばる。簡易的なガーゼをあてながらカヤミが囁くような声で伝えた。
「申し訳ないです⋯⋯俺のせいで」
「え⋯⋯?」
「俺が診察したのに⋯⋯側にいたなら、そのあとも傷の具合を小まめに診るべきだった」
薄青色の前髪からのぞく青紫の瞳は静かに揺らいで光は弱い。以前見た鋭い目つきの時と似ても似つかない。
「そんなの⋯⋯魔獣なんて いない世界から来たんだから、わからなくて当たり前だよ。薬もジゼが調合したのをちゃんと使ってたんだし⋯⋯」
「けど、俺がきちんと知識を身につけていれば、ここまで悪化させずに済んだかもしれない⋯⋯」
自責の念にとらわれたカヤミは、ずっと苦しそうな顔をしている。
久しぶりに話が出来たのに
なんで こんなこと言わせてるんだろう
そうじゃなくて 俺は だた普通に⋯⋯
「カヤミ⋯⋯気に病まないでいいよ。こんなの 滅多にないから。そもそも この傷だって俺の油断が原因で⋯⋯熱出すなんて いつぶり かな⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯」
「そんな顔 しない で⋯⋯ カヤミは 悪くな い」
朦朧とした意識の中、しんどそうに呼吸をし、掠れた声でカヤミを庇う言葉をロティルは掛け続けた。
「すみません⋯⋯喋らせ過ぎて。辛いでしょう、眠って 待ってて下さい⋯⋯」
「ん⋯⋯」
ロティルの胸にカヤミがそっと手を置く。すると、まるで不思議な力が働いたかのように、ゆっくりと目は閉じられ、すぐに眠りへと落ちた。
また明け方まで眠れなかった⋯⋯!
カヤミのことで勝手にモヤモヤして
正直 落ち込んでる
昨日は 外出したから顔を合わせてないけど
カヤミの態度が変わったのを目の当たりにしてから、何となく話しかけづらくなってしまった。すれ違いざまに最低限の挨拶を交わす⋯⋯そんな程度しかできない。
ロティル自身、薬草の取引や納品等で店主や客と関わっている中で、接客中のみ身振り素振りが変わる人が割と多いのは知っている。
もしかしたら、カヤミの対応もそういった類のもので、微笑む顔や物腰の柔らかさも医者として患者と向き合ってる時だけなのかも⋯⋯そんな風に前向きに捉えようとしてはいるが、どうにも気持ちは晴れてくれない。
知り合いになったばかりの人のことを
なんで こんなに気にしてるんだ?
他人と合う合わないなんて 今までだって散々あったのに
腹が立つとか そんな感情では全然なくて
どういうわけか
あの人に本当に嫌われてたら⋯⋯
いやだな と思ってる
遅めの朝食と早めの昼食を兼ねた食事。カヤミはジゼと診察中なので、ロティルとポーラ2人で囲む食卓だった。
「ここのところ、前より起きるの遅いわね。夕飯だって おとといも昨日も抜いて。あんまり良くないわよ」
「ん⋯⋯何か調子があんまり。眠れてないし」
「悩みでも あるんじゃないの?」
「悩み? ⋯⋯いや、違うよ」
子どもを心配する親のお説教のようなポーラの話に耳を傾けつつ、パンを口にねじ込む。悩み と言われ頭に浮かぶのは⋯⋯ 淡い青い髪の
『⋯⋯⋯⋯ あとは、何か?』
頭を振って考えないように自分に言い聞かせ「違う」と口に出して否定した。食欲は相変わらず無かったが、無理矢理完食する。栄養面が云々も、つい この間その人に言われて結局、気にしているのかもしれない。
「ごちそうさま」
──あれ? 目の前が⋯⋯ 回っ て
まっすぐ 歩けない
片付けようと椅子から立ち上がったロティルを強烈な目眩が襲う。そのままバランスを崩すと、肘を床に強打して倒れてしまった。
「ねぇ ちょっと!! ロティルカレアが倒れたの!!」
慌てふためいたポーラは走り慣れない身体を揺らしながら、急いでジゼとカヤミを呼びに診察室へやってきた。
「倒れたって!? 今の すごい音はロティルカレアか! どうしたんだ一体」
「⋯⋯俺が見に行ってくる」
午前の診察は まだ終わっていないので、ジゼに任せ、カヤミが様子を確認しに行くことになった。外した金縁眼鏡を白衣の胸ポケットに入れながら足早に駆けつける。
食卓付近の床に座り込んで壁にもたれ掛かるロティルがいた。項垂れていて下がった赤い前髪で顔はよく見えない。黒い手袋をした右手で肩にそっと触れながら声を掛ける。
「どうしました?」
「⋯⋯ カヤミ⋯⋯?」
「意識はありますね。倒れた時に頭を打ったりしていないですか?」
「頭は打ってない⋯⋯ 咄嗟に肘 付いたから。なんかフラついてさ⋯⋯コレが貧血なの かな⋯⋯?」
意識はあり、呼びかけに応じる事も質問に答える事もできてはいる。ただ 声を出すのに辛そうにし、息も苦しそうな様子ではあった。
「貧血? けど顔色は悪くないし、むしろ赤いような⋯⋯ ちょっと失礼します」
カヤミは左手でロティルの額に手を添え、指先で前髪をよけながら何度か掌をあて直す。首の後ろにも手を滑り込ませ、身体の熱さを確認した。
あぁ すごく久々に話した気がする
カヤミの手 冷たくて気持ちいい⋯⋯
こんな状況下でも数日ぶりに話すことができた安堵感と喜びの感情が湧いてくる。そしてカヤミの手の心地良さに目を閉じ、はぁ⋯⋯ と息を吐く。
「⋯⋯かなり熱い⋯⋯ 恐らく発熱してるかと」
「え 熱あるの? 俺⋯⋯」
「肩を貸すので、とりあえず部屋で横になりましょう。立てますか? ゆっくりで大丈夫ですよ」
ぼんやりしながらも、発熱していると聞いて驚く余裕は まだある。背の高いロティルの身体をカヤミが側で支えながら階段を一段一段 登って行った。
肩を貸してもらうって⋯⋯こういうフラフラ状態じゃなきゃ多分 無理だな
密着度が高すぎて なんか恥ずかしい⋯⋯
「冷やす物 持ってきますね」
ロティルは自室のベッドに横にならせてもらい、カヤミは1階へと降りて行った。浅い呼吸で天井を見上げるが、視界は先程より白っぽくボヤけてきている。
熱あるって聞いちゃうと⋯⋯ちょっとキツくなってきたかも
カヤミが氷一式と、早めに診察が一区切りついたジゼを連れて戻ってきた。
「ロティルカレア、熱出たんだって? 珍しいなぁ」
「ジゼ⋯⋯ まぁ 最近、ちょっと寝不足だったし⋯⋯」
「あと気になるところは ある?」
「少し 腕の傷が痛い⋯⋯ か な」
「傷⋯⋯ あっ」
傷の話を聞いて、カヤミがハッとして声を漏らす。
「包帯、ちょっと取るよ」
包帯は一昨日カヤミが診察した際に巻いたものだった。ジゼが それを取り去ると、傷口の一部が黄色と紫に変色し、膿がベットリ付着している。その状態を見たカヤミが深刻そうに呟いた。
「化膿してる⋯⋯短期間で、この前より酷く」
「あぁ、噛まれた傷だったのか。魔獣の唾液は傷を悪化させやすいからねぇ。いつもの薬草の軟膏だけじゃ弱かったかな」
「⋯⋯ 今は、どうすれば?」
カヤミは悔やんで口唇を噛み俯いていたが、すぐに顔を上げてジゼに指示を仰ぐ。
「ん~ そうだなぁ、化膿止めと⋯⋯強めの治癒効果の薬草は⋯⋯ すぐに調合しないとな」
「俺が調合をするから教えて欲しい⋯⋯ 俺が、診た人だから」
必死な声で懇願するカヤミの肩を軽く叩くとジゼは、ふさふさのヒゲをニッとさせ笑った。
「ロティルカレアはそんなヤワじゃないから。心配し過ぎなくて大丈夫だよ。
うん、じゃあ調合やってもらおうか。傷をコレで消毒してあげたら薬草の倉庫においで」
「ん⋯⋯」
いつもと違う消毒の薬を受け取り、カヤミは立ち尽くしたままになっていた。表情は ずっと暗い。
ベッドの傍らに木の椅子を置き、洗面器に入った氷水でタオルを濡らして丁寧に絞ると、ロティルの額に乗せてやる。
「ありがと⋯⋯」
「首とか脇を冷やした方がいいんですけど。また後で、丁度良さそうなの探してきます」
「ん⋯⋯コレでも 充分⋯⋯」
ロティルは浅い呼吸をしながら感謝の言葉を述べ、口元に笑みを浮かべた。
「消毒しますね⋯⋯前回より かなり、痛いと思います」
「ぐっ⋯⋯! ホントだ、 痛 い ⋯⋯ 焼かれてるみたいだ⋯⋯」
眉間にシワを寄せ、顔を一層赤くしながら痛みに歯を食いしばる。簡易的なガーゼをあてながらカヤミが囁くような声で伝えた。
「申し訳ないです⋯⋯俺のせいで」
「え⋯⋯?」
「俺が診察したのに⋯⋯側にいたなら、そのあとも傷の具合を小まめに診るべきだった」
薄青色の前髪からのぞく青紫の瞳は静かに揺らいで光は弱い。以前見た鋭い目つきの時と似ても似つかない。
「そんなの⋯⋯魔獣なんて いない世界から来たんだから、わからなくて当たり前だよ。薬もジゼが調合したのをちゃんと使ってたんだし⋯⋯」
「けど、俺がきちんと知識を身につけていれば、ここまで悪化させずに済んだかもしれない⋯⋯」
自責の念にとらわれたカヤミは、ずっと苦しそうな顔をしている。
久しぶりに話が出来たのに
なんで こんなこと言わせてるんだろう
そうじゃなくて 俺は だた普通に⋯⋯
「カヤミ⋯⋯気に病まないでいいよ。こんなの 滅多にないから。そもそも この傷だって俺の油断が原因で⋯⋯熱出すなんて いつぶり かな⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯」
「そんな顔 しない で⋯⋯ カヤミは 悪くな い」
朦朧とした意識の中、しんどそうに呼吸をし、掠れた声でカヤミを庇う言葉をロティルは掛け続けた。
「すみません⋯⋯喋らせ過ぎて。辛いでしょう、眠って 待ってて下さい⋯⋯」
「ん⋯⋯」
ロティルの胸にカヤミがそっと手を置く。すると、まるで不思議な力が働いたかのように、ゆっくりと目は閉じられ、すぐに眠りへと落ちた。
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