異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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⑥体調不良 −看病−

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 カヤミは、ロティルが眠ったのを見届けると部屋をあとにし、1階の薬草の倉庫へと向かった。
 ジゼから治療に必要な薬の調合を教えてもらったが、複雑なものは まだ1人で作ったことはない。1時間ほどかかって何とか完成した飲み薬と塗り薬。それを持って至急ロティルの部屋へと戻った。
 

「薬です ⋯⋯飲めますか」
「⋯⋯ん」

 呼び掛けに半分しか覚醒しないままのロティル。その身体を抱き起こし、小さな瓶に入った液体の飲み薬を服用させ、吸い飲みを使い、水もひと口飲ませる。

「うん⋯⋯上手に飲めましたね」

 口唇についた雫を布で優しく拭いてやり、再びベッドに横たわらせた。
 ついさっきしたばかりの腕の包帯を取って、傷に塗り薬を塗布。粘度が高く、固めのハチミツのような薬を傷全体を覆うように広げ、ガーゼを乗せてから新しい包帯を何重にも巻いた。
 それから、上がり切った身体の熱を下げる為に、氷を皮袋に入れた簡易的な氷のうを作ると、首の下辺りに敷いてやり、脇にもそれを挟ませる。

 ひとまず、今やれるべきことを終え、ふぅ⋯⋯と一息つくカヤミ。
 その後、ベッドの近くで椅子に腰掛け、額に乗せるタオルを氷水で絞って定期的に交換しながら静かに見守る。本格的に眠り始めたロティルの息づかいは、未だ荒い。



 夕食が終わってからも、すぐロティルの側に戻ってカヤミが付き添いを続けていると、寝間着姿のポーラが様子を見に部屋へとやって来た。ハチミツ入りのホットミルクを差し入れに持参して。

「熱いから気をつけてね」
「ありがとう」
「どう? ロティルカレアは」
「眠りっぱなしだけど、呼吸は だいぶ穏やかになってきたし、熱も一番高かった時よりは下がってると思う」

 カヤミから疲労の色は見えないが、ずっと付き添って気を張っている。ポーラは、ロティルとカヤミの2人のことを心配していた。

「良くはなってきてるのね。あなたも頃合いを見て休まないと。代わろうか」
「いや、俺が⋯⋯ 大丈夫だから。先に寝てて」
「⋯⋯そう、じゃ、あんまり無理し過ぎないのよ⋯⋯おやすみ」

 ポーラが出て行ってから、カヤミは水色のマグカップに入ったミルクをひと口飲む。少しだけ強張っていた肩の力が抜け、目を閉じて深く呼吸をした。カップの中の白い水面がゆらゆらと揺れている。



 暗い部屋のチェストに置かれたランプの控えめな照明。ロティルの傍らで本を読みながらカヤミは時を過ごす。
 何度目か分からないが、濡れタオルを新たに額に乗せた直後、ロティルの左手がピクリと動くと、急にカヤミの手を強く握りしめてきた。

「!??」

 ロティルが起きたのかと思い かなり驚きはしたが、寝息をたてて眠り続ける姿を見て、カヤミは手を振り解いたりすることはせず、そのままの状態を維持する。

「手 あったかいな⋯⋯」


 ────ロティルの熱い手の温度が氷水で冷えたカヤミの手を溶かすように温めていく





 東の空の色が僅かに紫がかる夜明け前、ロティルの瞼がゆっくり開いた。熱っぽい感覚、身体のだるさ、腕の痛みも眠る前の記憶とは格段に違う。


⋯⋯楽になってる
どれくらい眠ってたんだ?


 額に乗っていた橙色のタオルがずり落ちて、半分視界を塞いでいた。それを取り去り、ふと左に視線をやると、そこには いつもの白い服を羽織ったカヤミが椅子に座ったまま、目を閉じている。


寝てる⋯⋯のか


 それから⋯⋯手袋をしているカヤミの右手、その手の甲の上から覆うようにして握っている自分の左手の存在に、今ようやく気がついた。


え  俺 なんで手ぇ握ちゃってんの
これ 見た感じ 俺から⋯⋯の状況だよな?
⋯⋯ずっと こうして??


 寝起きということを加味しても、自分のしたであろう行動になかなか理解が追いつかない。混乱しているせいなのか、何故か そのまま離さず、手の先にいる長いまつ毛を伏せウトウトしている青髪の彼の寝顔を眺め続けてしまう。


側に いてくれたんだ


 様々な思いが込み上げてきて、思わず繋いでいたその手を、無意識に、ほんの少しだけ キュッ⋯⋯と握り直す。すると、それに反応したカヤミが顔を上げ、目を覚ました。ロティルは奇妙な叫び声を上げる。

「う ぁ!!」
「あ⋯⋯  どうですか? 具合」
「えっ と⋯⋯ 昨日より全然良いと思うんだ けど
その、 ごごご ゴメン!! 手っ を 俺がっ⋯⋯!」
「?? 手⋯⋯ あぁ」

 かなり動揺しながら、慌ててその手をパッと離す。一方のカヤミは冷静に対応してロティルの体調を気にかける余裕がある。

「い 痛くなかった? いつからそうしてたのか全然覚えてないんだけど⋯⋯もしかして、そのせいで椅子から動けなかった とか?」

 読みかけの本がベッドの端に置いてあり、片手を繋がれていては読みづらかったはず⋯⋯ロティルは羞恥心に耐えられず、口元を大きな手で覆って隠すと、カヤミから視線をそらして反対を向いてしまった。


「うぅ⋯⋯めちゃくちゃ恥ずかしい⋯⋯ホントごめん」
「手ぐらい⋯⋯そんなに気にしなくても。
手を握るとか、そういうのが安心することもあるんだろうから」
「⋯⋯ん⋯⋯」
「動いて起こしたくはなかったし⋯⋯元から側に付いているつもりだったから、何も問題ないですよ。その様子だと熱も下がりましたか⋯⋯?」


 カヤミがロティルの首元へ手を伸ばした。掌をあてがわれ、体温の確認をされる。距離が不意に近くなり、されたその行為に心臓がドクンと鼓動を強く打つ。身体に触れるその手の温度で、なにかが頭の中に蘇る。


あ  昨日もこうされた記憶が


「ねぇ⋯⋯ずっと ここにいたの?」
「ええ、念の為」
「責任⋯⋯感じてるから?」
「⋯⋯まぁ⋯⋯それは当然なんで」

 ロティルから問われてカヤミは、下を向いて少し苦い表情になる。

「そんなの大丈夫なのに って⋯⋯また言っても あれか⋯⋯カヤミは医者で、俺は患者だし」
「⋯⋯」
「カヤミ、  その⋯⋯色々 ありがとう」
「いえ⋯⋯回復されて良かったです」

 カヤミの固い表情がフッと和らぎ、緊張が解けて安堵したようにロティルには見えた。

「心配かけて悪かった。疲れてるだろ? まだ明け方だし、少しでも寝たほうがいいよ。とりあえず安心していいから⋯⋯」
「じゃあ⋯⋯そうします。もし何かあったらすぐ来ますから⋯⋯ お大事に」
「⋯⋯おやすみ⋯⋯」


笑顔は相変わらず 見せなかったけど
態度が冷たいなんて 全然なかった
そんなの忘れてたくらい ⋯⋯優しくて
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