異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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⑦胸の奥の小さな痛み

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 ロティルの体調は、カヤミの調合した薬によって 一晩で見事に快復。解熱はしたが傷は完治した訳ではない。しかし、高い治癒効果のおかげで通常の薬草のみで良い状態にまでなっていた。
 付き添ってくれていたカヤミが自室に戻ったあと、ロティルは再度眠りにつき翌朝 爽快な気分で起床する。


久しぶりに よく眠れた
色んな意味でカヤミのおかげなのかもな
あまり いいきっかけとは言えないけど
普通に話せるようになって  よかった⋯⋯



「おはよう」
「あら 起きてきた! もう良くなったの!?」
 
 朝の挨拶をしにロティルがダイニングに現れると、ポーラは感嘆の声を上げ、その回復力に驚いていた。

「うん⋯⋯さっきジゼも確認に来てさ、平気そうだって」
「よかったわね~ カヤミが頑張ってたものね」

 そんな風に言われ、本当にそうだ とロティルは改めて噛み締める。
 顔を思い浮かべる度に ツキン と針で刺されるような軽い痛みが胸の奥で起こり、それから溜め息をひとつ⋯⋯までがセット。頻度は日に日に増えていっている。

「もしかして、今日カヤミも一緒に診察に出てんの?」
「休んでも⋯⋯って、主人も言ってたんだけどね。大丈夫の一点張りで」
「夜中も俺の付き添いして、多分ほとんど寝てないはずなのに⋯⋯」

 カヤミに巻いてもらった包帯に視線を落とすと、昨日や明け方を思い出しながら、撫でるように さすった。


自分のせいでって思いが大きいんだろうけど
だからって そんなに無理ばっかり


 カヤミへの心配が尽きない⋯⋯朝食を摂る手も度々止まってしまうくらいに。ロティルがそんな気持ちでいるなど露知らず、ポーラはお構い無しに話しかけてくる。

「そういえば、お夕飯はシチューでいいかしら」
「⋯⋯いいけど、なに急に。今までそんなの俺に聞いてこなかったでしょ」
「アサリと ほうれん草を使うのに何がいいかと思って。お腹壊して寝てたわけじゃないから、いいわよね、それで」

 ポーラの口から出た材料を聞いて、ピクッと反応し顔を上げた。

「ちょっと待って。それ⋯⋯何で、その2つを使おうと⋯⋯?」
「ほうれん草は元からあったけど、アサリは生モノだし今朝買ったばっかり。朝のパンを買いに行く前に頼まれたから」
「⋯⋯誰に?」
「カヤミよ」
「⋯⋯っ!」

 薄っすら期待していた名前がやはり出た。目を見開き、ぐっ⋯⋯と声を詰まらせる。

「あなたがね、この間 診察した時に軽く貧血っぽい症状も出てるし、剣を使う人だから怪我も多そうって。
それで鉄分がどうとか⋯⋯? あとは今回倒れたから栄養価が高い物、消化も云々言ってたような⋯⋯
あたしは小難しい話はさっぱりだけど、ロティルカレアの為に⋯⋯ってことなんでしょ」
「⋯⋯⋯⋯そう なんだ」


『ほうれん草、アサリとか もっと摂ると良いと思います』

前に診察室で言ってたこと 覚えてたのか
俺のこと 考えてくれて
冷たいなんて⋯⋯勝手に思い込んでた自分が
本当にバカみたいだ

カヤミは⋯⋯やっぱり優しい



 昼食後、いつも治療院に納品している薬草を倉庫にしまいに行ったロティル。倉庫内に入ると乾燥した薬草や果実等の独特の匂いが薫り、奥の窓からは陽の光が薄く差し込んでいる。

「⋯⋯っっ!!」

 その前にある長机に畳んだ白衣と眼鏡が置いてあり、すぐ側の椅子に座って突っ伏しているカヤミの後ろ姿を発見して、ロティルは無言で驚いた。


びっくりした⋯⋯! 危ない 声が出そうになった
昼ご飯いらないって言ってたらしいけどここに居たのか  
⋯⋯眠ってる
そりゃ⋯⋯俺の看病で疲れてるに決まってるよな⋯⋯
薬草は置くだけ置いて またあとで仕分けしに来よう


 そう思ったのも束の間、近くに立てかけてあったホウキに足がぶつかり、かなり豪快な音で床に倒してしまった。起こさないように⋯⋯と後退った動きが見事に裏目に出た結果だ。
 ロティルは青ざめながら口を開き、心の中で「あーっ!!」と叫ぶ。ホウキの倒れた音に肩をビクッとさせたカヤミは当然、目を覚ましてしまった。

「な に⋯⋯?」
「起こしちゃった⋯⋯ ごめん」
「  ⋯⋯あ 診察時間!」

 寝起きのカヤミはロティルが視界に入ったあと、午後の診察の時間が迫っていることに気がつき、慌てて椅子から立ち上がろうとする。しかし、ロティルが「大丈夫」と伝えた。

「午後の診察はジゼだけで何とかなるから。許可はもらってる。だから休んでて平気だよ」
「許可⋯⋯って⋯⋯?」
「俺が頼んだ。カヤミは ほとんど寝てないから休ませてほしいって」
「勝手に、そんなこと⋯⋯」

 カヤミは、立ち上がろうとした動作を止めると、納得がいかないような表情で息を吐いた。怪訝な顔をされロティルは少々困ってしまったが、その場を立ち去る選択肢は自身の中には無い。隣りの椅子に腰を下ろして話しかけ続ける。

「俺に付き添ってたせいだから無理してほしくない」
「⋯⋯」
「カヤミだって『自分のせいで』って昨日俺に言ってたでしょ? 同じだよ。まぁ⋯⋯それを互いに言い合ってたらキリがないけどね」
「⋯⋯同じ かは、分からないです」

 ロティルの言葉に同意も否定もせず、カヤミは そっぽ向いたまま腕を組む格好をしている。

「そっか⋯⋯ ごめん、 余計なことだったか」
「別に責めてるつもりは⋯⋯
さっきから、俺に謝ってばかりですよね。今日の明け方もそうだし」
「!!」

 謝罪の多さを突かれ、更に恥ずかしかった夜明けの出来事まで話題に挙げられた。
 カヤミの手を握って寝ていた記憶が鮮明に蘇ってくる。顔が一気に熱くなり全身に広がって、ロティルは耐え切れず両手で顔を隠した。カヤミがチラリとその様子を伺う。

「寝てる間のことはいえ、やっぱり恥ずかし過ぎる」
「言いましたけど⋯⋯気にしてませんよ?」
「ぐ⋯⋯  そ、それも含めて! 改めて、お礼とお詫びを言おうと思ってたんだから⋯⋯っ
ちょっと落ち着かせてほしい⋯⋯!」

 カヤミのフォローのようなセリフが余計に追い打ちになり、熱さの増加に加速をかける。真っ赤になったロティルは復活までに それなりの時間を要した。


「昨日から今朝にかけて⋯⋯看病してくれて本当に感謝してる」
「別に⋯⋯看病っていうか、治療⋯⋯なので」
「えーと⋯⋯あとポーラにさ、アサリとほうれん草あったら使って欲しいって頼んだの、聞いたんだけど」
「!  ⋯⋯あぁ」
「俺の体調考えてくれてたんだなって⋯⋯嬉しかった。ありがとう」
「⋯⋯いえ」

 大した反応を見せないカヤミだったが⋯⋯素直に喜びの気持ちを込めた感謝を述べ、真っ直ぐ見つめてくるロティルの視線。それを直視することが出来ず、以前の診察室の時と同様に下を向いてしまった。
 胸の前で組んでいた腕はいつの間にか解かれ、服の袖をギュッと掴んでいる。
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