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⑧白衣と眼鏡の理由
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カヤミがあまり目を合わせてくれないことに鬱陶しがられてるのかな⋯⋯という朧げな不安もあったが、せっかくの機会なのでロティルは積極的に話しかけ続ける。
「あのさ 質問なんだけど、診察の時だけ眼鏡かけてるのは何か理由があるの? その白い服も。こっちじゃ見かけない物だから」
「⋯⋯⋯⋯」
ロティルが置かれていた眼鏡と白衣を指差した。そう問いかけられたカヤミは、しばらく間を置いてからポツリポツリと語り出す。
「⋯⋯この白い服は、白衣といって清潔感を出すのに医師や研究者とか、衛生面が関係する仕事でよく用いられてます。俺も職場の病院で使うのに荷物に何着か入っていたから、こっちでも着ようかと思って」
「へぇ、そうなんだ。初めて会った時からその服の印象だからなぁ。カヤミは似合うよね。ジゼにはどうだろ。何処かで同じヤツ仕立ててもらえば⋯⋯」
何気なしにカヤミを褒めながら、ロティルは無邪気に話を聞いている。
「⋯⋯あと 眼鏡は するように と⋯⋯人から言われて」
「? 目が悪いから、じゃなくて⋯⋯?」
言葉を溜めてからの⋯⋯白衣についての説明と若干毛色が違った答えにロティルは反射的に聞き返した。カヤミは白衣の上に乗せておいた金縁の眼鏡を手に取り、スッと差し出す。
「掛けてみていいですよ」
「えっ 試していいの? 俺、眼鏡掛けるの初めて⋯⋯見え方が結構変わったりする?」
受け取り、恐る恐る掛けてみると視界はボヤけたり、クッキリしたりもせず、特に何も変わらない。
「これ、レンズじゃなくてただのガラスなんで」
「ホントだ⋯⋯何で?」
視線を落とし、両手を組んだり爪を気にしながらカヤミは、少し溜め息混じりに声を発する。
「俺が⋯⋯医者として頼りない感じがして、患者の不安を煽るから⋯⋯嘘でも、それっぽく見えるように、掛けておけって」
「⋯⋯そんなの誰が⋯⋯ あ、 話せたらでいい から」
素直に聞き返してばかりいたが、あまり聞いていい話ではない予感がして、ロティルはそれとなく制した。
「⋯⋯ 父親、です」
「!」
「そういう家系なんで。せっかく代々医者にさせて、みっともないことで自分の評価を下げたくない⋯⋯まぁ、そんな理由だと思いますけど。あの人は」
カヤミは次々言葉を綴っていくが、逆にロティルは思ってもみなかった答えに言葉が出なくなってしまう。
「だから仕事の時だけ眼鏡するようになったんですよ」
「聞かない方が⋯⋯よかったことだった?」
「もう会うこともないから⋯⋯別に関係ない。
今は眼鏡する必要もないのに、習慣というか⋯⋯呪縛みたいなものですかね⋯⋯」
2人が黙り込む。外から聞こえてくる鳥のさえずり。その暫しの静寂のあと、カヤミが白衣を手に取った。そろそろ この場を去ろうとしている⋯⋯眼鏡を返してほしいと言われると察したロティル。
何故か引き止めたくて咄嗟にカヤミの肩に触れた。そして、もうひとつ疑問に思ってたことを伝える。
「待って⋯⋯! 眼鏡してる時は笑うの⋯⋯それも仕事用の顔なの?」
「⋯⋯⋯⋯ は⋯⋯!?」
「い や、眼鏡してない時の本当の笑ってる顔⋯⋯
俺は、まだ見たことないから⋯⋯」
「───っ⋯⋯!」
一瞬、語気が強まったカヤミだったが、そのあとの言葉に目を見開き、顔を紅潮させた。口元を手で抑え視線が泳ぐ。明らかに動揺がしている。
普段はどちらかと言うと冷静で感情を表に出さない、そんな顔がガラリと変わったのを見て、ロティルは驚いたが少し微笑ましく思った。
こんな顔も するんだな
「気に障ったなら謝る。もしかして、そんなに意識してなかった? 診察してる時は、よく笑ってるのに」
「⋯⋯っ 作って笑うのが、クセになってるのかも⋯⋯ていうか、なんで⋯⋯そんなとこ見てるんですか⋯⋯っ」
カヤミは、かなり恥ずかしそうにしながらも、きちんと答えて教えてくれる。
「最初に傷を診てもらった時と、そのあと話した時で態度がだいぶ違うように見えて。俺が会う人の中にも接客の時だけ変わる人っているから、そうなのかな とも考えたけど⋯⋯
もしかしたら俺が嫌な気分にさせたんじゃないかって⋯⋯ちょっと悩んだ」
出会って割とすぐ、カヤミの態度が変わったように見え、悶々としていたロティル。本当はちょっとではなく、相当落ち込んでいた。
「そんなことで⋯⋯? 自分では、そこまで差があったのも わかってなかった。そんな風に思わせてたなんて⋯⋯なんか申し訳ないです⋯⋯」
「お、俺が勝手に思い込んでただけで! カヤミは優しいって、充分わかったし!」
「やめて下さい⋯⋯恥ずかしげも無く、そういうこと言うの。俺は優しくなんか⋯⋯作った笑顔で嘘ついてるんだし⋯⋯」
まだ肩に触れたままの状態は継続中。自分自身を卑下するカヤミへ対し、ロティルは憂いを帯びた眼差しを向ける。
「仕事中だけとはいえ、笑顔を作るのは患者の為でしょ⋯⋯不安にさせないようにって表れでさ。
優し過ぎて、少し心配なくらい⋯⋯」
「!」
「普段も、自然と笑ってくれるようになったらいいなと思う。けど、あんまり無理ばっかりしないでね」
「⋯⋯ん」
カヤミの小さな返事が聞こえた。潤んだ瞳で戸惑ったような複雑な そんな心情の顔をしていた。
飾らない本当の姿が垣間見えたようで、なんだか可愛らしく、脳裏に焼き付けておきたくなる⋯⋯ロティルに芽生えていた淡い気持ちが色濃くなっていく。
「カヤミ、あの さ⋯⋯ 敬語、ナシとかにしない?」
「敬語⋯⋯?」
「年もそんなに変わらないし⋯⋯もっと⋯⋯その」
口ごもり上手く説明が出来ないロティルを、首を傾げながら少し不思議そうに見つめるカヤミ。
「⋯⋯⋯⋯考えておきます。無理しないんで」
「⋯⋯そうだよね⋯⋯よろしくお願いします」
「あと、眼鏡返して下さい」
「あ、はい」
「あのさ 質問なんだけど、診察の時だけ眼鏡かけてるのは何か理由があるの? その白い服も。こっちじゃ見かけない物だから」
「⋯⋯⋯⋯」
ロティルが置かれていた眼鏡と白衣を指差した。そう問いかけられたカヤミは、しばらく間を置いてからポツリポツリと語り出す。
「⋯⋯この白い服は、白衣といって清潔感を出すのに医師や研究者とか、衛生面が関係する仕事でよく用いられてます。俺も職場の病院で使うのに荷物に何着か入っていたから、こっちでも着ようかと思って」
「へぇ、そうなんだ。初めて会った時からその服の印象だからなぁ。カヤミは似合うよね。ジゼにはどうだろ。何処かで同じヤツ仕立ててもらえば⋯⋯」
何気なしにカヤミを褒めながら、ロティルは無邪気に話を聞いている。
「⋯⋯あと 眼鏡は するように と⋯⋯人から言われて」
「? 目が悪いから、じゃなくて⋯⋯?」
言葉を溜めてからの⋯⋯白衣についての説明と若干毛色が違った答えにロティルは反射的に聞き返した。カヤミは白衣の上に乗せておいた金縁の眼鏡を手に取り、スッと差し出す。
「掛けてみていいですよ」
「えっ 試していいの? 俺、眼鏡掛けるの初めて⋯⋯見え方が結構変わったりする?」
受け取り、恐る恐る掛けてみると視界はボヤけたり、クッキリしたりもせず、特に何も変わらない。
「これ、レンズじゃなくてただのガラスなんで」
「ホントだ⋯⋯何で?」
視線を落とし、両手を組んだり爪を気にしながらカヤミは、少し溜め息混じりに声を発する。
「俺が⋯⋯医者として頼りない感じがして、患者の不安を煽るから⋯⋯嘘でも、それっぽく見えるように、掛けておけって」
「⋯⋯そんなの誰が⋯⋯ あ、 話せたらでいい から」
素直に聞き返してばかりいたが、あまり聞いていい話ではない予感がして、ロティルはそれとなく制した。
「⋯⋯ 父親、です」
「!」
「そういう家系なんで。せっかく代々医者にさせて、みっともないことで自分の評価を下げたくない⋯⋯まぁ、そんな理由だと思いますけど。あの人は」
カヤミは次々言葉を綴っていくが、逆にロティルは思ってもみなかった答えに言葉が出なくなってしまう。
「だから仕事の時だけ眼鏡するようになったんですよ」
「聞かない方が⋯⋯よかったことだった?」
「もう会うこともないから⋯⋯別に関係ない。
今は眼鏡する必要もないのに、習慣というか⋯⋯呪縛みたいなものですかね⋯⋯」
2人が黙り込む。外から聞こえてくる鳥のさえずり。その暫しの静寂のあと、カヤミが白衣を手に取った。そろそろ この場を去ろうとしている⋯⋯眼鏡を返してほしいと言われると察したロティル。
何故か引き止めたくて咄嗟にカヤミの肩に触れた。そして、もうひとつ疑問に思ってたことを伝える。
「待って⋯⋯! 眼鏡してる時は笑うの⋯⋯それも仕事用の顔なの?」
「⋯⋯⋯⋯ は⋯⋯!?」
「い や、眼鏡してない時の本当の笑ってる顔⋯⋯
俺は、まだ見たことないから⋯⋯」
「───っ⋯⋯!」
一瞬、語気が強まったカヤミだったが、そのあとの言葉に目を見開き、顔を紅潮させた。口元を手で抑え視線が泳ぐ。明らかに動揺がしている。
普段はどちらかと言うと冷静で感情を表に出さない、そんな顔がガラリと変わったのを見て、ロティルは驚いたが少し微笑ましく思った。
こんな顔も するんだな
「気に障ったなら謝る。もしかして、そんなに意識してなかった? 診察してる時は、よく笑ってるのに」
「⋯⋯っ 作って笑うのが、クセになってるのかも⋯⋯ていうか、なんで⋯⋯そんなとこ見てるんですか⋯⋯っ」
カヤミは、かなり恥ずかしそうにしながらも、きちんと答えて教えてくれる。
「最初に傷を診てもらった時と、そのあと話した時で態度がだいぶ違うように見えて。俺が会う人の中にも接客の時だけ変わる人っているから、そうなのかな とも考えたけど⋯⋯
もしかしたら俺が嫌な気分にさせたんじゃないかって⋯⋯ちょっと悩んだ」
出会って割とすぐ、カヤミの態度が変わったように見え、悶々としていたロティル。本当はちょっとではなく、相当落ち込んでいた。
「そんなことで⋯⋯? 自分では、そこまで差があったのも わかってなかった。そんな風に思わせてたなんて⋯⋯なんか申し訳ないです⋯⋯」
「お、俺が勝手に思い込んでただけで! カヤミは優しいって、充分わかったし!」
「やめて下さい⋯⋯恥ずかしげも無く、そういうこと言うの。俺は優しくなんか⋯⋯作った笑顔で嘘ついてるんだし⋯⋯」
まだ肩に触れたままの状態は継続中。自分自身を卑下するカヤミへ対し、ロティルは憂いを帯びた眼差しを向ける。
「仕事中だけとはいえ、笑顔を作るのは患者の為でしょ⋯⋯不安にさせないようにって表れでさ。
優し過ぎて、少し心配なくらい⋯⋯」
「!」
「普段も、自然と笑ってくれるようになったらいいなと思う。けど、あんまり無理ばっかりしないでね」
「⋯⋯ん」
カヤミの小さな返事が聞こえた。潤んだ瞳で戸惑ったような複雑な そんな心情の顔をしていた。
飾らない本当の姿が垣間見えたようで、なんだか可愛らしく、脳裏に焼き付けておきたくなる⋯⋯ロティルに芽生えていた淡い気持ちが色濃くなっていく。
「カヤミ、あの さ⋯⋯ 敬語、ナシとかにしない?」
「敬語⋯⋯?」
「年もそんなに変わらないし⋯⋯もっと⋯⋯その」
口ごもり上手く説明が出来ないロティルを、首を傾げながら少し不思議そうに見つめるカヤミ。
「⋯⋯⋯⋯考えておきます。無理しないんで」
「⋯⋯そうだよね⋯⋯よろしくお願いします」
「あと、眼鏡返して下さい」
「あ、はい」
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