異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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⑨せっかく2人だったのに

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 騎士として遠方の城で勤めていた頃、近隣の見回りをするのも業務の一貫だった。魔獣のような人間に危害を加えるモノの討伐、危険な毒草の駆除など。
 ロティルは、城の騎士を辞めてすぐに旅を始めた。傭兵募集への参加や探索をして得た物の売買、主に生活の為に旅をしているが、それに加え、かつてしていた見回りのような事も勝手に行っている。土地が離れているので城の連中からは特に何も言われてはいないが⋯⋯

 部屋で荷物の整頓をしながら ロティルは、ふと自身の仕事について思考を巡らす。


栽培や畑仕事は向いてないしな~
長期間留守にするのも出来なくなるし⋯⋯
探索して採取する方がやっぱり好きだ

今は薬草の納品の仕事が安定してるし珍しい物は高値が付く
まぁ ここの治療院を最優先にはしてるから
儲けはそこまで大きくはないけど


 ジゼ達は善意で泊めてくれているので、金銭は受け取ってもらったことがない。その代わりに、この辺りでは手に入りづらい薬草等の治療院で使用する物を定期的に格安で納めている。


 ロティルが回復した次の日の夜。今回持ってきた薬草をテーブルに広げ、ポーラに見せながら話をしていた。

「ラグドの葉と、あとパキラの実⋯⋯いつものは充分に量がある。果実系は実りの時期にもよるから滅多に採れないのもあってさ、条件が揃わないと」
「いつもありがとね。近々出発するの?」
「明日には出ようかな~って」
「もっと休めばいいのに。流石に今回は倒れたりしてるのだから⋯⋯」

 いつも柔和な顔が眉間にシワを寄せ、心配そうに見つめる。ポーラからの言葉にロティルは少しだけ浮かない表情をして、薬草の入った容器を爪で引っ掻いたり、なぞったりを繰り返す。

「うん⋯⋯そうしたいけど。旅自体が俺の仕事みたいなものだし、行かないとさ。
身体もそろそろ動かさなきゃ鈍っちゃうから。慣らしも兼ねてだから無理しないでゆっくり行くよ。
長くても10日で戻るつもり」
「そうなの」
「この薬草しまいに倉庫行ってくる。他の在庫確認もしないとか⋯⋯この前やろうとしたんだけど ね」

 青色の髪と眼鏡が頭の中を過る⋯⋯

「主人とカヤミの2人が居るはずだから、そのまま渡せば しまっておいてくれるんじゃない」
「ん、わかった」



 昨日の晩、倉庫で長く話をしたあと、先に出て行ったカヤミがまたすぐに戻ってきた。

『倒れた時、肘付いたって言ってましたよね。湿布持ってきたんで、見せて下さい』
『よく覚えてるね⋯⋯俺だって忘れてたのに。右の肘の⋯⋯こっちの傷がない方』

 カヤミは、ひと言断りを入れると、座っているロティルの右の腕の袖を捲って確認をする。触れられると相変わらず襲ってくる軽い高揚感。


なんか好きなんだよな この時間
怪我してるっていうのに
診てもらってること というより カヤミの手が⋯⋯


 一目で分かるくらいに内出血をしていて青紫色の大きなアザになっていた。左腕には、つい この間の包帯が腕の大半を占めている。

『青くなってる。右も左も怪我ばっかり⋯⋯』
『心配⋯⋯してくれてるの?』

 ぼやく様に呟いたカヤミにロティルからの問いかけ。 湿布を貼ろうとした手に数秒だけ止まった反応が見られた。

『それは⋯⋯しますよ。そういう仕事してるので』
『まぁ⋯⋯そうだよ、ね』
『何かあったら診ますけど、気をつけて下さいね』
『う ん⋯⋯』

 素っ気ない言い草。しかし最後はこちらの目をちゃんと見て伝えてくれた。


薄っすら⋯⋯変化した気がするのは俺だけ?
初日に比べたら劇的に違う
怪我したとか 用事がなくたって
だた部屋で話したり出来たらいいのに⋯⋯


 淡い色の赤髪の頭を掻きながら、ぼんやり考えていると灯りがついている倉庫の前に既に到着していた。

「入るよー  あれ? ジゼは⋯⋯?」
「もう寝室に行きましたよ。用事⋯⋯ですか」
「いや ジゼにってわけじゃないけど⋯⋯」

 声を掛けながら中に入ると昨日と同じ場所にカヤミだけが座っている。机には開いたノートと青いペンが置いてあった。


また 2人だけ⋯⋯


 つい口元が緩みそうになり、何故か気持ちが浮つく自分を不思議に思う。

「ね 寝るの早いなぁ~ 
これ⋯⋯薬草持ってきたんだ。ラグドの葉とパキラの実。あと細かいのがいくつか」
「ありがとうございます」
「ノートに、何か書いてるの?」

 ロティルは小分けの袋や容器を出しながら、文字がびっしりと書かれたノートが気になり、カヤミに訊ねる。

「薬草の勉強で使ってるんです。素材と効能の事をジゼから教えてもらって書き留めてます。今まで覚えて来た薬の知識はこっちじゃ何も使えないんで。
かなりゆっくりやってたから殆ど進んでないけど、この間みたいな事は、もう ないようにしたい」

 瞳に陰りは見えない。後悔ではなく経験として、もうしっかりと前を向いている様子だった。

「ジゼだって何十年もやってるから知ってるんだろうし、今もたまに薬草間違えてるよ」
「俺は前いた所でも、ここでも実務経験が少な過ぎるから、せめて知識は早く頭に叩き込みたいです」

 知識が欲しいと凛とした表情で言い、懸命に努力しているカヤミ。そんな姿にロティルは眩く美しいとすら感じる。


凄いよな 知らない世界で
生きる事さえ大変なのに
死んでも仕方ない なんて気持ちは きっと もうない
⋯⋯良かった


「⋯⋯ すごく細かく書き込んであるね。
今持ってきたこの2つは基本どっちも炎症とか痛みに効くけど、ラグドの葉はさ、実の方が効果が高いらしいよ。解毒薬と成分が近いみたいで殺菌力も強め。
ただ滅多に採取出来ないから貴重なんだ。だいぶ前に採った以来⋯⋯あれ? いつだったっけな」

 ノートを見ながら、淀みなく薬草の説明をするロティルにカヤミは目を見張り、視線をやった。

「この前、その左腕の傷の痛み止めとして葉は使いましたけど、それがあればもっと良かったかも⋯⋯
随分、詳しいんですね⋯⋯」
「ここにもだけど、こうやって色んな所に薬草の納品いつもしてるから。採取して調べたり、買い付けで説明聞いたりして覚えたんだ。
受け売りがほとんどだけどね。自分で使う為もあるし。それに俺が間違った物を渡したら信用問題に関わる⋯⋯要は俺の生活もかかってるからさ」
「⋯⋯⋯⋯」

 ロティルは冗談ぽく笑ったあとに、カヤミから送られる何か含んだような眼差しに気がつく。じっと見られていたことに、微かに顔が熱を持つ。

「な に⋯⋯?」
「⋯⋯いえ、何でも ないです。
薬草、俺がしまっておくんで もう行って大丈夫ですよ」
「あ  うん⋯⋯」

 スッと視線を外したカヤミは立ち上がると、受け取った袋などを持って棚の方に移動した。行っていいと言われたら長居も出来ない。昨日のように強引に話を引っ張るのも無理があるので、そこは素直に従った。

「じゃあ、よろしく頼むね」
「はい」
「おやすみ⋯⋯」
「⋯⋯おやすみなさい」

 前日と違って、あっという間に終わってしまったカヤミとの時間。倉庫の灯りに後ろ髪を引かれ⋯⋯そんな思いに駆られる。


せっかく2人だったのに

ん?  せっかく・・・・って何!?
いや、そりゃ⋯⋯残念とは思ってる  けど?
2人だからって⋯⋯
⋯⋯何だ  なんか変だな


 自問自答するが、明確な答えにはたどり着かない。

「⋯⋯もう少し、話したかったなぁ⋯⋯カヤミと」

 階段を登り、部屋に入る直前に呟いたありのままの気持ちの言葉。今はそれだけは理解できている。
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