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<プロローグ>
しおりを挟む「レヴィ、婚約者様は明日には王都に到着するそうだ」
乳兄弟であり側近のマークが執務室に入るなり告げた。
「思ったより早かったね」
大貴族の移動は大がかりだ。魔法で転移してしまえばいいものを、婚姻のような儀式に関してはしきたりや伝統を重んじて、それらは使わずに移動するという昔からのしきたりがある。
レヴィの言葉にマークが頷く。その顔は何か言いたげに見える。
「なに」
言いたいことがあるなら言えと告げると、マークは躊躇いがちに口を開いた。
「おまえの気持ちはわかる。だがあの家の魔力を借りなければ、この先おまえ自身がどうなるかわからない。だから――」
言いたいことはわかっている。結婚が決まってから耳にタコができるほど聞かされてきたことだ。右手を挙げて制するとマークは口を噤んだ。
「大丈夫だって。心配するな、上手くやるよ。たとえ気持ちはなくても大切にはするさ。彼には協力してもらわないと困る」
マークが呻くように相槌を打つ。
「民たちが安心して幸せに暮らせるような国を作る。あの方に託された使命を果たすまでは死ねないし、そのためなら何だってするよ」
婚約者には悪いが、目的のために死ぬまで利用させてもらうつもりだ。
愛を与えることはできないが、これまでと変わらない不自由のない豪華な暮らしを提供することならいくらでもできる。そもそもが愛のない政略結婚だ。向こうも気持ちなど求めてもないだろう。
次男である自分は子どもを残す必要もないと思っている。だから妻になるオメガにヒートがきても相手をするつもりはない。
代わりになるアルファならいくらでもいるし、避妊さえしっかりしてくれれば好きにやってくれればいい。結婚はしても番になる気はさらさらないのだから。
(それにもし気持ちを向けられても、僕が応えることは絶対にない)
心の中で呟きながら、ネックレスの鎖に通した古びた指輪にキスを落とす。あの日、命をかけて自分を護ってくれたあの人が最後にくれたもの。
(アラン様が亡くなられて、もう20年以上も経つのか……)
時間というものは、信じられないほどあっという間にすぎていく。目を閉じれば王子と過ごした日々が昨日のことのように思い出されるというのに。
幸せな記憶に浸っていると、マークがため息を吐くのが聞こえた。いつまでも過去に囚われている自分を案じているのだろう。
けれど、どれだけ時間が経っても想いは褪せることがない。
「僕がこの生涯で愛するのはアラン・ベリンガム様をおいて他にないんだ」
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