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第一章 無能令息と最強王子
<1>隣国のオメガに生まれ変わりました
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「プリシラ、危ないっ!!」
声と同時に体が勝手に動いていた。落下する妹を抱え込むことができてホッとした次の瞬間には、冷たく硬い大理石の床に背中と後頭部を強く打ちつけていた。
「……かはっ」
呼吸が上手くできないし体を動かすことができない。腹の上に乗った幼い妹が心配そうに顔を覗き込んでいるのがわかった。
「エリスおにいさま、だいじょうぶ? あかいのいっぱいだよ。いたい?」
みるみるうちに蜂蜜色の瞳に涙が溢れそうになっていく。大丈夫だよと言ってあげたいのに声が出ない。しだいに妹の顔がぼやけていく。
(もう、死ぬのかもしれない)
そんな思いがぼんやりする頭の中に浮かんだ。でもそれでいい。無能な自分が愛する妹の役に立って死ぬのなら、こんなに嬉しいことはない。
(プリシラ、どうか幸せに――)
それを最後に意識を失った。
瞼の裏側に光を感じて目を覚ました。見慣れない天井が見える。というかこんなボロい天井は戦場以外で見たことがない。
「どこだ、ここは」
起き上がると後頭部に激痛が走った。
「っ! 痛ってえ……」
どうやらケガをしているらしい。頭に手をやると包帯が巻かれているのがわかる。
「にしても、ここどこだよ?」
使用人の部屋かと思うほど狭く簡素な室内には使い古された机と椅子があるだけで、他に家具らしいものは見当たらない。
まさか、敵に捕らえられでもしたのだろうか。
(いや、ありえねえ。俺に限ってそんなこと)
そっと起き上がって部屋を出てみる。するとこちらに向って歩いてきた同じくらいの年の男が茶色の髪を揺らしながら走り寄ってきた。
「エリス様! 良かった!! お目覚めになられたのですね」
緑色の目には涙が溢れそうになっている。
「プリシラ様が助かったのは良かったですが、1歩間違えば死んでいたかもしれないんですよ! そうなったらおれ、おれ……」
「お、おい! 泣くなよ。ほら、こっち来い」
俺は今出たばかりの粗末な部屋の中へ彼を引っ張っていく。いい年をした男があられもなく涙する姿なんて誰にも見られたくないだろう。
部屋の中からよれよれの、だが清潔なハンカチを見つけ出して涙を拭いてやる。
「男が簡単に涙をみせるもんじゃない。周りが心配するだろう」
だが男は礼も言わずに呆けたような表情で俺のことを凝視している。
「エ、エリス様……? どうなさったのです? もしかして打ちどころが悪かったのでは!?」
「失礼な奴だな、俺は正気だ。それにエリスって誰――」
そこまで口にして、言葉が止まる。
壁際に置いてある古ぼけた鏡には、ピンクベージュの髪に蜂蜜色の大きな目の男が映っている。髪の色も目の色も、顔立ちもすべて俺の知る自分ではない。それなのに、この男は俺だと、心の奥で知っている。
(いやでも俺は――俺の名前は――)
次の瞬間、頭が割れるように痛み出して俺はその場に蹲った。
「エリス様!? 大丈夫ですか!?」
男が慌てた声で騒ぎ立てる。
「うる、せ……しずかに……しろ……っ」
直後、脳内に誰かの記憶が濁流のように流れ込んできた。
(そうだ、これは――今世の俺の記憶だ)
痛みが治まるとともに、頭の中の記憶も整理されてクリアになっていく。
「そうか……俺は生まれ変わったのか……」
声と同時に体が勝手に動いていた。落下する妹を抱え込むことができてホッとした次の瞬間には、冷たく硬い大理石の床に背中と後頭部を強く打ちつけていた。
「……かはっ」
呼吸が上手くできないし体を動かすことができない。腹の上に乗った幼い妹が心配そうに顔を覗き込んでいるのがわかった。
「エリスおにいさま、だいじょうぶ? あかいのいっぱいだよ。いたい?」
みるみるうちに蜂蜜色の瞳に涙が溢れそうになっていく。大丈夫だよと言ってあげたいのに声が出ない。しだいに妹の顔がぼやけていく。
(もう、死ぬのかもしれない)
そんな思いがぼんやりする頭の中に浮かんだ。でもそれでいい。無能な自分が愛する妹の役に立って死ぬのなら、こんなに嬉しいことはない。
(プリシラ、どうか幸せに――)
それを最後に意識を失った。
瞼の裏側に光を感じて目を覚ました。見慣れない天井が見える。というかこんなボロい天井は戦場以外で見たことがない。
「どこだ、ここは」
起き上がると後頭部に激痛が走った。
「っ! 痛ってえ……」
どうやらケガをしているらしい。頭に手をやると包帯が巻かれているのがわかる。
「にしても、ここどこだよ?」
使用人の部屋かと思うほど狭く簡素な室内には使い古された机と椅子があるだけで、他に家具らしいものは見当たらない。
まさか、敵に捕らえられでもしたのだろうか。
(いや、ありえねえ。俺に限ってそんなこと)
そっと起き上がって部屋を出てみる。するとこちらに向って歩いてきた同じくらいの年の男が茶色の髪を揺らしながら走り寄ってきた。
「エリス様! 良かった!! お目覚めになられたのですね」
緑色の目には涙が溢れそうになっている。
「プリシラ様が助かったのは良かったですが、1歩間違えば死んでいたかもしれないんですよ! そうなったらおれ、おれ……」
「お、おい! 泣くなよ。ほら、こっち来い」
俺は今出たばかりの粗末な部屋の中へ彼を引っ張っていく。いい年をした男があられもなく涙する姿なんて誰にも見られたくないだろう。
部屋の中からよれよれの、だが清潔なハンカチを見つけ出して涙を拭いてやる。
「男が簡単に涙をみせるもんじゃない。周りが心配するだろう」
だが男は礼も言わずに呆けたような表情で俺のことを凝視している。
「エ、エリス様……? どうなさったのです? もしかして打ちどころが悪かったのでは!?」
「失礼な奴だな、俺は正気だ。それにエリスって誰――」
そこまで口にして、言葉が止まる。
壁際に置いてある古ぼけた鏡には、ピンクベージュの髪に蜂蜜色の大きな目の男が映っている。髪の色も目の色も、顔立ちもすべて俺の知る自分ではない。それなのに、この男は俺だと、心の奥で知っている。
(いやでも俺は――俺の名前は――)
次の瞬間、頭が割れるように痛み出して俺はその場に蹲った。
「エリス様!? 大丈夫ですか!?」
男が慌てた声で騒ぎ立てる。
「うる、せ……しずかに……しろ……っ」
直後、脳内に誰かの記憶が濁流のように流れ込んできた。
(そうだ、これは――今世の俺の記憶だ)
痛みが治まるとともに、頭の中の記憶も整理されてクリアになっていく。
「そうか……俺は生まれ変わったのか……」
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