魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

文字の大きさ
28 / 85
第三章 ベリンガム帝国の異変

<10>エリスの作戦1

しおりを挟む
レヴィの隣を歩きながら、城のあちこちに目をやる。あの頃と少しも変わらない絨毯の色や廊下に配置された置物、壁に掛けられた絵画の一つひとつ、すべてあの頃のままだ。

20年以上経っているはずなのに、まるで昨日までここで暮らしていたかのような錯覚に陥る。今の自分と過去の自分が混ざり合っていくような、不思議な気持ちになっていく。

「こちらで陛下と王妃様、王子様方がお待ちです」
従者の言葉にレヴィが軽く頷く。従者は大きな黒い扉をノックすると、両開きの扉が内側から開いた。

「中へ」
その声は紛れもなく、懐かしい父のものだ。もうすぐ家族に会えると思うと、緊張で胸が高鳴る。

「失礼します」
レヴィは入口で一礼をしてから部屋の中に足を踏み入れた。俺も慌てて真似をして後に続く。俺が部屋の中へ入ると、扉がそれを待っていたかのように静かに閉じた。

「よく来たな。ヴァンダービルト公爵……いや、堅苦しい呼び方はやめにしようか、レヴィ」
レヴィは仮面をとって再び礼をする。

「私の呼び名はどうぞお好きに」
「ではレヴィ。今回の制圧もご苦労だったな」
「あの位、問題には及びません。アラン様の愛したこの国のためなら私にできることはなんでもするつもりです」
「そうか、ありがとう……それで、お隣にいるのがラムズデール家のご子息かな?」
父の優しいエメラルドの瞳が俺に向けられる。

「はい陛下。私の妻のエリスです」
レヴィには一言も話すなと言われている。俺は黙って微笑むと、父に向って臣下の礼で挨拶をした。

「ようこそ、ベリンガムへ。レヴィはいい青年だ。仲良くしてやってくれ。私の家族も紹介しよう。隣が王妃のオリヴィア、側に控えているのが息子のジェームズとジュードだ」

母上は20年前と変わらず美しい。長い栗毛色の髪にアメジストの瞳はこの国の五大貴族の一つ、キーティング公爵家の特徴だ。

まだ幼かったジェームズとジュードも驚くほど立派になっている。だが年齢を重ねてもジェームズの父譲りの優しいエメラルドの瞳と、ジュードのいたずらっぽいサファイヤの瞳は変わっていない。

「他の王子様方は、どうなさったのですか?」
しまった、と思ったときにはもう遅かった。振り返ったレヴィの目には怒りが灯っている。
「きみには関係ないことだろう。黙りなさい」

「いいじゃないか。そんな言い方はよくないぞ、レヴィ。他の息子たちは……5人いたのだがね。皆、死んでしまったんだ」

「そんな……」
信じられない。優しかった兄たちの笑顔が脳裏に浮かぶ。今にもその扉を明けて、部屋の中に入って来そうなのに。

「最初に死んだのは5番目の王子だった。それから少し経って、立て続けに他の子どもたちも逝ってしまったんだ」
父は寂しそうに笑った。その様子に、レヴィが咎めるような視線を向けてくる。

(本当はもう少し様子を見てから動くつもりだったが、レヴィの様子じゃ今すぐにでも連れ去れちまうな……クソ、作戦変更だ。今しかない)

俺は目を閉じて大きく息を吸った。そもそも、もしここれ上手くいかなればどうにもできない。そうして頭の中にこの城にあるはずの自分の部屋を思い描く。

もし、まだ俺の部屋がそのまま残されているとしたら。きっとまだアレがあるはずだ。
部屋の中、執務机の斜め右に置いてあるはずの黒曜石とルビーで錬成された黒と赤の愛剣、フェンリルを頭に思い浮かべる。

(おいフェンリル、聞こえるか。主のご帰還だぞ。頼む、返事をしてくれ……! 俺はここに帰ってきたぞ!)

念じながら薄目を明けると、片眉を跳ね上げたレヴィと視線がぶつかった。不愉快そうな様子を隠そうともしない。

「どうした? 具合でも悪いのか。陛下たちに移したら大変だ。もうお暇を――」
そう言って俺の背中を押した瞬間、部屋中に緊張が走った。

何かとても強い魔力を帯びたものが、この部屋に向って、ものすごい勢いで飛んでくる気配がする。レヴィの表情が厳しいものへと変わる。

「皆様、どうかお下がりください。できるだけ私の背にお隠れに」
気配はどんどん強くなる。レヴィが扉に向って剣を抜き、構える。その直後、扉をすり抜けて真っ黒い剣が部屋の中に飛び込んできた。

しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放

大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。 嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。 だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。 嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。 混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。 琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う―― 「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」 知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。 耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...