魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第六章 解呪と試練

<1>密かな企み

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月の女神が住むと言われるのは狼神の住むメイフェア山とは真反対にあるブロンプトン山だ。馬で向かっても王都からは1ヶ月はかかる。
さらに山の入口は茨で覆われてるため、登ることは難しいらしい。

だが転移魔法が使える俺は一瞬で往復することができるので問題ない。
山には結界が張り巡らされているらしいが、王族は入ることができることもわかった。

(生まれ変わってるけど、狼神も大丈夫だったし、きっといけるだろ)
もし入山できなかったら、その時はまだ方法を考えればいい。

それよりも最大の難関は。

「やっぱレヴィだよなあ……」
レヴィはマークに呼ばれて部屋から出て行ったばかりだ。しばらくは戻ってこないだろう。

ここ最近、リアムやシェーンとも会話らしい会話をしていない。
たまに見かけるが二人とも忙しそうに立ち働いている。

疲れているというより、活き活きして見えたから良かったけれど。
(あの様子じゃ協力は頼めないよなあ)

それに万が一レヴィにバレた場合、二人がどんな目に遭うか分からない。
多大な迷惑をかけてしまう可能性を考えると、二人に協力を頼むのは避けた方がいいだろう。

「最初から最後まで俺一人でやるしかねえか」
となると綿密な計画を練らなければ。レヴィは恐ろしいほど勘が鋭いし、昔から本当に俺のことをよく見ている。

さらにこのところ俺の側を離れない。今みたいに数時間、仕事でいなくなることはあっても、丸1日以上離れているということはない。

もしもレヴィがなんらかの仕事で数日間、屋敷を空けるようなことがあれば、その時が好機なのは間違いない。だがこの調子ではしばらくは難しそうだ。

そう思っていたのだが。

それから1週間ほど経ったある日、レヴィに王命が下った。
近隣諸国との貿易に関する新たな条約締結の場に同席してほしいというもので、もちろん式神での参加は禁じられてしまったらしい。

その夜、ベッドの中でレヴィは何度も大きなため息を吐いた。
「最悪です。エリス様と5日も会えないなんて」

「大げさだって。5日なんてあっという間だぞ」
フォローのつもりで言ったのに、軽く睨まれてしまう。

「エリス様は僕に会えなくても寂しくないからそんな事が言えるんですよ」
子どものように口を尖らせるレヴィはいつもより幼くてなんだか可愛い。

「なぜ笑っているんです」
「ああ、ごめん……拗ねてるレヴィ、可愛いなと思って」

レヴィは起き上がると覆いかぶさるようにして俺の顔を覗き込む。
すでに部屋は天蓋の小さなライトを除いて消灯している。

薄暗がりの中、アクアマリンの双眸だけがギラギラと光っている。
「可愛いわけないでしょう。僕はもう30代の男ですよ」

そう言って、俺の手を取ると自分の胸元に持っていく。
生地の薄い夜着越しに、たくましい胸板の存在を感じた。レヴィがもう俺のよく知る小さな少年ではないことを、否が応でもわからせられる。

反射的に手を離そうとしたが、手に力を込められて遮られてしまう。
「わ、わかった、ごめん。俺が悪かった! だからもう――」

「いいえ。エリス様はまだおわかりになっていません」
レヴィはそう言うと、俺の手をさらに自分の身体のあちこちに触れさせる。

首筋、鎖骨、鍛えられた腹筋、腰。やがて引き締まったウエストに沿って、手がさらに下へと進む。

「ちょ、おいレヴィ! これ以上はっ」
慌てて大声を出すと、レヴィの動きが止まった。

「わかってます。これ以上は進みませんよ」
目が慣れてきた暗がりの中、レヴィが艶然と微笑んだのがわかった。

ゆっくりと俺の手を握り直して再び隣に寝転ぶ。
「でも、もうわかってくださいましたよね? 僕がもう可愛い子どもじゃないって」

「ああ。もう十分わかった……もう寝ようぜ」

こうして手を繋いで毎日眠るなんてどう考えても子どもだと思う。
だがそんなこと言ったら今度は何をされるかわからない。

それにしてもレヴィの身体にこんな風に触れたのは初めてで、なぜか鼓動がいつもより早くなっている。繋がれている手もいつもより熱い気がしてならない。

(だめだ、寝ることに集中しないと……!)
気を抜くとなにかよからぬことを考えてしまいそうで羊を数え始めた。
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