魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第七章 真実の愛

<2>狼神と月の神

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魔力を使われているわけでもないのに、一瞬にして周囲にはピンと張りつめたような空気が漂う。

アリルだけは狼神の放つオーラやプレッシャーを気にも留めていない。
「久しぶりに会いにきてやったのにこの俺を歩かせるなんていい度胸だな」

狼神は目を細めて小さく笑った。
「会いにこいと頼んだ覚えはないぞ」

アリルも神だということは頭では理解している。しかしどう見ても10代後半の少年が巨大な狼に生意気な口をきいている様子にハラハラしてしまう。

「相変わらず嫌味な奴だな。だから友達がいねえんだよ」
「そうかもしれんな。だがおまえとメイソンがいれば十分だ。問題ない」

狼神の言葉にアリルは一瞬、目を見開いた。それからごまかすように鼻を鳴らしてそっぽを向く。

狼神は何も言わずにアリルをじっと見ている。いつも畏怖の念を抱かせる赤い瞳には優しさが滲んでいるように思える。

次の瞬間、狼神の輪郭がぼやけてどんどん縮んでいく。気がつくと狼神がいた場所には、黒髪に赤い瞳の美しい青年が現れた。

青年は美しく微笑んで両手を広げる。アリルは彼を睨み、挑みかかるようにその腕の中に飛び込んだ。

「……十分って、一人はもう死んでんじゃねーか。バカが」
「メイソンはずっと会いたがっていた。おまえに、謝りたいと」
「……だったらアイツからくればよかっただろ」
「拒否していたのはアリルだろう。私でさえもあの山に入ることができなかった」

「……こんなつもりじゃなかった。本当はすぐに、呪いも解いておまえたちのところに戻るつもりだったんだ」
「ああ。わかっている」
「なのに……つまんない意地張ってるうちにメイソンが死んじまって……人間の時間は俺たちが瞬きする間に終わっちまうこと、忘れてんだよ……ほんっとマジでクソだよな」

やがてアリルの背中が小さく震え出した。

「メイソンの墓参りに行こう。それに彼の子孫たちにも会って話をしよう。私たちにはまだまだ、うんざりするほど時間がある」

人間の姿になった狼神はアリルの後頭部と背中に手を添えて、小さな子にするように撫ではじめた。
何百年という気が遠くなるような時を超えて友情を結び直した神たちの姿に感動を覚える。同時に前世の騎士団の仲間たちのことが思い出された。

戦場で最低限の言葉だけを交わしたまま二度と会うことの叶わなかった仲間たちの顔が瞼の裏に浮かびあがる。

(そうだ……人間の命には限りがある。だからこそ日常は奇跡の連続みたいなもので、当たり前に今日と同じように明日を迎えられる保障なんかどこにもないんだ)

前世、後悔が残っていないわけではない。戦場で致命的なケガを負った時ですら、なぜか自分はそう簡単には死なないはずだという根拠のない自信をもっていた。

だからこそ、皆に伝えずに終わってしまった思いがあったのだ。
生まれ変わった今、俺は人の命の脆さを知っている。

感傷的な気持ちが沸き上がり胸が少し苦しくなる。ふと隣に立つレヴィを見上げる。いつもすぐに俺の視線に気づいて微笑みを返してくれるはずが、彼は思いつめたような目で神々の姿をじっと見ていた。

この時ほんの少しだけ感じた違和感がこの後とても大きな事件に繋がってしまうなんて、俺は思いもよらなかった。
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