魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第七章 真実の愛

<5>エリスの心

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あまりにも早く目が覚めてしまった俺は、部屋を抜け出して庭園を散歩している。
澄み切った空と朝の爽やかな空気の中にいるといるというのに、気持ちは重く沈んでいた。

俺のことを知らない人間と認識していた冷たい瞳を思い出すと、心臓に冷水をかけられたような気持ちになってしまう。

「ていうか、なんでこんなに落ち込んでんだろ」
レヴィの事は好きだ。けれど俺の気持ちはレヴィの抱いている感情とは違う。
違うというか、誰かに恋をするという気持ちが、俺にはよくわからない。

前世では恋愛をする前に死んでしまったし、今世では日々を生きることに精一杯で恋愛に関心を持つ余裕なんてなかった。
「剣や戦いのことならわかるんだけど」
逆に言えばそれ以外のことは何もできないのだということがよくわかった。
「ダメだな、俺」

庭園の真ん中に配置されたガセボに腰を下ろし、ぼんやりと景色を眺めみる。
美しい花々や木々を眺めていると気持ちが癒されていく気がする。
しばらくそうしてぼんやりしていると人の気配を感じた。
悪い事など何もしていないのに、反射的に魔力で姿と気配を隠してしまった。

「おまえさあ、本当にそれでいいのかよ」
アリルの少し怒ったような声がする。
「何がです?」
レヴィが素っ気なく返す。
「だーかーらぁ、本当にアイツと離婚するつもりなのかって聞いてんだよ」
驚きで息が止まりそうになる。
「ええ。いったい何が起きたのかわかりませんが、ヴァンダービルト家にかけられていた呪いは解けたのですから。あの人にここにいてもらう理由はないでしょう」

アリルが大きなため息を吐いた。
「アイツはアランなんだぞ」
心臓が急に早鐘を打つ。だがレヴィの返事は予想もしていないものだった。
「誰です? その人」
「は、はァ!? おまえアランのことも忘れちまったのかよ!!」
「そんなに大声を出さずとも聞こえていますよ。ですがアランという人物にも、心当たりはありませんね」
俺は両手で口を覆った。呼吸がうまくできないし手がひどく震えている。

心のどこかで、俺が生まれ変わったアランだと知れば、レヴィの態度は元に戻るだろうと思っていたのかもしれない。
だがレヴィは俺の前世すら忘れてしまっている。
今の俺に対するレヴィの態度が変わったのは、狼神のところで正体を知ってからだ。
(そうだ。あれがなければレヴィは今も俺を――)

レヴィが恋しているのは最初から今の俺じゃなかった。いつだってレヴィは目の前にいる俺じゃなくて、死んでしまった昔の俺を見ていたから。
レヴィが愛を捧げてくれることを、無意識のうちに当たり前だと思っていたのかもしれない。それが本当は自分に向けられたものではなかったのに。

(俺はなんて傲慢だったんだろう)
気がつけばレヴィとアリルの背中は小さくなっている。
俺は逃げるように部屋へ戻った。
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