魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子

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第七章 真実の愛

<8>僕も行く

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「ワインのボトルとラベルのサンプルが届きましたよ」
オーウェンさんが執務室にいくつものワインボトルとラベルを持って入ってくる。
それらをテーブルに並べて、皆でチェックしていく。
今、俺たちはクインスベリーのワインの販路拡大に向けてさまざまなことを進めている真っ最中なのだ。
「どれも素敵ですねえ」
リアムが目を輝かせる。
「そうだな。でもやっぱり上品で優雅な味のクインベリーにはブルゴーニュ型のボトルが合うんじゃないか」
言いながら、一番左に置かれたボトルを手に取ってみる。
「遮光性は高いほうが良いでしょうから、色は茶色でしょうか」
オーウェンさんが顎鬚を撫でながら思案する。
「そうだな。色は茶色で、ブルゴーニュ型にしよう」
俺の言葉に、皆が頷く。
「続きましてラベルのサンプルですが――」
オーウェンさんがラベルのデザインされた紙を広げかけた瞬間、突然執務室の扉が開いた。
「おい、入室する時はノックぐらい……え」
ワイン造りに携わっている誰かだろうと振り返った入口に立っているのは、ここに来るはずのない人物――レヴィだった。
(な、なんでここに!? もしかして俺が勝手なことをしてるから説教にきたのか!? でもワインの開発はオーウェンさん経由で許可を取ってるし。じゃあなんでだ!?)
脳内が「なんで!?」で埋め尽くされていく。
しばらく呆然と立ち尽くしているとレヴィが咳払いをした。
「そんなに驚くことじゃないでしょ。自分の領地なんだから視察に来るのは当然だよ」
その言葉に我に返る。確かにそうだ、ここはヴァンダービルト家が古くから所有している領地だし、王都からも近い。
「そ、そうだよな。おかえりなさい……?」
所有者はレヴィだし、ようこそというのも違う。思いついた言葉を口にすると、レヴィはなぜか押し黙ってしまった。
また気がつないうちに地雷を踏みぬいてしまったのかもしれない。少し緊張しながら反応を待っていると、やがてレヴィが小さく呟いた。
「ワインの販路拡大と生産量の増加計画、見たよ」
「え?」
「オーウェンを通じて送ってきたでしょ、申請書。面白そうだと思った」
「本当か!? ありがとう!」
思わず近寄ると、一歩距離を取られてしまう。
「生産量を増やすのは割と簡単にできるとして、販路拡大は難しくない? この国は自国の酒に厳しいから」
「ああ。だからまず国内を攻めるんじゃなくて、隣国に売り込みたいと思ってる。隣国で評判になれば国内の商人や酒好きも興味を持つはずだ」
レヴィは軽く目を見開いた。
「そこまでしっかり考えてたんだ。でも隣国にはどうやって売り込むつもりなの」
「うん。そのことなんだけど、最初はやっぱりアイルズベリーが一番だと思うんだ。アイルズベリーなら俺も信頼できるツテがあるし。だから一度、アイルズベリーに戻りたいんだけど、許可してもらえないか?」
ちょうど折りを見てレヴィには話さないといけないと思っていたが、今がちょうどいい機会かもしれない。
「ツテって? 親のこと?」
「アイルズベリーのエヴァンズ公爵という名前は知っているだろ」
「そうか。彼はきみの叔父にあたるんだったね」
俺は頷く。アイルズベリーのエヴァンズ公爵といえば、有能な事業家としても有名だ。特にワインやシャンパンなどの酒類への目利きに定評があり、彼が仕入れる酒はトレンドになると言われているほどだ。
幼いころからなぜか俺のことを可愛がってくれて、養子にする話も出たことがある。だが使用人が減ると困る両親の反対で実現しなかった。
「叔父上には昔からよくしてもらってるし、連絡すればすぐに会ってもらえると思う。里帰りも兼ねて、どうかな。一度、俺とリアムだけで話してくるよ。もちろんレヴィ含めヴァンダービルトの皆には絶対に迷惑もかけないし、手も煩わせないから。頼む」
レヴィはしばらく考え込んでいたが、やがて俺を見た。
「いいよ」
「ありがとう!」
「僕も行く」
「え……?」
途端にレヴィの眉が跳ねあがる。
「なあに。僕も行っちゃだめなわけ?」
「い、いや別にそういうわけじゃないけど……レヴィはその、忙しいんじゃないかと思って……」
「大丈夫だよ、僕は時間の使い方が上手いから。それに公爵が許可してくれれば転移魔法も使えるでしょ。一瞬で往復できるし、問題ない」
「それは……」
「それに僕はヴァンダービルトの当主だよ? その場で交渉が上手くまとまりる可能性がある場合、僕がいればその場で締結できるし」
確かにそうだ。正直、俺がひとりで行くより説得力もあるはずし、その場で契約がまとまるなら、これほど助かることはない。
「じゃあ、お願いします」
「これから戻って、すぐに王宮へ向かうよ。陛下の許可を取らないといけないから。きみはその間にエヴァンズ伯爵に連絡して、商談の場を整えておいて。いいね? オーウェン、この人の補佐をよろしくね。また来るよ」
言うが早いかレヴィは部屋から出ていってしまった。
残された俺たちはしばし、あ然としてしまう。
「相変わらずやるとなったら仕事が早い御方だ」
オーウェンさんが独り言のように呟く。
「確かに。風のように現れて、一瞬で決めることを決めて帰っていったな」
「ええ。昔からお変わりになりません。最近は仮面を被られることもおやめになったようで、それにも驚きましたが」
「オーウェンさんはレヴィの顔を見たことがあったんだな」
「はい。ずいぶん前に一度だけ。相変わらず輝くようにお美しい方ですなあ」
オーウェンさんはほうっとため息を吐いた後、両手をパンと打った。
「きっとレヴィ様はあっという間に陛下に許可を取っておしまいになります。さあ、我々も仕事を進めましょう!」
その言葉で頭を切り替える。
「そうだな。まずは早くラベルを完成させないと」
俺たちは机の上に広げられたカラフルなラベルのデザイン案をじっくりとチェックしはじめた。
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