3 / 57
第1章〜どうぞ幸せになってほしいなんて しおらしい女じゃないわ〜②
しおりを挟む
(『彼の幼なじみと彼女が修羅場すぎる』……そんな感じのラノベのタイトルがなかったっけ?)
なんてことを考えながら、コーヒーによってもたらされた尿意にしたがい、用を足す。
それにしても、ガチの修羅場を――――――さらに言えば、クラスメートの色恋沙汰に関するクライマックスをこの目で目撃するとは思わなかった。
しかも、日頃から周囲の恋バナ(笑)に関するウワサに敏感なクラスの中心人物ならいざ知らず、自分は、自他ともに認める学内&クラス内ヒエラルキーでは、アウト・オブ・カーストのぼっち的存在だ。そんなオレが、クラスメートの色恋沙汰に関わるなんてことは、御免こうむりたい。
『やはり僕の思春期ラブコメは間違っている』や『オレには友だちが少ない』など、平成の終盤ころまでは、こんな自分のようなぼっちにもラノベの主人公的立ち位置が用意されていたのだが――――――。
今や時代は令和である。
『千棘くんはサイダー瓶の中』や『完全な僕の思春期ラブコメ』に代表されるように、現在のラノベ主人公の潮流は、間違いなく、クラス・カーストのトップに君臨するヒーロー的立ち位置のイケメン・キャラにある。この2020年代において、自分のような、ぼっちで、ゲーム・ラノベ・漫画・アニメの世界に耽溺し、二次元を至上のモノと考えるような男子高校生に、主人公の立ち位置など用意されていない。
どの作品のあとがきで読んだのかはもう忘れてしまったが、完全無欠のラブコメ主人公を描く作家さんが、完璧な主人公を描写する理由として、「思春期にありがちな痛い人物を描きたくなかった」という趣旨のことを書いていた。ただでさえ、痛くなりがちな思春期の恋愛において、共感性羞恥をもたらすイタイ主人公は、読者にも作家の側にも求められていないのだろう。
今の時代、ぼっちが主人公になりたければ、性別を女子高生に転換したうえで音楽に目覚め、バンド活動を始めるしかないのだ(言うまでもなく、『ぼっち・で・ろっく』や『ギャルズ・バンド・クライ』を思い出してほしい)。
そんなことを考えつつ、手洗いを済ませ、再び気配を消して、クラスメートの視界に入らない動線を選んで自分の席に戻ろう、と考えトイレのドアを開けた瞬間――――――。
「うわ~~~~~~~ん‼‼‼‼ どぼしてよ、たいせ~い」
という慟哭(大声をあげて泣くこと。号泣。『広辞典』より)が聞こえてきた。
その声は、ヨネダ珈琲・武甲之荘店の店内に朗々と響き渡り、店員も周囲の客もあきらかに困惑している。
そんな状況でも、心の中で正常性バイアス(注:日常のさまざまな出来事や判断、「心理的ストレス」に反応しないことで、正常な範囲に納まっていると認識し、「心の平穏を守る」ための機能)を発動させたオレは、
(気にしない、気にしない……他人のこと、他人のこと)
と、昭和時代のアニメのトンチ坊主のように、無関心を装って、『ナマガミ』のヒロインたちが待つ自席に戻ろうとしたのだが……。
「あなた、市浜高校の生徒ですよね?」
と、黒エプロンの制服を身にまとったヨネダ珈琲の女性店員が、オレに声を掛けてきた。
「いや……たしかに、自分も市浜の生徒ですけど――――――あくまで、他人ですし……」
横目で、号泣する同級生女子を視界に捕らえながらも、どうせ、相手にはわからないだろうと、クラスメートであることを伏せて、無関係を装う。
しかし、話しかけてきた店員さんは、なかなかに目ざとく、オレの制服を確認して、なにかに気づいたかと思うと、
「あなた、あの娘と同じ学年章の色でしょ? これ以上、他のお客様に迷惑が掛かるなら、市浜高校の生徒を出入り禁止にしますよ?」
などと、脅し文句を放ってきた。
そう言えば、下校時に学生や生徒が集まりやすい飲食店などでは、あまりに品行の悪さが目立つ学校の生徒をまとめて出禁にするというニュースを聞いたことがある。
正直なところ、クラスメートとは言え、ほとんど交流のない女子生徒の失恋後のアフター・ケアなど、全力で拒否したいところではあるのだが、放課後にゲーム&ラノベタイムを楽しむことができる貴重なサード・プレイス(意識の高い人々は、職場&学校や自宅以外でプレイベートな時間を過ごせる喫茶店などの場所をこう呼ぶらしい)を奪われてはたまらない。
この場所で、叔母であるワカ姉から定期的に支給されるコーヒーチケットを頼りに、フカフカのソファに腰掛けながら、ゲームやラノベの世界に浸ることこそが、オレの至福の時間なのだ。
もちろん、制服姿ではなく私服で入店すれば、印象の薄い自分などが市浜高校の生徒であることは店員も覚えていないだろうが……。
学校帰りに、駅を降りてすぐの場所にあるこの店舗に入店できるメリットは、限りなく大きい。
そのメリットを手放したくない、という気持ちが、面倒事に巻き込まれるデメリットを上回り、オレは渋々ながら、女性店員の言葉に従うことにした。
号泣していた声のボリュームが少し落ち着いてきたのを待って、我がクラスの委員長である上坂部葉月が突っ伏しているテーブルに近づき、声を掛ける。
「あの……上坂部さんだよね? 大丈夫?」
こんな場面の女子相手に、どんな風に声を掛ければ良いのか、皆目検討のつかないオレが、なるべく、声のトーンを下げながら、恐る恐るたずねると、テーブルに突っ伏しながら、さっきよりは、かなりボリュームが落ちた声ながらも、グズグズと小さな嗚咽を漏らしていた上坂部葉月は、顔を上げてたずねる。
「えっ? 誰? ウチのクラスのタチバマ君だっけ?」
「タチバマじゃない、タチバナな?」
訂正と言う名のツッコミを入れつつ、クラス委員にすら正確な苗字を覚えられていないことに、教室内の空気的存在であることを再認識したオレは、テーブル席に腰を下ろし、店内出禁の原因を作りかけた彼女と対峙することにした。
なんてことを考えながら、コーヒーによってもたらされた尿意にしたがい、用を足す。
それにしても、ガチの修羅場を――――――さらに言えば、クラスメートの色恋沙汰に関するクライマックスをこの目で目撃するとは思わなかった。
しかも、日頃から周囲の恋バナ(笑)に関するウワサに敏感なクラスの中心人物ならいざ知らず、自分は、自他ともに認める学内&クラス内ヒエラルキーでは、アウト・オブ・カーストのぼっち的存在だ。そんなオレが、クラスメートの色恋沙汰に関わるなんてことは、御免こうむりたい。
『やはり僕の思春期ラブコメは間違っている』や『オレには友だちが少ない』など、平成の終盤ころまでは、こんな自分のようなぼっちにもラノベの主人公的立ち位置が用意されていたのだが――――――。
今や時代は令和である。
『千棘くんはサイダー瓶の中』や『完全な僕の思春期ラブコメ』に代表されるように、現在のラノベ主人公の潮流は、間違いなく、クラス・カーストのトップに君臨するヒーロー的立ち位置のイケメン・キャラにある。この2020年代において、自分のような、ぼっちで、ゲーム・ラノベ・漫画・アニメの世界に耽溺し、二次元を至上のモノと考えるような男子高校生に、主人公の立ち位置など用意されていない。
どの作品のあとがきで読んだのかはもう忘れてしまったが、完全無欠のラブコメ主人公を描く作家さんが、完璧な主人公を描写する理由として、「思春期にありがちな痛い人物を描きたくなかった」という趣旨のことを書いていた。ただでさえ、痛くなりがちな思春期の恋愛において、共感性羞恥をもたらすイタイ主人公は、読者にも作家の側にも求められていないのだろう。
今の時代、ぼっちが主人公になりたければ、性別を女子高生に転換したうえで音楽に目覚め、バンド活動を始めるしかないのだ(言うまでもなく、『ぼっち・で・ろっく』や『ギャルズ・バンド・クライ』を思い出してほしい)。
そんなことを考えつつ、手洗いを済ませ、再び気配を消して、クラスメートの視界に入らない動線を選んで自分の席に戻ろう、と考えトイレのドアを開けた瞬間――――――。
「うわ~~~~~~~ん‼‼‼‼ どぼしてよ、たいせ~い」
という慟哭(大声をあげて泣くこと。号泣。『広辞典』より)が聞こえてきた。
その声は、ヨネダ珈琲・武甲之荘店の店内に朗々と響き渡り、店員も周囲の客もあきらかに困惑している。
そんな状況でも、心の中で正常性バイアス(注:日常のさまざまな出来事や判断、「心理的ストレス」に反応しないことで、正常な範囲に納まっていると認識し、「心の平穏を守る」ための機能)を発動させたオレは、
(気にしない、気にしない……他人のこと、他人のこと)
と、昭和時代のアニメのトンチ坊主のように、無関心を装って、『ナマガミ』のヒロインたちが待つ自席に戻ろうとしたのだが……。
「あなた、市浜高校の生徒ですよね?」
と、黒エプロンの制服を身にまとったヨネダ珈琲の女性店員が、オレに声を掛けてきた。
「いや……たしかに、自分も市浜の生徒ですけど――――――あくまで、他人ですし……」
横目で、号泣する同級生女子を視界に捕らえながらも、どうせ、相手にはわからないだろうと、クラスメートであることを伏せて、無関係を装う。
しかし、話しかけてきた店員さんは、なかなかに目ざとく、オレの制服を確認して、なにかに気づいたかと思うと、
「あなた、あの娘と同じ学年章の色でしょ? これ以上、他のお客様に迷惑が掛かるなら、市浜高校の生徒を出入り禁止にしますよ?」
などと、脅し文句を放ってきた。
そう言えば、下校時に学生や生徒が集まりやすい飲食店などでは、あまりに品行の悪さが目立つ学校の生徒をまとめて出禁にするというニュースを聞いたことがある。
正直なところ、クラスメートとは言え、ほとんど交流のない女子生徒の失恋後のアフター・ケアなど、全力で拒否したいところではあるのだが、放課後にゲーム&ラノベタイムを楽しむことができる貴重なサード・プレイス(意識の高い人々は、職場&学校や自宅以外でプレイベートな時間を過ごせる喫茶店などの場所をこう呼ぶらしい)を奪われてはたまらない。
この場所で、叔母であるワカ姉から定期的に支給されるコーヒーチケットを頼りに、フカフカのソファに腰掛けながら、ゲームやラノベの世界に浸ることこそが、オレの至福の時間なのだ。
もちろん、制服姿ではなく私服で入店すれば、印象の薄い自分などが市浜高校の生徒であることは店員も覚えていないだろうが……。
学校帰りに、駅を降りてすぐの場所にあるこの店舗に入店できるメリットは、限りなく大きい。
そのメリットを手放したくない、という気持ちが、面倒事に巻き込まれるデメリットを上回り、オレは渋々ながら、女性店員の言葉に従うことにした。
号泣していた声のボリュームが少し落ち着いてきたのを待って、我がクラスの委員長である上坂部葉月が突っ伏しているテーブルに近づき、声を掛ける。
「あの……上坂部さんだよね? 大丈夫?」
こんな場面の女子相手に、どんな風に声を掛ければ良いのか、皆目検討のつかないオレが、なるべく、声のトーンを下げながら、恐る恐るたずねると、テーブルに突っ伏しながら、さっきよりは、かなりボリュームが落ちた声ながらも、グズグズと小さな嗚咽を漏らしていた上坂部葉月は、顔を上げてたずねる。
「えっ? 誰? ウチのクラスのタチバマ君だっけ?」
「タチバマじゃない、タチバナな?」
訂正と言う名のツッコミを入れつつ、クラス委員にすら正確な苗字を覚えられていないことに、教室内の空気的存在であることを再認識したオレは、テーブル席に腰を下ろし、店内出禁の原因を作りかけた彼女と対峙することにした。
0
あなたにおすすめの小説
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる