10 / 57
第1章〜どうぞ幸せになってほしいなんて しおらしい女じゃないわ〜⑨
しおりを挟む
オレが、セカオワのヒット曲を歌い上げている間、名和立夏はスマホを操作し、QRコードをカラオケの操作端末に読み込ませている。その直後、『RPG』の歌詞映像が流れる大型モニターの上部には、『とびら開けて』の予約を受け付けたというメッセージが表示された。
(この歌、なんだっけ……? 聞いたことがある気もするけど……)
トップバッターとしての役割を無難にこなし終えたところで、先ほどモニターに表示された曲名について、記憶をたどったのだが……。
ワカ姉から、みっちりと世界中のアニメについての教えを乞うている上に、なんなら子供の頃に映画館に連れて行ってもらい、リアルタイム観賞をもかかわらず、この楽曲を好みそうなリア充側の人間ではないうえに、その作品が自分の守備範囲とは少し外れていることから、オレは、久々知と名和の二人が、これから行うことについて、まったく予測することができなかった。
そうして、映像が切り替わり、CGで描かれたアニメーションのキャラクターが登場し、たことで、ようやく、この曲が使われている作品について、思い出す。
♡ ねぇ、ちょっと、おかしなこと言っても良い?
♠ そういうの大好きだ!
「そっか……『アナ雪』か……」
二人がセリフを語るように歌い出したのと同時に、オレがそうつぶやくと、名和立夏がニヤリ……と、ほくそ笑んだような気がした。彼らが歌っている楽曲は、劇場映画として日本国内でも大ヒットしたディズニー・アニメ『アナと雪の女王』の挿入歌だ。
主人公のアナと王子のハンスが出会って、お互いの想いを伝え合う物語序盤の印象的なシーンで使われるこの曲が、デュエット曲として、カラオケでも自分たちのような年代に人気があるというのは、どこかで聞いたことがある。
しかも、いったい、どこで練習をしてきたのか、名和と久々知のデュオは、ピッタリと息が合っていて、
♡♠ ふたりだから~
♡♠ とびら開けて~
と、サビの部分もキッチリとハモっていた。
聞き馴染んだ曲ばかりとは言え、ワカ姉推薦の楽曲を一夜漬けで叩き込んだオレの歌とは、クオリティに歴然とした差を感じる。
気がつくと、セカイ系作品の主人公とヒロインもかくやあらむ……と、思わず古語で表現したくなるくらい、「二人だけのセカイ」に浸りきって『とびら開けて』を歌いきった久々知大成と名和立夏は、お互いをウットリと見つめ合っていた。
(あれ……? でも、この曲を歌ってるハンス王子って……)
と、オレは、『アナ雪』のストーリーを思い出そうとしていたのだが、そんな完全な第三者の自分ですら、何ともいたたまれない気持ちになっている6平方メートルばかりのこの小さな空間には、ガタガタと身体を震わせている人物がいる。
言わずもがな……であるとは思うが、一昨日、駅前のヨネダ珈琲で人目をはばからず号泣していたオレたちのクラスの副委員長だ。
カラオケボックスの室内が、なんとも言えない空気に満たされる中、ワナワナと震える手でデジタル端末を操作した上坂部葉月は、幼なじみとクラスメートの方に視線を向けることなく、予約入力した楽曲のイントロが流れ出すと、テーブルに置かれたマイクを手にして立ち上がった。
印象的なリズムとメロディーではるものの、オレにとって、この時まで、あまり耳馴染みがなかったイントロのあと、彼女が選曲したタイトルは、すぐに理解できた。
♪ 愛はどこからやってくるのでしょう 自分の胸に問いかけた
♪ ニセモノなんか興味はないの ホントだけを見つめたい
(なぜに、今どき『LOVE 2000』……?)
その曲は、オレが歌った『RPG』と同様、冒頭の歌い出しにサビと同じメロディーが来るタイプの楽曲だった。しかも、自分が生まれる何年も前にリリースされたこの楽曲は、オレにとっても、この夏以降に重要な位置を占めそうなナンバーなのだ。
そう、この曲は、オレのイチ推し作品である負けヒロインがたくさん出てくるラノベのアニメ化が発表されると同時に、番組のテーマ曲として使用されることが決まったという特報映像が動画サイトで公開されていた。
いたたまれない感じになってしまった空気は、明るいノリの曲で吹き飛ばすしかない!
そんな健気な想いさえ感じさせる選曲ではあるが……。
オレにとって、その姿は、
「負けヒロインが不憫すぎる」
という風にしか感じられなかった。
上坂部葉月が、なぜこんな古い曲を知っているのか理由はわからないが、なんとも微妙なこの空気は、オレ一人の素人ニワカ仕込みの歌唱ではどうにもならないだろう……。
(ハァ……だから、リア充な連中とカラオケなんて来たくなかったのに……)
そう感じつつも、オレは、スマホでメッセージアプリを起動し、ワカ姉からもらった推薦曲一覧と一言コメントを再確認してから、久々知大成に声をかけてみた。
「な、なぁ、久々知……その……『アナ雪』のデュエット凄かったな。オレも男性ボーカルで歌いたいデュオ曲があるんだけど……い、一緒に歌ってくれないか?」
言葉につまりながら、世界的人気を誇る忍者アニメのOP曲のデュエットを申し込んだ、突然のオレの無茶振りにも、
「おう! モチロンだ!」
と、快く応じる我がクラスの委員長。
その性格の良さに異性を惹きつける理由があるのか……と、感心しつつ、なんとか空気が和んだことに安心していたオレが、自分の考えの甘さを思い知らされるのは、カラオケが小休憩に入った時のことだった。
(この歌、なんだっけ……? 聞いたことがある気もするけど……)
トップバッターとしての役割を無難にこなし終えたところで、先ほどモニターに表示された曲名について、記憶をたどったのだが……。
ワカ姉から、みっちりと世界中のアニメについての教えを乞うている上に、なんなら子供の頃に映画館に連れて行ってもらい、リアルタイム観賞をもかかわらず、この楽曲を好みそうなリア充側の人間ではないうえに、その作品が自分の守備範囲とは少し外れていることから、オレは、久々知と名和の二人が、これから行うことについて、まったく予測することができなかった。
そうして、映像が切り替わり、CGで描かれたアニメーションのキャラクターが登場し、たことで、ようやく、この曲が使われている作品について、思い出す。
♡ ねぇ、ちょっと、おかしなこと言っても良い?
♠ そういうの大好きだ!
「そっか……『アナ雪』か……」
二人がセリフを語るように歌い出したのと同時に、オレがそうつぶやくと、名和立夏がニヤリ……と、ほくそ笑んだような気がした。彼らが歌っている楽曲は、劇場映画として日本国内でも大ヒットしたディズニー・アニメ『アナと雪の女王』の挿入歌だ。
主人公のアナと王子のハンスが出会って、お互いの想いを伝え合う物語序盤の印象的なシーンで使われるこの曲が、デュエット曲として、カラオケでも自分たちのような年代に人気があるというのは、どこかで聞いたことがある。
しかも、いったい、どこで練習をしてきたのか、名和と久々知のデュオは、ピッタリと息が合っていて、
♡♠ ふたりだから~
♡♠ とびら開けて~
と、サビの部分もキッチリとハモっていた。
聞き馴染んだ曲ばかりとは言え、ワカ姉推薦の楽曲を一夜漬けで叩き込んだオレの歌とは、クオリティに歴然とした差を感じる。
気がつくと、セカイ系作品の主人公とヒロインもかくやあらむ……と、思わず古語で表現したくなるくらい、「二人だけのセカイ」に浸りきって『とびら開けて』を歌いきった久々知大成と名和立夏は、お互いをウットリと見つめ合っていた。
(あれ……? でも、この曲を歌ってるハンス王子って……)
と、オレは、『アナ雪』のストーリーを思い出そうとしていたのだが、そんな完全な第三者の自分ですら、何ともいたたまれない気持ちになっている6平方メートルばかりのこの小さな空間には、ガタガタと身体を震わせている人物がいる。
言わずもがな……であるとは思うが、一昨日、駅前のヨネダ珈琲で人目をはばからず号泣していたオレたちのクラスの副委員長だ。
カラオケボックスの室内が、なんとも言えない空気に満たされる中、ワナワナと震える手でデジタル端末を操作した上坂部葉月は、幼なじみとクラスメートの方に視線を向けることなく、予約入力した楽曲のイントロが流れ出すと、テーブルに置かれたマイクを手にして立ち上がった。
印象的なリズムとメロディーではるものの、オレにとって、この時まで、あまり耳馴染みがなかったイントロのあと、彼女が選曲したタイトルは、すぐに理解できた。
♪ 愛はどこからやってくるのでしょう 自分の胸に問いかけた
♪ ニセモノなんか興味はないの ホントだけを見つめたい
(なぜに、今どき『LOVE 2000』……?)
その曲は、オレが歌った『RPG』と同様、冒頭の歌い出しにサビと同じメロディーが来るタイプの楽曲だった。しかも、自分が生まれる何年も前にリリースされたこの楽曲は、オレにとっても、この夏以降に重要な位置を占めそうなナンバーなのだ。
そう、この曲は、オレのイチ推し作品である負けヒロインがたくさん出てくるラノベのアニメ化が発表されると同時に、番組のテーマ曲として使用されることが決まったという特報映像が動画サイトで公開されていた。
いたたまれない感じになってしまった空気は、明るいノリの曲で吹き飛ばすしかない!
そんな健気な想いさえ感じさせる選曲ではあるが……。
オレにとって、その姿は、
「負けヒロインが不憫すぎる」
という風にしか感じられなかった。
上坂部葉月が、なぜこんな古い曲を知っているのか理由はわからないが、なんとも微妙なこの空気は、オレ一人の素人ニワカ仕込みの歌唱ではどうにもならないだろう……。
(ハァ……だから、リア充な連中とカラオケなんて来たくなかったのに……)
そう感じつつも、オレは、スマホでメッセージアプリを起動し、ワカ姉からもらった推薦曲一覧と一言コメントを再確認してから、久々知大成に声をかけてみた。
「な、なぁ、久々知……その……『アナ雪』のデュエット凄かったな。オレも男性ボーカルで歌いたいデュオ曲があるんだけど……い、一緒に歌ってくれないか?」
言葉につまりながら、世界的人気を誇る忍者アニメのOP曲のデュエットを申し込んだ、突然のオレの無茶振りにも、
「おう! モチロンだ!」
と、快く応じる我がクラスの委員長。
その性格の良さに異性を惹きつける理由があるのか……と、感心しつつ、なんとか空気が和んだことに安心していたオレが、自分の考えの甘さを思い知らされるのは、カラオケが小休憩に入った時のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる