負けヒロインに花束を!

遊馬友仁

文字の大きさ
37 / 57

第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜⑧

しおりを挟む
 声をあげた小田先輩は、腕を引いた長洲ながす先輩の身体をそのまま受け止め、後ろからハグをするような体勢になる。
 上級生の女子に向かっていたコルク弾は、目標物を失い、ほとんど音を立てることもなく、そのまま、ポトリと地面に落ちる。
 
 一瞬のことで、誰もが言葉を発することができない中で、体格の良い同学年の男子に身体を支えられ、ほおを染める長洲ながす先輩の姿は、目に焼き付くほど印象的だ。
 一方の小田先輩は、とっさのことで力強く抱きしめていた、気のおけない仲の女子の表情に気がついたのか、

「あっ……スマン、さつき」

と言って、こちらも顔を紅くしながら、すっと腕のチカラを抜く。

 その光景をみながら、ようやく、自分のしでかしたことに気づき、

「すいません、長洲ながす先輩! オレが、暴発させてしまったせいで!」

あわてて、何度も頭を下げて謝ると、上級生の女子生徒は、少し戸惑った表情で、

「いやいや、気にしないで、タッチー! 当たってたとしても、私の顔なんだし……」

と、照れたように返答する。
 そんな気遣いを見せてくれた長洲ながす先輩に対して、ふただび、オレが謝罪しようとすると、それより前に上級生の男子が口を開いた。

「バカッ! さつきの顔に何かあったら、どうするんだ!」

 その一言に、加害者になりかけたオレをはじめ、周囲の人々が思わず身体をすくませる。
 その言葉に、いたたまれなくなったオレは、再度、

「長洲先輩、小田先輩、本当に申し訳ありませんでした」

と、深々と頭を下げる。すると、小田先輩は、

「いや……こっちこそ、声を荒げてすまなかった……立花くん責めようと思ってる訳じゃないんだ」

と、オレに向かって、申し訳なさそうに言葉を返す。

「いえ……自分が、周りに気を配れていなかったのが原因なので……」

 オレが、そう返答すると、周囲をキョロキョロと見回した上坂部が、

「あれっ……? 弥生ちゃんは、どこに行ったんだだろう?」

と、つぶやくように、オレたち夏祭りの参加メンバーにたずねる。つられて、オレも辺りに視線を送るが、クラスメートの言うように、下級生の浦風うらかぜさんの姿が見えない。
 
「たしか、立花が射的をしているときには、そばにいたよな?」

 久々知の言葉に、上坂部はうなずきながら、心配そうな表情でポツリとつぶやく。

「お手洗いに行ったのかもだけど……普段の弥生ちゃんなら、私たちに何か言って行くと思うから……」

「オレ、ちょっと、探して来ます!」

 上級生にケガをさせるかも知れなかった、という居心地の悪さと、その汚名をなんとか返上したいという打算、そして、なによりも、姿が見えなくなった下級生が、小田先輩に向けていた視線が気になっていたオレは、メンバーの返事を聞く前に走り出す。

「あっ、ちょっと、タッチー!」

 背後からオレを呼ぶ上級生女子の声がしたが、

「すいません、ナニかあれば、すぐに連絡します!」

と、返事をして、オレは屋台が立ち並ぶを路地を人混みをかきわけながら走り出した。
 真夏の夜のじっとりした汗ばむ暑さと、日頃の運動不足がたたり、駆け出したのは良いものの、数十メートルばかりの距離ですぐに息が上がる自分の身体に、情けなさを感じながら、路地の十字路を左折する。

 浦風さんに、この辺りの土地勘があるのかはわからないが、もしも、ベンチで腰掛けて落ち着こうと考えるなら、参拝客で賑わっている神社ではなく、高架になっている線路の南側にある小さな公園に行くのではないか――――――?

 そんな予感がしたオレは、高架の線路をくぐり、マンシビック浜崎はまがさきという屋内プール施設の脇を抜けて、目的の公園にたどり着く。
 小さな子ども用の滑り台などが設置されている児童公園を見渡すと、やや小柄で、白地に薄い黄色の小さな花柄の浴衣姿が見えた。

 ホッと安堵して、息を整えながら、膝を抱えてベンチに座っている女子に語りかける。

浦風うらかぜさん、大丈夫?」

 そっと声を掛けると、ハッと、こちらを見上げた彼女は、オレの顔を確認すると、やや気落ちしたような表情のあと、

「立花先輩……すみません」

と、つぶやくように返事をして、抱え込んだひざに顔を伏せる。その表情と言葉で、彼女が、誰を待っていたのか、誰に声を掛けて欲しかったのかが、瞬時に理解できた。
 彼女の元を訪れたのが、一つ年上の男子生徒でなかったことを申し訳なく思いつつ、

「オレのせいで、こんなことになって、ゴメン……」

と、オレは、今日、何度目になるかわからない謝罪の言葉を口にする。
 こちらの言葉が意外だったのか、少しだけ顔をあげた下級生は、小さな声で応じてくれた。

「立花先輩は、関係ないですよ……私の方こそ、勝手に屋台の場所から離れちゃって、申し訳ありません」

「みんな心配してるけど、浦風さんが、無事で良かった……もう少し、ここに居る?」

 オレの問いかけに対して、かすかに首を振ったように感じた彼女の返答を確認し、オレは、グループLANEを起動させて、小田先輩宛に発信する。
 浦風さんが見つかったことと、オレたちの居場所、人混みでつかれた彼女が落ち着くまでそばに居ることを伝えると、先輩は、「わかった、ありがとう」とだけ言って、通話を切った。

 先輩との通話を終えたことで、手持ち無沙汰になったオレが、少しだけ距離をおいて、浦風さんの座るベンチに腰掛けると、彼女は、おもむろにこう語りかけてきた。

「立花先輩、少しだけ私の話しを聞いてくれませんか?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...