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第3章〜運命の人があなたならいいのに 現実はうまくいかない〜⑨
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ポツリ、ポツリ、と少しずつ語りだした下級生の話しは、先日から感じていたオレの予感が、大きくハズレていないことを物語っていた。
小田先輩と同じ中学で、バドミントン部に入部したものの、運動が苦手だった自分はラリーをするのにも苦労して、退部しようと考えていたこと。そんなときに、小田先輩が、競技を基礎から丁寧に指導し、バドミントンの面白さに気づけたこと。少しずつ上達していった彼女が、部内のゲームで勝つと、先輩が自分のことのように喜んでくれたこと……。
彼女だけでなく、部内のメンバーに慕われている先輩が、とても頼もしく、カッコよく見えたこと。相手を想う気持ちが本気だと気付いたのは、彼と手をつなぎたいと思った自分に気づいたからだということ。周囲に気付かれないように、ラケットのグリップを握る大きな親指に見惚れていたこと。ラケットの握り方を教えてもらって手が触れたときに、「冷たい指だな」と彼が微笑んだこと。
そんな先輩の姿に憧れて、少しでも彼のような存在に近づこうと、引っ込み思案だった性格の彼女が、中学の生徒会に立候補したこと。そして、高校でも、彼と近づくために、三年生の生徒会メンバーと交流することの多いクラス委員になったこと。
そんな、打ち明け話しを聞きながら、
「オトコのオレから見ても、小田先輩は格好良いから……その気持ちは、わかるかも……」
と、相づちを打つように、彼女の同調すると、下級生は、少し嬉しそうにほほえんだあと、
「でも、そんな小田先輩のそばには、いつも、あのヒトがいたんです」
と、寂しそうな表情を見せた。
小田先輩は、バドミントンの強豪選手として学内でも有名な存在なので、帰宅部のオレでも、今のように行動をともにする前から、彼がバドミントン部に所属していることは知っていたが……中学生時代の長洲先輩が、同じバドミントン部に所属していたということは知らなかった。
もっとも、その長洲《ながす》先輩が、目の前の彼女のことを「弥生!」と、ファーストネームで呼んで可愛がっていることを考えると、それも、当然のことか……。
「それに、お二人は、小学校に入る前から幼稚園が同じで、家もご近所の幼なじみなんですよ」
浦風さんの言葉に、「そっか……」と、短く返答したオレは、思わず苦笑する。
また、出たよ、幼なじみ……。
面識の少ないオレにでも理解できる、息のあったあの二人の関係性には、そんな背景があったのか。
ただ――――――。
(この二人のどちらかに想いを寄せている人間がいれば、大変だな――――――)
神社に参拝する前に、そう感じたオレの直感は、どうやら的中してしまったようだ。
そんなことを考えながら、聞いていた浦風さんの打ち明け話しは、いよいよ、佳境に入る。
「私が、どれだけ一生懸命、小田先輩に近づこうとしても、やっぱり、さつき先輩には敵わなくて……」
「それでも、これまでは、二人の態度がハッキリしなかったから、自分にもチャンスがあるんじゃないかって、都合の良いことを考えたりしてたんですけど……」
これまで、ときには、絞り出すような口調で自身の心情を語っていた彼女だが……。
「でも……さっきの騒動で、二人が、どれだけ想い合っているのか、わかっちゃいました……」
最後は、自分の気持ちを吹っ切るように、おどけたような口調で語った。
そんな彼女の表情に、オレの中の罪悪感は、さらに大きなモノになる。
(腹黒いクラスメートの挑発的な言動から、小田先輩に、安易に夏祭りの参加を打診したこと)
(射的に勝とうと夢中になり、周りに気を配れなかった結果、長洲先輩を危険にさらしたこと)
どちらかの行動がなければ、この事態を招くことはなかったハズだ……。
オレは、また、やらかしてしまった――――――。
「こういうときって、みんなの前から消えたくなっちゃうんですけど……でも、先輩たちに迷惑かけちゃ、ダメですよね。ゴメンナサイ」
そう言った彼女は、ベンチから立ち上がると、ピョコリ、と頭を下げる。そんな下級生の姿を無言で見つめていたオレだったが……。
(こういうときって、みんなの前から消えたくなっちゃう)
彼女のその言葉は、小学生のときのとある経験から、教室内で空気的存在を貫く術を身に着けた自分の心に深く突き刺さった。
自ら語るべきことを語り尽くしたためか、スッキリしたような表情の彼女は、キッパリと宣言した。
「私、決めました! このあと、自分の気持ちを小田先輩に伝えてきます! そして、茅の輪くぐりで払ってもらったケガレと一緒に、心のモヤモヤを払って来ようと思います!」
この状況で、その選択肢を選ぶということは、つまり……。
彼女が自分で下した決断に対して、今日の夏祭りまで、数えることしか言葉を交わしたことのないオレが、なにか意見を述べることなどできない、と感じた。ましてや、オレは、小田先輩と長洲先輩の関係性を認識させられる状況をつくってしまった人間なのだ。
そこで、浦風さんの意志を尊重することにして、短く答える。
「そっか……じゃあ、みんなの所に戻ろうか?」
「はい……あと、立花先輩にお願いしたいことがあるんですが、良いですか?」
オレがうながすと、彼女は、そんなことを言ってきたので、内容を確認して快諾する。
そして、神社近くの屋台でみんなと合流すると、浦風さんは、急に姿を消したことを丁寧に謝罪したあと、小田先輩に声をかけた。
「先輩に伝えたいことがあります。このあと、少しだけ、お時間をもらえませんか?」
小田先輩と同じ中学で、バドミントン部に入部したものの、運動が苦手だった自分はラリーをするのにも苦労して、退部しようと考えていたこと。そんなときに、小田先輩が、競技を基礎から丁寧に指導し、バドミントンの面白さに気づけたこと。少しずつ上達していった彼女が、部内のゲームで勝つと、先輩が自分のことのように喜んでくれたこと……。
彼女だけでなく、部内のメンバーに慕われている先輩が、とても頼もしく、カッコよく見えたこと。相手を想う気持ちが本気だと気付いたのは、彼と手をつなぎたいと思った自分に気づいたからだということ。周囲に気付かれないように、ラケットのグリップを握る大きな親指に見惚れていたこと。ラケットの握り方を教えてもらって手が触れたときに、「冷たい指だな」と彼が微笑んだこと。
そんな先輩の姿に憧れて、少しでも彼のような存在に近づこうと、引っ込み思案だった性格の彼女が、中学の生徒会に立候補したこと。そして、高校でも、彼と近づくために、三年生の生徒会メンバーと交流することの多いクラス委員になったこと。
そんな、打ち明け話しを聞きながら、
「オトコのオレから見ても、小田先輩は格好良いから……その気持ちは、わかるかも……」
と、相づちを打つように、彼女の同調すると、下級生は、少し嬉しそうにほほえんだあと、
「でも、そんな小田先輩のそばには、いつも、あのヒトがいたんです」
と、寂しそうな表情を見せた。
小田先輩は、バドミントンの強豪選手として学内でも有名な存在なので、帰宅部のオレでも、今のように行動をともにする前から、彼がバドミントン部に所属していることは知っていたが……中学生時代の長洲先輩が、同じバドミントン部に所属していたということは知らなかった。
もっとも、その長洲《ながす》先輩が、目の前の彼女のことを「弥生!」と、ファーストネームで呼んで可愛がっていることを考えると、それも、当然のことか……。
「それに、お二人は、小学校に入る前から幼稚園が同じで、家もご近所の幼なじみなんですよ」
浦風さんの言葉に、「そっか……」と、短く返答したオレは、思わず苦笑する。
また、出たよ、幼なじみ……。
面識の少ないオレにでも理解できる、息のあったあの二人の関係性には、そんな背景があったのか。
ただ――――――。
(この二人のどちらかに想いを寄せている人間がいれば、大変だな――――――)
神社に参拝する前に、そう感じたオレの直感は、どうやら的中してしまったようだ。
そんなことを考えながら、聞いていた浦風さんの打ち明け話しは、いよいよ、佳境に入る。
「私が、どれだけ一生懸命、小田先輩に近づこうとしても、やっぱり、さつき先輩には敵わなくて……」
「それでも、これまでは、二人の態度がハッキリしなかったから、自分にもチャンスがあるんじゃないかって、都合の良いことを考えたりしてたんですけど……」
これまで、ときには、絞り出すような口調で自身の心情を語っていた彼女だが……。
「でも……さっきの騒動で、二人が、どれだけ想い合っているのか、わかっちゃいました……」
最後は、自分の気持ちを吹っ切るように、おどけたような口調で語った。
そんな彼女の表情に、オレの中の罪悪感は、さらに大きなモノになる。
(腹黒いクラスメートの挑発的な言動から、小田先輩に、安易に夏祭りの参加を打診したこと)
(射的に勝とうと夢中になり、周りに気を配れなかった結果、長洲先輩を危険にさらしたこと)
どちらかの行動がなければ、この事態を招くことはなかったハズだ……。
オレは、また、やらかしてしまった――――――。
「こういうときって、みんなの前から消えたくなっちゃうんですけど……でも、先輩たちに迷惑かけちゃ、ダメですよね。ゴメンナサイ」
そう言った彼女は、ベンチから立ち上がると、ピョコリ、と頭を下げる。そんな下級生の姿を無言で見つめていたオレだったが……。
(こういうときって、みんなの前から消えたくなっちゃう)
彼女のその言葉は、小学生のときのとある経験から、教室内で空気的存在を貫く術を身に着けた自分の心に深く突き刺さった。
自ら語るべきことを語り尽くしたためか、スッキリしたような表情の彼女は、キッパリと宣言した。
「私、決めました! このあと、自分の気持ちを小田先輩に伝えてきます! そして、茅の輪くぐりで払ってもらったケガレと一緒に、心のモヤモヤを払って来ようと思います!」
この状況で、その選択肢を選ぶということは、つまり……。
彼女が自分で下した決断に対して、今日の夏祭りまで、数えることしか言葉を交わしたことのないオレが、なにか意見を述べることなどできない、と感じた。ましてや、オレは、小田先輩と長洲先輩の関係性を認識させられる状況をつくってしまった人間なのだ。
そこで、浦風さんの意志を尊重することにして、短く答える。
「そっか……じゃあ、みんなの所に戻ろうか?」
「はい……あと、立花先輩にお願いしたいことがあるんですが、良いですか?」
オレがうながすと、彼女は、そんなことを言ってきたので、内容を確認して快諾する。
そして、神社近くの屋台でみんなと合流すると、浦風さんは、急に姿を消したことを丁寧に謝罪したあと、小田先輩に声をかけた。
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