フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁

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第2章~運命の人があの人ならいいのに現実はうまくいかない~第1話

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 参加者それぞれの思惑が明らかになったクラスメートとのカラオケ、ワカねえへの活動報告、そして、インフルエンサーとして有名な白草四葉しろくさよつばちゃんの動画視聴というハードスケジュールを終えた翌日……。
 この日は、土曜日で休日ということもあり、オレは、隣町のショッピングモール、石宮いしのみやガーデンズに出かけることにした。

 移動のついでに、ここで、オレが住む街・浜崎はまがさき市について、少し説明しておこう。

 H県・浜崎はまがさき市は、県の南東部に位置する人口四十五万人の中核市だ。海沿いの街ということもあり、戦前から工業都市として発展してきたという歴史がある。また、道路網や鉄道網が発展していることから、通勤・通学面での利便性が高く、近年では、わずかながら人口も増加傾向にあるのだとか。
 かつて、工場地帯だった市内中部の場所には大型マンションが立ち並び、南部の大規模な工業地帯は、大手通販会社の物流拠点に変貌を遂げた。

 ただ、この街の本質は、こうしたウィキペディアの冒頭分に掲載されるような、表面的に解説される数値や街の成り立ちでは説明できない。

 工業都市として人口が増加した経緯からなのだろうか、庶民の街の雰囲気を色濃く残すこの街は、『下町』をそのまま英訳したコンビ名を持つ業界ヒエラルキーのトップに君臨する漫才師の出身地でもある。
 さらに、サッカー選手のモノマネでおなじみのピン芸人、少し前に解散を発表した女性漫才コンビの方など、お笑い芸人を多数輩出する、いわゆるな街だ。
 
 そして、その特徴は、地元出身の有名人の傾向にとどまらず、この街の雰囲気にもあらわれている。

 市内の南部にある浜崎はまがさき中央三丁目商店街では、ファンが熱狂的な知られるプロ野球の虎さんチームを応援しており、毎年ペナントレースが開幕すると同時に、

「日本一はやい優勝マジック点灯」

を掲げた巨大ボードがアーケードの屋根から吊り下げられ、虎柄の鯛『めでタイガー』が空中遊泳を行う恒例行事が開催される。
 ニュース番組などで、その映像を見たことがあるヒトも多いかも知れないが、このは、良くも悪くも、この街の特徴を表現していると言っても過言ではない。
 
 なお、野球ファンには説明するまでもないだろうが、このプロ野球の虎さんチームが本拠地とする、『高校野球の聖地』として日本一有名な球場が所在しているのは、わが街の隣の石宮いしのみや市である。

 さらに、オレたち10代の人間が、この街のどんなところに魅力を感じているか説明しておきたい。
 中学生のとき、学校の授業にタブレットPCが導入されるということで、その導入研修のときに、こんなことがあった。

 自分の学校でも、PCの操作に慣れるため、『浜崎はまがさき市の良いところ』というオンライン・アンケートが行われたのが―――。自由記述の結果、ブッチぎりの1位になった回答が、

石宮いしのみやガーデンズに近いこと

であった。

「それ、うちの市の話しやないやん!!」

 誰もが、そうツッコミを入れてしまうと思うけれども、これが、ハマっ子(こう書くと、横浜市民と間違えそうだが……)中高生の偽らざる本音だと言うことは書き記しておきたい。

 それに加えて、隣接する日本有数の商業都市の近隣地というメリットを活かし、工業都市として発展した経緯からか、県境をまたいでいるにもかかわらず、固定電話の市外局番が、06番であるという事実も見逃せない。
 自分のような世代の人間は固定電話を使うことなどほとんど無いが、オレの祖父じいさんの話しによると、仕事関係やプライベートで隣の大都市の会社や知人に電話をするときは、格安の市内通話料金で掛けることができたらしく、携帯電話が普及する前は、大きなメリットがあったという。

 こうしたことを、まるでバーゲン・セールで、掘り出し物を見つけたかのように、ドヤ顔で語るのが、わが街の市民の気質でもある。

 このように、を、臆面もなく享受するというのが、わが街のもっとも大きな特徴と言えるだろう。
(正直なところ、他市に依存していることばかりのため、それを誇って良いのかは微妙なところだと思う)

 映画にもなった小説『下妻物語』で、この街の出身という設定である主人公のロリータちゃんが、お気に入りのブランドであるBABY,THE STARS SHINE BRIGHTのロリィタ服を通販する際に、この街の住人と思われることが嫌で、住所を書くときにためらう、という描写があるのだが……。
 ファッション感度の低い自分のような人間でも、ロリータちゃんの想いには、身につまされるモノがある。
 
 そう、某SOS団の団員たちが駆け巡った、桜並木の美しい川沿いの公園や、美しい夜景が印象的な校門前のスポット、映画撮影にピッタリなため池がある訳でもなく、お笑い芸人と商店街(ちなみに、アニメ版では、ここでSOS団の面々がプロモーション映像を撮影していたことになっているのだが……)の風景が象徴的なわが街は、

『日本で最もラブコメが似合わない街』

と言い切っても過言ではないのだ。

 買い物のついでに中央商店街に出掛けて『日本一はやい優勝マジックボード』を見上げたときに、いつも思うことがある。
 商店街を舞台にしたラブコメと言えば、京都・枡形ますがた商店街が聖地として有名になった、が主人公のアニメや、若者が最もプレイしているソシャゲとしてもおなじみの『ウ◯娘』の中で、最もラブ濃度と湿度が高いと言われるナイ◯ネイチャのシナリオなどが存在するが……。

 虎柄のケッタイな魚が空中を浮遊し、アーケードの下を一日中、『六甲◯ろし』(正式名称:阪◯タイガースの歌)が流れる環境では、コメディ要素はともかく、ラブの要素など望むべくもないだろう、と個人的には感じる。
 
 ただ、それでも―――。
 
 自宅から自転車に乗って、わが街と石宮いしのみや市を隔てる武甲むこ川に架かる橋の風景を眺めながら、ふと考えた。
 
(こんな街に住んでいても、みんな普通に恋愛とかしてるんだよな……)

 フィクションの世界なら、恋愛感情を盛り上げるための舞台装置というか、聖地になりそうな美しい風景のようようなモノが必要なんじゃないかとオレは思うのだが、自分を取り巻く現実に目を向ければ、クラスの委員長コンビや、カラオケボックスで本性を見せた転入生は、大いに青春を謳歌しているようにも感じられる。

 ・若者の恋愛離れ
 ・恋人よりも推し活

 いまの時代は、そんな風潮がある……なんて意見も聞かれるけど、少なくとも、自分の周囲の男女に限っては、そうした現代的トレンドとは、別の世界が広がっているようだ。

 そんなことを考えながら、中高生の考える最大のメリットであるところのショッピングモール・ガーデンズに到着したオレは、前の日の夜に動画で見ていた人物が、同世代の買い物客から注目を集めている姿を目撃した。
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