フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁

文字の大きさ
49 / 60

第4章~オレの幼なじみがこんなに素直なわけがない~第5話

しおりを挟む
「ムネリン、やるじゃん。白いケモノみたいに優しくなったね」

 彼女は、そう言って、ニコリと微笑んだ
 その笑顔が、あまりにまぶしくて、リッちゃんの表情をチラリと見たぼくは、また、顔を伏せてしまう。

 この日は、初日ということで、ケンタくんとエリちゃんが、白いケモノと黒いケモノを演じる前半のパートだけで、練習は終了となった。

 劇の練習が終わったあとは、お遊戯室で自由に遊ぶ時間になったので、ぼくは、リッちゃんに、さっきのことを聞いてみた。

「ねぇ、リッちゃん! さっき、僕が白いケモノみたいになったって言ってたけど、どういうこと?」

「どういうこと? って、そのままの意味だけど? ムネリン、優しいな、って思っただけ。昨日は、ケンタたちにロッカーに閉じ込められたのに……」

「それは、そうだけど……ぼくも、白いケモノの役になったし、同じ役の子が悲しそうにしてるのは、かわいそうだなって思ったから……」

 ぼくが、そう返答すると、リッちゃんは、興味深そうに「ふ~ん」と、つぶやいて、こんなことをたずねてきた。

「ムネリンは、発表会の劇で、どうして、白いケモノの役をやろうと思ったの?」

 いや、それは、リッちゃんがぼくのことを先生に薦めたからじゃないか……と、言おうとしたけど、自分の心の中にも、たしかに、白いケモノを演じたい、という気持ちがあったことを思い出して、こう答えた。

「ぼくは、白いケモノみたいに、他の人の気持ちを考えて、みんなと仲良くなれたらいいな、って思ったんだ。だから、この役をしてみたいって思った」

 ぼくの答えに、穏やかな表情を見せたリッちゃんは、「そっか……ムネリンらしいね」と言ったあと、「私もね、黒いケモノの役をしてみたいって思った理由があるんだ」と打ち明けた。

 そして、

「ムネリンは、理由を聞きたい?」

と言って、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
 その表情につられるように、
 
「う、うん! リッちゃんが黒いケモノの役をしたいと思った理由を聞きたい!」

と、力強く答えると、彼女は、「そっか……」と、小さくうなずいたあと、「誰にも言わないでね?」と付け加えた。

 ぼくが、「わかった」と、大きくうなずくと、リッちゃんは、手にしていていた積み木のオモチャに目を落としながら答える。

「私もね、ムネリンと同じ。『泣き虫なケモノのおはなし』の黒いケモノみたいに、誰かの役に立ちたいなって思ったの。自分がツラくても、そうすれば、誰かが笑顔になってくれるかな、って思ったから……」

 珍しく、はにかむような表情で語る彼女の言葉に、

「そうなんだ! リッちゃんは、スゴイね!」

と、感心しながらも、そのときのぼくは、なぜ、彼女が自己犠牲をも厭わない、そんな感情を抱いているのか、理解しようとすることすらなかった。

 そして、リッちゃんは、
 
「別に、スゴくないけどね……私のせいでケンカばかりしてる人たちも居るし……」

と、寂しそうにつぶやいたあと、

「そうだ! ムネリンが、みんなと仲良くなりたいなら、私が協力してあげる!」

と言って、急になにかを思いついたように、表情を一変させた。

「どうしたの、リッちゃん?」

 彼女の表情の変化を不思議に思ってたずねると、リッちゃんは、ニコリと笑ってこう答えた。

「明日から、劇の練習がうまくいかないときがあったら、ムネリンは、今日みたいに、『みんな、がんばってるんだから』って言って、助けてあげて?」

「うん、それくらいなら……」

「それに他の子が、酷いことを言ったら、『そんなこと言っちゃダメだよ?』って注意してね」

「わかった! がんばってみる!」

 ぼくが、そう答えると、彼女はおだやかにうなずいて、

「がんばってね、優しいケモノさん」

と、付け加えた。

 そして、翌日も、発表会の劇の練習は続く――――――。

 ・

 ・

 ・

 白いケモノが悲しみに暮れていた頃、一人のお客がやってきました。
 お客と言っても、人間ではありません。

 白いケモノの友だちの黒くて毛むくじゃらのケモノでした。

「ど、どうしたの? ず、ずいぶんと暴れて……シ、シロ……君らしく……ないじゃない?」

 白いケモノは、荒れ放題の自分の庭を恥ずかしく思ったものの、どうして、自分が腹を立てたのかを黒いケモノに話しました。

「な、な、なんだい? それならば、僕にいい考えがあるぞ」

「い、い、いい考えって、なんだいクロ君」

 白いケモノがたずねると、黒いケモノはこう答えました。

「ぼ、僕が人間の村へ出かけて大暴れをする。そこへ――――――」

 ・

 ・

 ・

 黒いケモノを演じるエリちゃんは、そこまでセリフを言ったあと、舞台の中央で固まってしまった。
 セリフがまったく出てこないのだろう、ということは、幼いぼくたちにも、すぐに伝わる。

 中浜先生は、前の日と同じく、ため息をついて、口を開こうとしたんだけど、その瞬間、声を上げる園児がいた。

「他の人に注意するなら、自分もちゃんとしてくださ~い!」

 その声の主が誰なのか、振り返るまでもなく、ぼくにはわかっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

処理中です...