58 / 60
第4章~オレの幼なじみがこんなに素直なわけがない~第14話
しおりを挟む
「いや~、ここに来て、まさか転校生ちゃんと宗重にそんな因縁があったことが判明するとは! しかも、その相手が園児だった宗重の名演技を引き出した黒いケモノを演じてたあのコだったなんて、ミステリー小説も裸足で逃げ出すドンデン返しだね~? ここまで、ちゃんと伏線が貼られていたのか、内容を振り返ってチェックしないと!」
久々知とリッカの交際に関する真相を聞かされたことで、幼なじみ復縁計画に一定のメドが立ったと判断したオレが、最近おこった一連の事件(?)をワカ姉に説明すると、彼女は、カラカラと笑いながら感想を語った。
―――いや、ミステリーじゃないし、誰も死んでないし!
オレが、そうツッコミを入れると、ワカ姉は、冗談めかした口調ながらも、論理的に持論を展開する。
「いやいや、ミステリー小説の手法は、ラブコメにも応用できるんだよ、ワトソン君。たとえば、ミステリ―の『フーダニット(だれがやったか)』『ハウダニット(どうやったか)』『ホワイダニット(なぜやったか)』は、ラブコメにおいて、『誰が主人公の恋人となるか』『いかにして両想いになるか』『なぜ好きになったか』にそのまま置き換えることができるんだな、これが」
いつものように、突飛なことを言いながらも、妙に説得力のある自説を聞かせてくれる彼女の話術に引っ掛かったオレは、思わず身を乗り出すように話しに食いつく。
―――その説、詳しく聞かせてよ。
「おっ! ノッて来たじゃん。じゃあ、リクエストに応えようか? ミステリーにつきもののトリックもラブコメに応用できるよ。ちょっと、ベタだけど、たとえば双子の入れ替わりトリック。双子のうち、片方と仲良くして、両想いになったと思ったら、それが実は変装したもう片方だった、とか? ありがちでしょ(笑)?」
―――まあ、たしかに。あとは、恋した相手が、二重人格だったってラブコメもあったよ。
「他にも、バールストン先攻法ってヤツね。これは、真犯人である人物を死体偽装などで、既に死んでしまったかのように見せかけて、読者がその人物を容疑者から外すようにし向ける手法のことなんだけど……あるヒロインが早々に別の男と付き合いはじめて恋愛戦線から離脱……したと見せかけて実は主人公のことが好きだった、とかね」
―――おぉ、それも良く見るパターンだ! なんだよ、結局、主人公のこと好きなんじゃないか……って、ニヤけるやつ!
「あとは、叙述トリック。憧れのあのヒロインが一人称視点で秘めた想いを語っているかと思ったら、実はその親友のクール系美少女の独白だった、とか?」
―――最近のラノベやウェブ小説は、一人称視点が圧倒的に多いから、その手法は逆手に取れるかも!
「最後に上げるのは、トリックではないけど、作品タイトルなどからメインヒロインが確定的に明らかな場合は『倒叙』ってジャンルになるんだろうね。アンタの年齢じゃリアルタイムで視聴していないだろうけど、『刑事コ◯ンボ』や『警部補古◯任三郎』みたいに会話劇を楽しむタイプのミステリーは……」
―――それは、特定の相手との会話やイチャイチャシーンを楽しむラブコメってこと?
「そうそう! さすが、我が甥っ子! これまで、色んな作品を読ませてきた甲斐があったわ」
ワカ姉は、そう言いながら、また楽しそうにケラケラと笑う。
しかし、そのあと、一転して声のトーンを落とし、気になることを言ってきた。
「ふむり、ふむり……だけど、ここまでの宗重の話しを振り返ると気になることがあるなぁ……私の認識では、アンタの話しに最初に登場したのは、クラス委員の幼馴染ちゃんだったんだよね。でも、彼女は、その小さいときから仲の良かった男子のクラス委員くんとのフラグが立ちつつある。一方で、宗重の幼なじみだってことが判明した転校生ちゃんや、気弱キャラの銀髪ちゃんは、ちょっと、登場するのが遅かったような……」
―――あの……なに言ってんの、ワカ姉?
オレの疑問符付きの問いかけが耳に届いたのかはわからないが、彼女は、ふたたび独特の持論を語り始めた。
「私の考えた『ミステリーの十戒』を下敷きにした『ラブコメの十戒』では、『勝ちヒロインは、物語の当初に登場していなければならない』ってのがあるのよ。この法則を守らないと、平成最大のヒット作の汎用人型決戦兵器で戦うあのアニメみたいに、最後の劇場版で『なんで、あのポッと出の眼鏡とくっつくんだ、シ◯ジ君!』って、観客にツッコミを入れられるんだから!」
―――いや、リアルタイム世代じゃないオレには、その感覚、わからんし……。
「あと、アンタが主張してたように『りんご100%』も、最初に出会った東郷ちゃんと主人公が結ばれなかったことで賛否が起こったでしょう? 雛鳥が初めて目にする動く相手を親鳥だと感じるように、物語に最初に登場するヒロインってのは、読者に大きな印象を与えるからね。それだけ大事なのよ!」
―――いやいや、現実はラブコメ物語じゃないって。
オレは、ワカ姉の自説にツッコミを入れる。あと、付け加えておくと、今のところ令和最大のラブコメヒット作と言って良い五つ子の家庭教師を務める作品では、最初に出会う末っ子は主人公と結ばれなかったが、そのことは、それほど重要視されていないハズだ。
そんなことを考えていると、サブカル方面の師匠である叔母は、「だけどねぇ……」と、またも、声のトーンを一変させたあと、語り続ける。
「前にも言ったけど、宗重の話しを聞いた限りじゃ、転校生ちゃんの性格って、ラノベの『どらドラ!』の河嶋亜依ちゃんとか、『底辺キャラ 外崎くん』の木南蒼ちゃんに似てる感じがするんだよね~。この前までプレイしていた『ナマガミ』でも、どうせ綾辻さんを選んでるでしょ? 転校生ちゃんの性格は、アンタの性癖にドンピシャじゃん(笑)?」
―――ッ!!!! ワカ姉、余計なこと言わなくて良いから!!
オレが反論すると、叔母は、「ゴメン! ゴメン!」と言いながら、アハハと笑う。
恋愛シミュレーションゲームの『ナマガミ』をプレイしていることは、話していたと思うが、どのキャラクターのルートを選択しているかまでは、彼女に話していなかったハズだ。
だが、ワカ姉は、キッパリと言い切る。
「でも、わかっちゃうんだよね~。あのゲームのキャラクターだと、一般的男子からは幼なじみの桜田志穂子が支持されるだろうし、ギャルゲーのファンからはクール系な後輩キャラの七崎愛ちゃんが人気みたいだけど……これまでの推しキャラの傾向からして、宗重は、仮面優等生で性格に裏表のある綾辻さん一択なんだろうなぁ………ってね」
―――ワカ姉、なんでも言うこと聞くから、それ以上、オレの推しの傾向とか、性癖を分析するのは、やめてくれ……。
最後は、半分くらい涙目になりながら、オレは叔母に懇願した。
スマホのスピーカーからは、再びアハハと笑うワカ姉の声が聞こえる。
以前にも感じたことではあるが、二次元キャラクターの好みを完璧に把握している親類とは、こういう時に、本当に話しがしづらい。
たしかに、彼女が言うとおり、オレは性格に難があったり裏表があったりする、口の悪い仮面優等生的なキャラクターに惹かれる傾向がある。
そして、いまにして思えば、オレのそんな趣味嗜好を形作ったのは、保育園の頃に同じクラスだった歯に衣着せぬ物言いをする気の強い女の子なのだ。
だけど――――――。
二次元のキャラクターだったり、白草四葉ちゃんのような、最初から手が届かないと理解っている相手ならば、気軽に推しだったり、憧れだという想いを口にすることは出来る。
だが、同じクラスに所属している相手では、話しが異なってくるのだ。
自分のような取るに足りない存在のモブキャラが、読者モデルをこなすような同世代の相手に相応しいのか、と考えると、とてもじゃないが、その答えを前向きに予想することなど出来るハズもない。
ましてや、オレは、幼い日に彼女と交わした、
「いつか、リッちゃんみたいに、誰かを笑顔に出来るようになるから!」
という約束を果たせるような存在にはなれていないのだ。
それは、放課後に二人きりで彼女と語り合ったとき、幼い日を思い出した懐かしさや切なさ以上に、現在の自分の不甲斐なさを感じて、何を話せば良いのかわからず、上手くコミュニケーションを取ることが出来なかったことから、強く自覚させられた。
(きっと、リッちゃんは、いまの自分に幻滅しているんだろうな…………)
と感じると、明日から、どんな顔をして彼女と向き合えば良いのかわからず、ほの暗い感情が胸の奥からこみ上げて来る。
そんなことを考えながら、黙りこんでしまったオレに、ワカ姉は優しく声をかけてきた。
「あ~、悪かったね。ちょっと、イジり過ぎちゃったか……もし、悩んでいることがあるなら、解決することは出来なくても、話しくらいは聞くからさ。これまでみたいに、いつでも話して来なよ」
―――ん? あぁ、ありがとう。じゃあ、そうさせてもらう。
「それと、私の考えたラブコメ十戒に、『探偵は、読者に提示していない手がかりによって謎を解決してはならない』を下敷きにした、『主人公がヒロインを好きになるきっかけは、全て明白に記述されていなくてはならない』ってのがあるからさ。自分の気持ちには、いつも正直になるようにしときなよ」
―――あぁ、わかった。
オレが短く返事をすると、「それじゃ、機会があったら、ラブコメ十戒を全部聞かせてあげるよ!」と明るく言って、ワカ姉は、通話を切った。
叔母との会話を終えて、ベッドに横になりながら、これまでの会話の内容を整理しつつ、オレは考える。
ワカ姉が言うように、ミステリー小説のお約束にしたがって、『ホワイダニット』 = 「なぜ好きになったか」が、簡単に明示されたら、こんなに悩むこともないのに、と……。
最近のラノベやウェブ小説は、読者の共感を呼びやすい一人称視点で物語を進行しつつも、要所で主人公以外の登場人物の独白が差し込まれ、読者には、主人公が知り得ない他者の感情が開示されることが多い。
ラブコメジャンルの作品なら、まさにミステリーで真の動機が解明されるかのごとく、異性のキャラクターが主人公に惚れる理由を解りやすく読者に語ってくれるのだが……。
現実は、フィクションではない。
ミステリー小説やサスペンスドラマのごとく、崖の上で追い詰められた犯人が都合よく、自らの過去や動機を洗いざらい語ったりするように、リッちゃんは、自分の想いのすべてをわかりやすくオレに伝える訳ではないのだ。
(ネタバレ禁止なんてルールは取り去って、彼女の本当の気持ちを知れたらなぁ……)
などと、情けないことを想いつつも、彼女の性格について考えると、その現実感の無さにため息が漏れる。
そう、むかし大ヒットしたラノベのタイトルじゃないが、『オレの幼なじみがそんなに素直なわけがない』のだ。
そして、
(リッちゃんは、いまのオレに幻滅してるだろうし……もうクラスでも話しかけてくることもないんだろうなぁ)
と、悲しい現実に目を向けながら、またもぼっちの日々が始まるだろう翌日の教室の光景を想像して、切ない感情が押し寄せてくるのを止めることが出来なかった。
久々知とリッカの交際に関する真相を聞かされたことで、幼なじみ復縁計画に一定のメドが立ったと判断したオレが、最近おこった一連の事件(?)をワカ姉に説明すると、彼女は、カラカラと笑いながら感想を語った。
―――いや、ミステリーじゃないし、誰も死んでないし!
オレが、そうツッコミを入れると、ワカ姉は、冗談めかした口調ながらも、論理的に持論を展開する。
「いやいや、ミステリー小説の手法は、ラブコメにも応用できるんだよ、ワトソン君。たとえば、ミステリ―の『フーダニット(だれがやったか)』『ハウダニット(どうやったか)』『ホワイダニット(なぜやったか)』は、ラブコメにおいて、『誰が主人公の恋人となるか』『いかにして両想いになるか』『なぜ好きになったか』にそのまま置き換えることができるんだな、これが」
いつものように、突飛なことを言いながらも、妙に説得力のある自説を聞かせてくれる彼女の話術に引っ掛かったオレは、思わず身を乗り出すように話しに食いつく。
―――その説、詳しく聞かせてよ。
「おっ! ノッて来たじゃん。じゃあ、リクエストに応えようか? ミステリーにつきもののトリックもラブコメに応用できるよ。ちょっと、ベタだけど、たとえば双子の入れ替わりトリック。双子のうち、片方と仲良くして、両想いになったと思ったら、それが実は変装したもう片方だった、とか? ありがちでしょ(笑)?」
―――まあ、たしかに。あとは、恋した相手が、二重人格だったってラブコメもあったよ。
「他にも、バールストン先攻法ってヤツね。これは、真犯人である人物を死体偽装などで、既に死んでしまったかのように見せかけて、読者がその人物を容疑者から外すようにし向ける手法のことなんだけど……あるヒロインが早々に別の男と付き合いはじめて恋愛戦線から離脱……したと見せかけて実は主人公のことが好きだった、とかね」
―――おぉ、それも良く見るパターンだ! なんだよ、結局、主人公のこと好きなんじゃないか……って、ニヤけるやつ!
「あとは、叙述トリック。憧れのあのヒロインが一人称視点で秘めた想いを語っているかと思ったら、実はその親友のクール系美少女の独白だった、とか?」
―――最近のラノベやウェブ小説は、一人称視点が圧倒的に多いから、その手法は逆手に取れるかも!
「最後に上げるのは、トリックではないけど、作品タイトルなどからメインヒロインが確定的に明らかな場合は『倒叙』ってジャンルになるんだろうね。アンタの年齢じゃリアルタイムで視聴していないだろうけど、『刑事コ◯ンボ』や『警部補古◯任三郎』みたいに会話劇を楽しむタイプのミステリーは……」
―――それは、特定の相手との会話やイチャイチャシーンを楽しむラブコメってこと?
「そうそう! さすが、我が甥っ子! これまで、色んな作品を読ませてきた甲斐があったわ」
ワカ姉は、そう言いながら、また楽しそうにケラケラと笑う。
しかし、そのあと、一転して声のトーンを落とし、気になることを言ってきた。
「ふむり、ふむり……だけど、ここまでの宗重の話しを振り返ると気になることがあるなぁ……私の認識では、アンタの話しに最初に登場したのは、クラス委員の幼馴染ちゃんだったんだよね。でも、彼女は、その小さいときから仲の良かった男子のクラス委員くんとのフラグが立ちつつある。一方で、宗重の幼なじみだってことが判明した転校生ちゃんや、気弱キャラの銀髪ちゃんは、ちょっと、登場するのが遅かったような……」
―――あの……なに言ってんの、ワカ姉?
オレの疑問符付きの問いかけが耳に届いたのかはわからないが、彼女は、ふたたび独特の持論を語り始めた。
「私の考えた『ミステリーの十戒』を下敷きにした『ラブコメの十戒』では、『勝ちヒロインは、物語の当初に登場していなければならない』ってのがあるのよ。この法則を守らないと、平成最大のヒット作の汎用人型決戦兵器で戦うあのアニメみたいに、最後の劇場版で『なんで、あのポッと出の眼鏡とくっつくんだ、シ◯ジ君!』って、観客にツッコミを入れられるんだから!」
―――いや、リアルタイム世代じゃないオレには、その感覚、わからんし……。
「あと、アンタが主張してたように『りんご100%』も、最初に出会った東郷ちゃんと主人公が結ばれなかったことで賛否が起こったでしょう? 雛鳥が初めて目にする動く相手を親鳥だと感じるように、物語に最初に登場するヒロインってのは、読者に大きな印象を与えるからね。それだけ大事なのよ!」
―――いやいや、現実はラブコメ物語じゃないって。
オレは、ワカ姉の自説にツッコミを入れる。あと、付け加えておくと、今のところ令和最大のラブコメヒット作と言って良い五つ子の家庭教師を務める作品では、最初に出会う末っ子は主人公と結ばれなかったが、そのことは、それほど重要視されていないハズだ。
そんなことを考えていると、サブカル方面の師匠である叔母は、「だけどねぇ……」と、またも、声のトーンを一変させたあと、語り続ける。
「前にも言ったけど、宗重の話しを聞いた限りじゃ、転校生ちゃんの性格って、ラノベの『どらドラ!』の河嶋亜依ちゃんとか、『底辺キャラ 外崎くん』の木南蒼ちゃんに似てる感じがするんだよね~。この前までプレイしていた『ナマガミ』でも、どうせ綾辻さんを選んでるでしょ? 転校生ちゃんの性格は、アンタの性癖にドンピシャじゃん(笑)?」
―――ッ!!!! ワカ姉、余計なこと言わなくて良いから!!
オレが反論すると、叔母は、「ゴメン! ゴメン!」と言いながら、アハハと笑う。
恋愛シミュレーションゲームの『ナマガミ』をプレイしていることは、話していたと思うが、どのキャラクターのルートを選択しているかまでは、彼女に話していなかったハズだ。
だが、ワカ姉は、キッパリと言い切る。
「でも、わかっちゃうんだよね~。あのゲームのキャラクターだと、一般的男子からは幼なじみの桜田志穂子が支持されるだろうし、ギャルゲーのファンからはクール系な後輩キャラの七崎愛ちゃんが人気みたいだけど……これまでの推しキャラの傾向からして、宗重は、仮面優等生で性格に裏表のある綾辻さん一択なんだろうなぁ………ってね」
―――ワカ姉、なんでも言うこと聞くから、それ以上、オレの推しの傾向とか、性癖を分析するのは、やめてくれ……。
最後は、半分くらい涙目になりながら、オレは叔母に懇願した。
スマホのスピーカーからは、再びアハハと笑うワカ姉の声が聞こえる。
以前にも感じたことではあるが、二次元キャラクターの好みを完璧に把握している親類とは、こういう時に、本当に話しがしづらい。
たしかに、彼女が言うとおり、オレは性格に難があったり裏表があったりする、口の悪い仮面優等生的なキャラクターに惹かれる傾向がある。
そして、いまにして思えば、オレのそんな趣味嗜好を形作ったのは、保育園の頃に同じクラスだった歯に衣着せぬ物言いをする気の強い女の子なのだ。
だけど――――――。
二次元のキャラクターだったり、白草四葉ちゃんのような、最初から手が届かないと理解っている相手ならば、気軽に推しだったり、憧れだという想いを口にすることは出来る。
だが、同じクラスに所属している相手では、話しが異なってくるのだ。
自分のような取るに足りない存在のモブキャラが、読者モデルをこなすような同世代の相手に相応しいのか、と考えると、とてもじゃないが、その答えを前向きに予想することなど出来るハズもない。
ましてや、オレは、幼い日に彼女と交わした、
「いつか、リッちゃんみたいに、誰かを笑顔に出来るようになるから!」
という約束を果たせるような存在にはなれていないのだ。
それは、放課後に二人きりで彼女と語り合ったとき、幼い日を思い出した懐かしさや切なさ以上に、現在の自分の不甲斐なさを感じて、何を話せば良いのかわからず、上手くコミュニケーションを取ることが出来なかったことから、強く自覚させられた。
(きっと、リッちゃんは、いまの自分に幻滅しているんだろうな…………)
と感じると、明日から、どんな顔をして彼女と向き合えば良いのかわからず、ほの暗い感情が胸の奥からこみ上げて来る。
そんなことを考えながら、黙りこんでしまったオレに、ワカ姉は優しく声をかけてきた。
「あ~、悪かったね。ちょっと、イジり過ぎちゃったか……もし、悩んでいることがあるなら、解決することは出来なくても、話しくらいは聞くからさ。これまでみたいに、いつでも話して来なよ」
―――ん? あぁ、ありがとう。じゃあ、そうさせてもらう。
「それと、私の考えたラブコメ十戒に、『探偵は、読者に提示していない手がかりによって謎を解決してはならない』を下敷きにした、『主人公がヒロインを好きになるきっかけは、全て明白に記述されていなくてはならない』ってのがあるからさ。自分の気持ちには、いつも正直になるようにしときなよ」
―――あぁ、わかった。
オレが短く返事をすると、「それじゃ、機会があったら、ラブコメ十戒を全部聞かせてあげるよ!」と明るく言って、ワカ姉は、通話を切った。
叔母との会話を終えて、ベッドに横になりながら、これまでの会話の内容を整理しつつ、オレは考える。
ワカ姉が言うように、ミステリー小説のお約束にしたがって、『ホワイダニット』 = 「なぜ好きになったか」が、簡単に明示されたら、こんなに悩むこともないのに、と……。
最近のラノベやウェブ小説は、読者の共感を呼びやすい一人称視点で物語を進行しつつも、要所で主人公以外の登場人物の独白が差し込まれ、読者には、主人公が知り得ない他者の感情が開示されることが多い。
ラブコメジャンルの作品なら、まさにミステリーで真の動機が解明されるかのごとく、異性のキャラクターが主人公に惚れる理由を解りやすく読者に語ってくれるのだが……。
現実は、フィクションではない。
ミステリー小説やサスペンスドラマのごとく、崖の上で追い詰められた犯人が都合よく、自らの過去や動機を洗いざらい語ったりするように、リッちゃんは、自分の想いのすべてをわかりやすくオレに伝える訳ではないのだ。
(ネタバレ禁止なんてルールは取り去って、彼女の本当の気持ちを知れたらなぁ……)
などと、情けないことを想いつつも、彼女の性格について考えると、その現実感の無さにため息が漏れる。
そう、むかし大ヒットしたラノベのタイトルじゃないが、『オレの幼なじみがそんなに素直なわけがない』のだ。
そして、
(リッちゃんは、いまのオレに幻滅してるだろうし……もうクラスでも話しかけてくることもないんだろうなぁ)
と、悲しい現実に目を向けながら、またもぼっちの日々が始まるだろう翌日の教室の光景を想像して、切ない感情が押し寄せてくるのを止めることが出来なかった。
2
あなたにおすすめの小説
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる