フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁

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第4章~オレの幼なじみがこんなに素直なわけがない~第14話

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「いや~、ここに来て、まさか転校生ちゃんと宗重にそんな因縁があったことが判明するとは! しかも、その相手が園児だった宗重の名演技を引き出した黒いケモノを演じてたあのコだったなんて、ミステリー小説も裸足で逃げ出すドンデン返しだね~? ここまで、ちゃんと伏線が貼られていたのか、内容を振り返ってチェックしないと!」

 久々知とリッカの交際に関する真相を聞かされたことで、幼なじみ復縁計画に一定のメドが立ったと判断したオレが、最近おこった一連の事件(?)をワカねえに説明すると、彼女は、カラカラと笑いながら感想を語った。

 ―――いや、ミステリーじゃないし、誰も死んでないし!

 オレが、そうツッコミを入れると、ワカねえは、冗談めかした口調ながらも、論理的に持論を展開する。

「いやいや、ミステリー小説の手法は、ラブコメにも応用できるんだよ、ワトソン君。たとえば、ミステリ―の『フーダニット(だれがやったか)』『ハウダニット(どうやったか)』『ホワイダニット(なぜやったか)』は、ラブコメにおいて、『誰が主人公の恋人となるか』『いかにして両想いになるか』『なぜ好きになったか』にそのまま置き換えることができるんだな、これが」

 いつものように、突飛なことを言いながらも、妙に説得力のある自説を聞かせてくれる彼女の話術に引っ掛かったオレは、思わず身を乗り出すように話しに食いつく。

 ―――その説、詳しく聞かせてよ。

「おっ! ノッて来たじゃん。じゃあ、リクエストに応えようか? ミステリーにつきもののもラブコメに応用できるよ。ちょっと、ベタだけど、たとえば双子の入れ替わりトリック。双子のうち、片方と仲良くして、両想いになったと思ったら、それが実は変装したもう片方だった、とか? ありがちでしょ(笑)?」

 ―――まあ、たしかに。あとは、恋した相手が、二重人格だったってラブコメもあったよ。

「他にも、バールストン先攻法ギャンビットってヤツね。これは、真犯人である人物を死体偽装などで、既に死んでしまったかのように見せかけて、読者がその人物を容疑者から外すようにし向ける手法のことなんだけど……あるヒロインが早々に別の男と付き合いはじめて恋愛戦線から離脱……したと見せかけて実は主人公のことが好きだった、とかね」

 ―――おぉ、それも良く見るパターンだ! なんだよ、結局、主人公のこと好きなんじゃないか……って、ニヤけるやつ!

「あとは、叙述トリック。憧れのあのヒロインが一人称視点で秘めた想いを語っているかと思ったら、実はその親友のクール系美少女の独白だった、とか?」

 ―――最近のラノベやウェブ小説は、一人称視点が圧倒的に多いから、その手法は逆手に取れるかも!

「最後に上げるのは、トリックではないけど、作品タイトルなどからメインヒロインが確定的に明らかな場合は『倒叙とうじょ』ってジャンルになるんだろうね。アンタの年齢じゃリアルタイムで視聴していないだろうけど、『刑事コ◯ンボ』や『警部補古◯任三郎』みたいに会話劇を楽しむタイプのミステリーは……」

 ―――それは、特定の相手との会話やイチャイチャシーンを楽しむラブコメってこと?

「そうそう! さすが、我が甥っ子! これまで、色んな作品を読ませてきた甲斐があったわ」

 ワカねえは、そう言いながら、また楽しそうにケラケラと笑う。
 しかし、そのあと、一転して声のトーンを落とし、気になることを言ってきた。

「ふむり、ふむり……だけど、ここまでの宗重の話しを振り返ると気になることがあるなぁ……私の認識では、アンタの話しに最初に登場したのは、クラス委員の幼馴染ちゃんだったんだよね。でも、彼女は、その小さいときから仲の良かった男子のクラス委員くんとのフラグが立ちつつある。一方で、宗重の幼なじみだってことが判明した転校生ちゃんや、気弱キャラの銀髪ちゃんは、ちょっと、登場するのが遅かったような……」

 ―――あの……なに言ってんの、ワカねえ

 オレの疑問符付きの問いかけが耳に届いたのかはわからないが、彼女は、ふたたび独特の持論を語り始めた。

「私の考えた『ミステリーの十戒』を下敷きにした『ラブコメの十戒』では、『勝ちヒロインは、物語の当初に登場していなければならない』ってのがあるのよ。この法則を守らないと、平成最大のヒット作の汎用人型決戦兵器で戦うあのアニメみたいに、最後の劇場版で『なんで、あのポッと出の眼鏡とくっつくんだ、シ◯ジ君!』って、観客にツッコミを入れられるんだから!」

 ―――いや、リアルタイム世代じゃないオレには、その感覚、わからんし……。

「あと、アンタが主張してたように『りんご100%』も、最初に出会った東郷ちゃんと主人公が結ばれなかったことで賛否が起こったでしょう? 雛鳥ひなどりが初めて目にする動く相手を親鳥おやどりだと感じるように、物語に最初に登場するヒロインってのは、読者に大きな印象を与えるからね。それだけ大事なのよ!」

 ―――いやいや、現実はラブコメ物語じゃないって。

 オレは、ワカねえの自説にツッコミを入れる。あと、付け加えておくと、今のところ令和最大のラブコメヒット作と言って良い五つ子の家庭教師を務める作品では、最初に出会う末っ子は主人公と結ばれなかったが、そのことは、それほど重要視されていないハズだ。

 そんなことを考えていると、サブカル方面の師匠である叔母は、「だけどねぇ……」と、またも、声のトーンを一変させたあと、語り続ける。

「前にも言ったけど、宗重の話しを聞いた限りじゃ、転校生ちゃんの性格って、ラノベの『どらドラ!』の河嶋亜依かわしまあいちゃんとか、『底辺キャラ 外崎とのざきくん』の木南蒼きなみあおいちゃんに似てる感じがするんだよね~。この前までプレイしていた『ナマガミ』でも、どうせ綾辻あやつじさんを選んでるでしょ? 転校生ちゃんの性格は、アンタのにドンピシャじゃん(笑)?」

 ―――ッ!!!! ワカねえ、余計なこと言わなくて良いから!!

 オレが反論すると、叔母は、「ゴメン! ゴメン!」と言いながら、アハハと笑う。

 恋愛シミュレーションゲームの『ナマガミ』をプレイしていることは、話していたと思うが、どのキャラクターのルートを選択しているかまでは、彼女に話していなかったハズだ。

 だが、ワカねえは、キッパリと言い切る。

「でも、わかっちゃうんだよね~。あのゲームのキャラクターだと、一般的男子からは幼なじみの桜田志穂子が支持されるだろうし、ギャルゲーのファンからはクール系な後輩キャラの七崎愛ちゃんが人気みたいだけど……これまでの推しキャラの傾向からして、宗重は、仮面優等生で性格に裏表のある綾辻さん一択なんだろうなぁ………ってね」

 ―――ワカねえ、なんでも言うこと聞くから、それ以上、オレの推しの傾向とか、性癖を分析するのは、やめてくれ……。

 最後は、半分くらい涙目になりながら、オレは叔母に懇願した。
 スマホのスピーカーからは、再びアハハと笑うワカねえの声が聞こえる。
 
 以前にも感じたことではあるが、二次元キャラクターの好みを完璧に把握している親類とは、こういう時に、本当に話しがしづらい。
 
 たしかに、彼女が言うとおり、オレは性格に難があったり裏表があったりする、口の悪い仮面優等生的なキャラクターに惹かれる傾向がある。
 そして、いまにして思えば、オレのそんな趣味嗜好を形作ったのは、保育園の頃に同じクラスだった歯に衣着せぬ物言いをする気の強い女の子なのだ。

 だけど――――――。

 二次元のキャラクターだったり、白草四葉ちゃんのような、最初から手が届かないと理解わかっている相手ならば、気軽に推しだったり、憧れだという想いを口にすることは出来る。
 だが、同じクラスに所属している相手では、話しが異なってくるのだ。

 自分のような取るに足りない存在のモブキャラが、読者モデルをこなすような同世代の相手に相応しいのか、と考えると、とてもじゃないが、その答えを前向きに予想することなど出来るハズもない。

 ましてや、オレは、幼い日に彼女と交わした、

「いつか、リッちゃんみたいに、誰かを笑顔に出来るようになるから!」

という約束を果たせるような存在にはなれていないのだ。

 それは、放課後に二人きりで彼女と語り合ったとき、幼い日を思い出した懐かしさや切なさ以上に、現在の自分の不甲斐なさを感じて、何を話せば良いのかわからず、上手くコミュニケーションを取ることが出来なかったことから、強く自覚させられた。

(きっと、リッちゃんは、いまの自分に幻滅しているんだろうな…………)

 と感じると、明日から、どんな顔をして彼女と向き合えば良いのかわからず、ほの暗い感情が胸の奥からこみ上げて来る。

 そんなことを考えながら、黙りこんでしまったオレに、ワカねえは優しく声をかけてきた。

「あ~、悪かったね。ちょっと、イジり過ぎちゃったか……もし、悩んでいることがあるなら、解決することは出来なくても、話しくらいは聞くからさ。これまでみたいに、いつでも話して来なよ」

 ―――ん? あぁ、ありがとう。じゃあ、そうさせてもらう。

「それと、私の考えたラブコメ十戒に、『探偵は、読者に提示していない手がかりによって謎を解決してはならない』を下敷きにした、『主人公がヒロインを好きになるきっかけは、全て明白に記述されていなくてはならない』ってのがあるからさ。自分の気持ちには、いつも正直になるようにしときなよ」

 ―――あぁ、わかった。

 オレが短く返事をすると、「それじゃ、機会があったら、ラブコメ十戒を全部聞かせてあげるよ!」と明るく言って、ワカねえは、通話を切った。

 叔母との会話を終えて、ベッドに横になりながら、これまでの会話の内容を整理しつつ、オレは考える。

 ワカねえが言うように、ミステリー小説のお約束にしたがって、『ホワイダニット』 = 「なぜ好きになったか」が、簡単に明示されたら、こんなに悩むこともないのに、と……。

 最近のラノベやウェブ小説は、読者の共感を呼びやすい一人称視点で物語を進行しつつも、要所で主人公以外の登場人物の独白が差し込まれ、読者には、主人公が知り得ない他者の感情が開示されることが多い。

 ラブコメジャンルの作品なら、まさにミステリーで真の動機が解明されるかのごとく、異性のキャラクターが主人公に惚れる理由を解りやすく読者に語ってくれるのだが……。

 現実は、フィクションではない。

 ミステリー小説やサスペンスドラマのごとく、崖の上で追い詰められた犯人が都合よく、自らの過去や動機を洗いざらい語ったりするように、リッちゃんは、自分の想いのすべてをわかりやすくオレに伝える訳ではないのだ。

(ネタバレ禁止なんてルールは取り去って、彼女の本当の気持ちを知れたらなぁ……)

 などと、情けないことを想いつつも、彼女の性格について考えると、その現実感の無さにため息が漏れる。
  
 そう、むかし大ヒットしたラノベのタイトルじゃないが、『オレの幼なじみがそんなに素直なわけがない』のだ。

 そして、

(リッちゃんは、いまのオレに幻滅してるだろうし……もうクラスでも話しかけてくることもないんだろうなぁ)

と、悲しい現実に目を向けながら、またもぼっちの日々が始まるだろう翌日の教室の光景を想像して、切ない感情が押し寄せてくるのを止めることが出来なかった。
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